会えないままな軍神夫からの約束された溺愛
「ああ。今まで顔をヴェールで覆い隠し、夫の喪中だからと万事控えめで、気が付かなかったが……」

 実際にこうして周囲の貴族たちから無遠慮な視線を向けられ注目されると、まるでお皿の上で食べられるのを待つしかない料理になった気分だった。

 ええ。私は確かに未亡人だけれど、亡き夫の喪明けを済ませたのだから、これからは誰とでも恋愛も結婚だって出来るはず。

 ……だけど、私は生まれてからこれまで、書類上の夫とも誰とも恋愛も結婚もしたことがなかった。

 つまり、こうして貴族の社交場である夜会に来たからって、何をどうして恋愛を始めれば良いのかなんて何も知らない。

 わざわざこんな色気あるドレスを着て、この夜会へとやって来た当初の目的も忘れ、くるりと方向転換をして一目散に走って逃げ出したくなった。

 現在着用しているドレスは、我が家御用達のメゾンで勧められた、光沢のある深紅の生地で出来た装飾を極力排除したデザインの大人っぽいドレス。

 良く叩かれて艶が出た絹がとてもとても高価であることは、お目の高い貴族たちには、一目見てわかるはず。

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