会えないままな軍神夫からの約束された溺愛
 私は引き攣る笑顔のままで頷いた。

 ここまで言われてしまえば、流石に断ることは出来ない。彼に恥をかかせることになるし、そうなれば無作法だと非難されてしまうのは私だ。

「ああ! ありがとうございます。大変光栄です。それでは、次の曲で踊りましょう」

 モラン伯爵に促されて見れば、演奏されている曲の最も盛り上がるところで終わりそうだから、次の曲でダンスホールへと入る方が良さそうだ。

 かっ……帰りたい。この一曲だけは耐えるしかないけれど、もう無理だわ……。

 独身の貴族男性で再婚相手とするならば、今まさに目の前に居るモラン伯爵が良いのかもしれないと、私は正直に言えば以前に考えたこともあった。

 多くの貴族には、政略的な意味で両家の条件に合う婚約者が既に居て……そんな相手を結婚前に亡くしてしまうことなんて、かなり稀な例だ。

 だから、年若くて私と年齢が合うモラン伯爵は、再婚相手に丁度良いのではないかと、心のどこかで思っては居た。

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