捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
穂高さんの車で中心街の方まで出る。ビルの立ち並ぶオフィス街。近くのコインパーキングに車を止めて、高くそびえ立つビルの一階に入った。こんなところに何があるのだろうと思っていたけれど、お茶の老舗である塚本屋が自社ビルで展開するカフェだった。

「ここで朝食をとってから、佐倉さんへの手土産を買っていこう」
「お茶のいい香りがしますね」
「珈琲も紅茶もあるから、迷ってしまうかもね」

店内はゆったりとしたBGМが流れ、どこかノスタルジック。ソレイユに似ているかもしれない。メニューを開けば、モーニングセットとしてトーストだけじゃなくお茶漬けや甘味まで、種類豊富に揃っている。

「うわぁ、すごい。こんなにたくさんの種類があるんだ。キッチンどうなってるんだろう。思ったより店員さんは少ないけど」

一人ぶつぶつと呟いていると、穂高さんにくすくす笑われていた。「勉強熱心でいいと思う」なんて言われてしまって恥ずかしい。
穂高さんはコーヒーとトーストを、私はせっかくなのでお茶漬けを注文した。ゆったりとした時間にしばし微睡む。

普段だったらこの時間、私もソレイユを開店させて働いていた。ゆっくりするのもいいけど、やっぱり私は働きたいな、なんてことをぼんやり思いながらお茶漬けをいただいた。

ちょうどいい温かさとお出汁の旨味が体いっぱいに広がって、幸せな気持ちになった。
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