会えないままな軍神夫からの約束された溺愛

16 居場所

「奥様。旦那様より、奥様にお花を届けるようにと……」

 庭師サムが私の部屋に来て、小さな花束を差し出して微笑んでいた。

「まあ……綺麗。ありがとう。アーロンは優しいわね」

 私が花束を持ち上げて顔に寄せると、とても良い匂いがした。

 アーロンは優しい。まだ数日しか過ごしていないけれど、初対面でだいぶ怖がらせてしまったと自覚はあるのか、私に対してやけに気を遣ってくれる。

「奥様。旦那様は怖い部分もありますが、奥様には優しいと思います。素直に気持ちを伝えれば、きっとわかってくださいますよ」

「……そう。そうよね。それは、私も理解してはいるんだけど……」

 アーロンが傍に居ると、なんだか身体中がむずむずとして落ち着かない。逃げ出したくなるのだ。

「それでは、儂は仕事場へと戻りますので」

 サムは小さくお辞儀をして、去ってしまった。彼はあの時の約束を守り、誰にも義母の話はしていないようだ。

 アーロンは、義母の所業を怒るだろうか……大金を出して嫁いで来た私が、家族の誰からも愛されていない女であることを知り、ガッカリするだろうか。

「そういえば……アーロンは何故、私を妻にしようと思ったのかしら?」

 私は本当に今更ながら、そのことに気がついた。

 私は義母の意向から社交界デビューもまだで、アーロンの顔も知らなかった。だとするならば、彼だって私のことを見ていないはずなのに。

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