会えないままな軍神夫からの約束された溺愛
 私は信じられない事態に、クウェンティンの前に出てヒルデガードの腕を掴み懇願した。

「止めてください! お願いします。クウェンティンに、手を出さないで!」

「奥様。どうか、僕にご命令を。今、ここで彼を殺します」

 静かに私に聞いたクウェンティンを振り返り、彼の瞳を見て、ぞくりと肌が粟だった。

 クウェンティンは従順な執事としての顔しか見せていなくて、冷徹な表情などこれまでに見たことがなかったから。

「……なんてことを! この方は、アーロン様の弟君なのよ」

「ですが……奥様」

 ここで自分を止めるなんて意味がわからないと、不可解そうなクウェンティン……とは言っても、ここでヒルデガードを殺すようになんて、命令出来るはずがない。

 悔しそうなクウェンティンを宥めるように、私は彼の二の腕を摩った。貴族に仕える使用人が主家に逆らえば、立派な犯罪行為になってしまう。

 ヒルデガードはクウェンティンの髪からパッと手を離し、自分を睨みつける執事を鼻で笑った。

< 42 / 198 >

この作品をシェア

pagetop