捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
今日のメニューはホタテの炊き込みご飯に豚汁、鶏天にひじきの煮物。朝早くから結愛ちゃんと二人で準備をした。結愛ちゃんがテキパキと盛り付けてくれ、私はそれを配膳していく。店内には揚げ物の香りが漂い、いい感じに食欲を刺激してくれる。

「わぁ、美味しそう」
「すごい、ごちそうね!」

配膳をするたびに皆さんが声をかけてくれることが嬉しくて、私は自然と笑顔になっていく。なんてあったかいのだろう。
賑やかな店内にいつものBGMがゆったりと流れる。この光景を見るのも最後かと思うと感慨深く胸に込み上げるものがあった。

皆さんが食事をしている間に、食後のコーヒーを準備する。

「莉子」

呼ばれて顔を上げると、祖父が車椅子から降りて杖をつきながらよたよたと歩いてきた。私は慌てて駆け寄り、手を添える。

「なに、お祖父ちゃん」
「俺もコーヒー淹れていいか?」
「えっ! もちろんだよ!」

祖父がカウンターに入っていくのを見た常連さんたちが、わらわらとまわりに集まってくる。

「マスターがコーヒー淹れるの?」
「俺にも淹れてくれよ」
「私も、久しぶりにマスターのコーヒー飲みたいわ」

祖父のコーヒーは大人気で、カウンター前に列ができる。祖父はつい最近まで入院していたとは思えないくらいしっかりとした手つきで、手元を操る。流れるような動きはまるで魔法みたい。

「お祖父ちゃん、大人気だね」
「俺のコーヒーは莉子が淹れてくれ」
「うん!」

二人でカウンターに立つと、昔を思い出す。祖父は凛とした佇まいで静かにコーヒーを淹れる。コポコポという耳に心地よい音が、洗練された「マスター」の風貌をより一層際立たせた。改めて祖父の偉大さをひしひしと感じて胸が熱くなる。

「どうした? 何を見てる?」
「ううん。お祖父ちゃん、かっこいいね!」

祖父は目を細め、照れくさそうにふんと笑った。祖父とこの場所にまた立てたことがとても嬉しい。まるで昔に戻ったみたい。
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