会えないままな軍神夫からの約束された溺愛
 けれど、アーロンは話に聞いていた通り、鍛えられた肉体を持つ美男子で、不機嫌な怒り表情を見せつつも、生粋の貴族であるせいか、粗野な荒々しさは感じさせない。

 ああ。嘘でしょう……私の夫は、生きていたんだ。こうして、戻って来たんだ。

 アーロンがこうして目の前に確かに存在しているのだから、わかってはいるけれど、とても信じられなかった。だって、亡くなったと思って一年間を過ごしてきたから、覆された事実がなかなか受け止められない。

 アーロン・キーブルクがこの世にはもう居ないという前提で、妻である私は何もかもを進めて来たからだ。

 激しい迫力を持つ夫アーロンは、自分の上着を着た私の手をひっつかみ、広い会場を大股で歩き出した。

 歩く速度の速い彼に先導されて私はつんのめるようにして、早足で後に続いた。

 二人が足早に歩いても、周囲の貴族たちが戸惑う騒めきの大きさは今も増すばかりで、彼の名前を呼び止める声だって、いくつか聞こえてきた。

 けれど、アーロンは迷いなくまっすぐに前へ進み、足を止めない。やがて私たちは空気が篭もる会場を抜け、ひんやりとした外気が頬に触れた。

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