捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
「どれもこれも穂高さんのせいではないでしょう? みんな、穂高さんに助けられているんです。だから、もう謝らないでください。私は穂高さんに助けてもらえて幸せです」

「……莉子さんは変わらないね。あのときもそうやって俺を励ましてくれた」
「励ますもなにも、真実を言ったまでですよ」

握られていた手がゆるりと解かれる。その手が、私の頬を柔らかく撫でた。指が唇を掠めていく。

「……キスしてもいい?」
「……はい」

ほんの少し、穂高さんの方へ顔を寄せる。穂高さんの手が私の後頭部を包み、引き寄せた。

唇と唇を寄せ合う、触れるだけのキス。
柔らかな感触が、じんわりと伝わってくる。
離れるのが名残惜しいくらい。
まるで愛されているかのように錯覚して胸が熱くなる。

なんの躊躇いもなく、キスをしてしまった。余韻がじわじわと体の奥を震わせる。嬉しくて泣きそうになった。
だけど、ふとあの言葉が頭をよぎる。

――莉子さんって下手なんだ

今のキスも、下手だったらどうしよう。
穂高さんが幻滅してしまったら……

「……もう一回してもいい?」
「え?もう一回してくれるんですか?」

驚きすぎて少し大きな声が出てしまった。ふいに穂高さんの肩が小刻みに揺れたかと思うと、穂高さんのおでこが私のおでこにコツンとぶつかる。

「……くくっ。その反応は予想外だった」
「えっ?だ、だって、私そういうの下手だって言われて、だから穂高さんにもそう思われてたら嫌だなって思って」
「誰に言われたの?」
「えっと、雄一と桃香ちゃ――んぅっ」

言い終わる前に、唇が塞がれる。
温かな感触が唇をするりと割って、口内をねっとりと舐めあげた。深くて濃厚なキスに、頭が真っ白になる。
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