会えないままな軍神夫からの約束された溺愛
 司令官となる将軍は、戦いにおいて非常に重要な役割。単なる戦闘員ではないし、勝敗の責任を取るのも彼なのだ。

 今日、戦場に出てしまえば、なかなか帰って来ないかもしれない。せめて一言だけでも言葉を交わし、彼の無事を祈りたいと思った。

「……申し訳ありません。先ほど城より早馬が来て、旦那様も共に……」

 それから言葉を濁したクウェンティンの言わんとしていることを理解して、私はこくりと喉を鳴らした。

 早馬の急使と共に、出征するなんて……余程の緊急事態が起こったんだと、私にも理解することが出来た。

「……わかったわ。今日は確かに残念だけど、仕方ないわね」

 せっかく、アーロンが用意してくれたこの美しいドレスも……すべて、無駄になってしまう。結婚式が途中で中止になったら、最後行われることはないだろう。

 私はドレスの裾を触って、白いドレスとの名残りを惜しんだ。

「奥様。旦那様よりこちらの貴族院に提出する婚姻に関する書類をお届けするようにと、申しつけられております……奥様も、こちらにサインの方をお願いいたします」

 そう言ってクウェンティンは、私に一枚の厚い紙を差し出した。

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