捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
11.未来
ソレイユを正式に閉店することを決めた。今後のことはまだこれから考えていくことだけれど、最後に今までお世話になった方を招いておもてなしをしたいと考えた。千景さんに相談したら快く賛同してくださり、常連さんたちに声をかけてくれることになった。キッチンは結愛ちゃんが手伝ってくれる。

当日はちょっとしたパーティーで、朝から気合いを入れて準備した。キッチンに立つときゅっと身が引き締まる。
準備が大方できる頃、ソレイユの扉がカラランと軽快な音を立てて開く。

「いらっしゃいませ」
「莉子ちゃん、お招きありがとう」
「こちらこそ、来てくださってありがとうございます」

一番乗りは藤本さんご夫妻。その後もどんどん常連さんたちがやってきて、店内が賑やかになっていく。

「あっ、マスター!」

誰かの声に振り向けば、車椅子に乗った祖父と祖母がやってきた。祖父は無事に退院をして、まだ少し足が不自由ながらにも元気いっぱい。車椅子を押してくれているのは穂高さんだ。そしてお義父さんと千景さんもやってくる。

「マスター、車椅子なんて乗っちゃって。聞いたわよ〜。奥さんを困らせてたんだって?」
「元気なのに入院させるからだよ」
「困ったもんよねぇ」
「まあ、その間に息子もできたんだ。どうだ、羨ましいだろ」
「えっ!このイケメンのお兄さんが息子さん?どういうこと?」
「もしかして莉子ちゃんの旦那さん?」
「そりゃめでたいじゃないか」

急に視線が私に集まる。結愛ちゃんも両手で頬を押さえながら、「そうなの?」と興奮気味に私を見た。こくっと頷けば、「きゃぁぁぁ」なんて黄色い悲鳴を上げるし……。

「めっちゃイケメン!莉子ちゃん、めっちゃイケメンなんですけど!」
「結愛ちゃん、恥ずかしいからっ!」

穂高さんと目が合えばニコッと微笑まれ、一気に体温が上がる。
は、恥ずかしい……!

「莉子ちゃん、配膳手伝う?」
「あっ、千景さん。大丈夫です。今日は千景さんにもおもてなししたいので、座っててください」

千景さんの背を押して椅子に座ってもらう。そんなに大きくないソレイユに、今日は満員のお客様。みんな、何年もソレイユに通ってくださった常連さんばかり。

私は一歩前に出て、すうっと息を吸い込んだ。

「皆さん、今日は来てくださってありがとうございます。この度、ソレイユを閉店することにしました。長年、ソレイユをご贔屓にしてくださり本当に感謝しています。ここにソレイユがあったんだという思い出を皆さんと共有できたら嬉しく思います。今日はぜひ、ゆっくりしていってください」

大きな拍手がわき起こる。
それだけでありがたくて胸がじんと締めつけられた。
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