会えないままな軍神夫からの約束された溺愛
 そう言えば、ヒルデガードが来たのは、サマンサよりも大分早く、キーブルグ侯爵邸に住んでいた彼がその気になれば、サマンサに家紋入りの便箋を渡すことだって容易なはずだ。

 二人で何もかも、共謀していたのだ。

「よし、殺そう。罪状は、十分なはずだ。貴族の家での窃盗、貴族の子の母を騙る詐欺師への幇助。そして、兄の妻にまで手を出そうとした。万死に値する」

「御意」

 アーロンとクウェンティンの間で、再度繰り返されたヒルデガード死刑宣告に、私は慌てて止めに入った。

「待ってください! 駄目です! 殺さないでください!」

「何故……殺してはいけないんだ。ブランシュ。兄の俺が言うのもなんだが、ヒルデガードは、これからも我が家の邪魔にしかならない。あれを生かしておけば、必ず俺たちに不利益を与えるはずだ」

 これは、アーロンの言う通りだと、私だってそう思う。

 けれど、両親を亡くしているアーロンにとって、ヒルデガードは唯一血の繋がった兄弟だと知っていた。

 私だって……肉親のエタンセル伯爵である父に言いたいことは、沢山ある。

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