会えないままな軍神夫からの約束された溺愛
 ただ、こうして歩いているだけだと言うのに、物欲しげな男性から複数の視線は、あちらこちらから投げかけられ、私の身体中へと纏わり付くようだった。

 ぞくりとしたものが冷たいものが背筋を走って、まるで飢えた狼に狙われ囲まれた獲物になったような気分だった。

 初夜だって、まだで……なんなら、恋愛だってしたことがない私に、見た目だけで男性を釣れるような色気などあるはずがないのに。

 ……こんな穴だらけで行き当たりばったりの作戦が、上手くいくはずもなかったわ。

 うん。帰りましょう。ええ。もう一度……幸せな再婚作戦を練り直すために、ここは一旦出直しましょう。

 亡き夫のように優れた軍師は、撤退をする時期を、決して見逃さないと聞くわ。逃走も立派な作戦なのだと。

 帰ろうと思い直し、ドレスの裾を掴み振り返ると、そこには思いもよらぬ男性が居て目を見開き驚いてしまった。

 私からほど近くに居たのは、私より少し年上で、婚約者が一昨年亡くなるという悲劇に見舞われたらしいモラン伯爵だ。

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