会えないままな軍神夫からの約束された溺愛
 クウェンティンはいつもは丁寧な言葉づかいで行儀良い子なのだけど、すぐに殺す殺すと言い出してしまう。

 アーロンに拾われた時は下町に居たと聞いたから、その時の言葉遣いが、まだ抜けないのかもしれない。

「……ですが、今は亡き旦那様のお子さんを妊娠しているかもしれない女性を、このまま捨て置けません。こうした夫の責任を取るのも、妻としての勤め。お産が落ち着くまで、この邸で面倒をみます。サマンサさん。離れを用意させます」

「ああ! ありがとうございます! ご温情に感謝いたします!」

 妊娠しているというのに、たった一人で心細かっただろうし、周囲の人目も憚らず泣き出したサマンサを見て、私はなんとも物悲しい気持ちになった。

 亡き夫アーロンは、妻である私には指一つ触れずに亡くなってしまったけれど、この女性には……。

 ああ。誰かが……どこからか、嘲り笑っている声が、耳に聞こえて来る。

 お前は不幸から、逃げられる訳なんてない……これだって、それ見たことでしょうと。

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