まぶしいほど、まっすぐ!
第一話
〇櫻貴ユニバーサル高等学校 校舎内 (昼休み)
学校の制服を着た女子生徒たちが、廊下でたむろしている。
女子生徒a「今度のモデコン。誰が一位になると思う?」
女子生徒b「そんなの三年の『ココア』先輩に決まってんじゃん」
女子生徒C「可愛くて性格ヨキって、もうパーフェクトだもんね」
女子生徒d「この前、モデル科の教室の前で見たんだけど」
「ギューってしたくなるくらいカワエかったよ」
プリントの束を胸に抱いた夢奈珠李は、女子生徒たちを横目に脇をすり抜けて行く。
ずり落ちた眼鏡を指で押し上げる。
珠李(そっか、もうすぐモデルコンテストなんだ……)
(ウチのクラスの女子代表は、やっぱりモデル科の白河さんなんだろうな)
珠李はクラスメートの白河ソナタの顔を思い浮かべる。
珠李(じゃあ、男子は──)
珠李が歩く前方に四人の男子生徒。
珠李(三年の人たちだ)
(どうして二年生のフロアにいるんだろ)
三人が一人の男子生徒を取り囲むようにして、どこかに向かって歩いて行く。刑事たちが犯人を連行する時のような感じで、物々しい雰囲気。
珠李は真ん中にいる男子生徒の横顔を見て息を呑む。
珠李(あの人は──)
慌てて後を追う。
〇階段の踊り場 (昼休み)
三人の男子生徒に囲まれる春風漣。
男子生徒a「『バケモノ』が視えるっていう二年の春風ってのはお前なんだろ?」
春風「だったらなんです」
男子生徒b「聞いた話じゃ、『バケモノ』と会話ができるそうじゃん」
男子生徒c「(小馬鹿にしたように)なんて言ってんのか聞いてくれよ」
春風「そうですね」
「こんなバカたちに関わるな、って言ってます」
身を隠して盗み聞きしていた珠李は驚愕の表情。
男子生徒aは春風の胸ぐらをつかむ。
男子生徒a「てめえ!」
珠李「キ、キンタが来たよ!」
生活指導の教師の名前を聞いた男子生徒たちは一斉に体を震わせる。
男子生徒c「また今度、ゆっくりと話しを聞かせてもらうからな」
男子生徒は足早に立ち去る。
春風が無事に解放されたのを見届けた珠李は、ホッと一息つく。安心すると力が抜けてしまい、床にへたり込む。
珠李(良かった……)
(ん?)
影が珠李を覆う。
顔を上げると、目の前に春風。
春風「生活指導のキンタが来たってのは、勘違いだったようだな」
春風は珠李の前にしゃがみ込む。*いわゆる「ヤンキー座り」
春風「確か」
「夢奈、だったよな」
珠李「わ、私の名前、し、し、知ってるの?」
春風「(苦笑しながら)そりゃあ知ってるさ」
「ウチの月組は個性的なヤツばっかだからな」
珠李(春風くんもかなり個性的だと思うけど……)
春風「そんな中で夢奈が一番まともそうだから、逆に覚えやすい」
珠李「そ、そうなんだ……」
(これは褒められてるのかな……)
春風は誰もいない斜め上を見る。
春風「え? ほら、同じクラスの子だよ」
「違うって。夢奈はヘアメイク科じゃなくて裁縫科」
珠李「や、や、やっぱり春風くんは」
「『お化け』が視えるっていうのは、ホ、ホントなんだ!」
春風はまた斜め上を見て、顔をしかめる。
春風「だからいちいち怒るなって、悪気がないんだから」
珠李「な、なんて言ってるの?」
春風「『誰がお化けだ、このどブス!』だってさ」
珠英「ど、どブスって……」
春風「『ヒメ姉』は化け物扱いされるとブチ切れんだよ」
珠李は顔を赤らめる。
珠李「だ、だ、だからって初対面なのに……」
すぐにハッとする。
珠李「あっ! で、でも、い、いつも春風くんと一緒にいるんだよね!」
「(独り言)わ、私が知らないだけで、しょ、初対面じゃないのか……」
春風が自分を見ていることに気が付く。
珠李「な、何!?」
春風「(微笑む)夢奈って変なヤツだな」
珠李「へ、変かな……」
春風「ああ」
「『ヒメ姉』の話をしたらさ、大抵は馬鹿にされる」
「けど、夢奈はさっきから『ヒメ姉』がいるって前提でしゃべってるじゃん」
珠李「(不思議そうに)だ、だって、いるんでしょ? 『ヒメ姉』さんは」
春風「いるよ」
珠李「だ、だったら疑う人たちの方が、お、お、おかしいよ!」
「よ、世の中には、自分の目には視えなくても」
「た、確かに存在してるものがたくさんあるんだもん!」
「た、他えば『ありがとう』とか『うれしい』は見えないけど」
