捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
息ができないくらいに、角度を変えながら何度も唇を食べられる。ときどき、ちゅっという艶めかしいリップ音が鼓膜に刺激を与えていく。

「っはぁっ……」

ようやく離れると、大きく息が漏れた。いつの間にか穂高さんから見下される体勢になっている。

「何を言われたか知らないけど、彼らの言葉はすべて嘘だから。そもそも、こういう行為に上手いも下手もない。相手を思いやる気持ちがないから、そういう考えになるんだ」
「でも……」
「莉子さんはそれを思い悩んでいるの?」
「悩んでいるというか、心に引っかかっているというか……」

ああ、私ったら何を言っているんだろう。こんなこと、穂高さんに言うつもりなんてないのに。だってこんなの、雄一とセックスしてましたって言っているようなものじゃない。そんな私とキスなんてしちゃって、嫌な気持ちになったよね?

「あの、なんでもな――」
「じゃあ、試してみる?」
「えっ?」
「俺と今から」

試す?試すって、つまり穂高さんとセッ……!
想像したら一瞬で頭が爆発した。そんな、そんな、穂高さんとそういうことを望んでいなかったわけじゃないけど、でもまさか、そんなことあるはずないって思ってて。だってこれは利害の一致婚だし、たまたま一緒のベッドで寝ているだけだし。

あ、あ、そっか。もしかしてこれが“報酬は莉子”の報酬なのかな? だとしたらお受けするべきだと思うし。いや、だけど、どうしたらいいの――?

「なんとなく、真っ赤な顔をしている気がするけど、ライトつけてもいい?」
「だっ、ただだだダメです!絶対ダメ!無理!」
「可愛い顔が見たいのに」
「かっ、可愛くなんてっ」
「そう?ずっと見ていたいけど」

惜しげもなく見つめられて、いよいよ私は両手で顔を覆った。恥ずかしすぎるし、穂高さんが甘い。なんだかもう、本当に愛されていると勘違いしちゃう。どうしよう、心臓がバクバクうるさく鳴り始めて壊れちゃいそう。もしかして揶揄われてるとか?  そういうことだったりする?
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