ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

婚約者の来訪

 エリーと別れ、馬車に乗ったルイーズは帰路についた。

 エリーにもらったフレッシュハーブの入った紙袋を、胸の前で大切そうに抱えていると、その紙袋からは、ハーブの穏やかな香りがほんのりと漂ってきた。ルイーズは、馬車内に広がるその香りを、芳香浴で楽しんでいるようだ。

 しばらくそんな時間を過ごしていたら、ハーブティーを飲むことが楽しみになってきたようだ。だいぶ気持ちも落ちついてきたのだろう。

 庭園のカフェから馬車に乗り、1時間ほどの時間が過ぎただろうか。馬車の窓から外の景色を見れば、見慣れた屋敷が見えてきた。他のお屋敷と比べると小さいが、焦げ茶色のレンガでつくられた建物は、緑に囲まれ郷愁的な雰囲気に包まれている。古臭いなどと言う人もいるが、ルイーズは凛と佇むその姿が、昔から大好きなのだ。

 門を潜り敷地内に入ると、屋敷の正面玄関の横には、見慣れた馬車が停まっていた。馬車を二度見するルイーズ。

「……噓でしょ……。今日の今日で、家に来るってどういうこと……? もしかして、婚約解消をしに来たのかしら。でも、先ほどの様子だと、そこまでする関係性には見えなかったわ」

 ようやく落ち着いてきたころに、婚約者本人かその関係者の来訪。ルイーズが馬車から降りると、執事のトーマスが玄関前で出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ、ルイーズお嬢様」

「ただいま戻りました。トーマス、お出迎えありがとう。でも、私の帰りを待っていたら、何時になるかわからないから、その時間は休憩してね」

「ありがとうございます、ルイーズお嬢様。私は、皆さまが、健やかに朗らかに、過ごされる姿を見守ることが、一番の幸せなのです。ですから、毎日このお出迎えはさせていただきとうございます」

「わかったわ、トーマス。いつもありがとう」
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