「ちゃ、ちゃんと気持ちはそこにあるんだもん」
「た、たぶん、大事なことほど、め、目には見えない──」
春風「(うれしそうに)めっちゃしゃべるじゃん!」
珠李「え?」
春風「夢奈って、教室じゃ全然しゃべんないから、そういう主義かと思ってた」
珠李「しゅ、しゅ、主義っていうか……」
「わ、私……しゃべり方が、こ、こんなだから……」
春風「吃音のこと? ウチの連中でそんなこと気にするヤツなんているかなぁ」
「結構みんな、自分のことにしか興味ないってヤツばっかだと思うけど」
春風は珠李が抱えているプリントを見る。
春風「ところでそれ、今日やった小テスト?」
珠李「い、いけない! 職員室に、も、持って行かなきゃ!」
珠李は立ち上がると、頭を下げる。
珠李「ヒ、ヒメ姉さん、『お化け』なんて言って、ごめんなさい」
「じゃ、わ、私、行くね!」
駆けて行く珠李を唖然とした表情で見送る春風。やがて表情は笑みへと変わる。
春風「やっぱヘンだわ。アイツ」
珠李と春風のやり取りの一部始終を見ていた人物(|相星《あいほし)リヒト)は、廊下の木陰で悔しそうに唇を噛む。
〇教室 五時間目(午後一時)
生徒たちがそれぞれ自分の席に座っていて、固唾を呑んで見守っている。
黒板の前の教壇に立つ生徒は、箱の中から取り出した投票用紙を読み上げる。
窓際には担任の雅旬。
珠李だけは上の空。
珠李(春風くんといっぱいしゃべっちゃった……)
頬を赤らめるが、すぐに我に返る。
珠李(もしかして、ウザいヤツとか思われてないかな……)
チラリと春風を見る。頬杖をついている。
すると珠李をにらむ男子生徒の制服を着た女子生徒、大瀬夏帆と目が合う。
慌てて目を逸らす珠李。
珠李(にらまれちゃった……)
黒板には「男子」と「女子」の文字。
生徒が黒板に書き込んでいく。
生徒たち「おおっ!」と、どよめきが起こる。
相星 十九票(正の字で書かれている)
春風 十票
白河 九票
夢奈 十九票
白票 一票
生徒「えー、投票の結果。男子は相星くん、女子は夢奈さんに決まりました」
拍手が起こり、珠李はようやく何が起こっているのかを知る。
珠李「え?」
相星 十九票(正の字で書かれている)
春風 十票
白河 九票
夢奈 十九票
白票 一票
珠李「え、ええええっ!」
雅 「いいのか。コンテストの出場者は」
「基本的にモデル科の生徒から選ぶことになってんだぞ」
モデル科の白河ソナタが手を上げる。
ソナタ「(満面の笑み)シュンちゃん。わたくしたちがそのような些細なことにこだわると思ってますの?」
雅 「シュンちゃんじゃなくて、先生な。先生と呼べ」
ソナタ「とにかく、これはクラスの総意ですのよ。シュンちゃん先生」
雅 「まあ、お前らがいいんなら俺は構わんが」
「学年最下位だと、クラス全員で校舎内の草むしりだからな」
相星「がんばろうね、夢奈さん」
珠李「う、うん……」
ソナタ「楽しみだわ。わたくし、夢奈さんの私服って」
「まだちゃんと拝見したことがありませんでしたから」
生徒「そういえばそうかも」
珠李(そうだ……モデル科のコンテストって)
(私服のセンスも審査されるんだ……)
(どうしよう……私のせいで、みんなに迷惑かけちゃう……)
珠李は青ざめる。
学校の制服を着た女子生徒たちが、廊下でたむろしている。
女子生徒a「今度のモデコン。誰が一位になると思う?」
女子生徒b「そんなの三年の『ココア』先輩に決まってんじゃん」
女子生徒C「可愛くて性格ヨキって、もうパーフェクトだもんね」
女子生徒d「この前、モデル科の教室の前で見たんだけど」
「ギューってしたくなるくらいカワエかったよ」
プリントの束を胸に抱いた夢奈珠李は、女子生徒たちを横目に脇をすり抜けて行く。
ずり落ちた眼鏡を指で押し上げる。
珠李(そっか、もうすぐモデルコンテストなんだ……)
(ウチのクラスの女子代表は、やっぱりモデル科の白河さんなんだろうな)
珠李はクラスメートの白河ソナタの顔を思い浮かべる。
珠李(じゃあ、男子は──)
珠李が歩く前方に四人の男子生徒。
珠李(三年の人たちだ)
(どうして二年生のフロアにいるんだろ)
三人が一人の男子生徒を取り囲むようにして、どこかに向かって歩いて行く。刑事たちが犯人を連行する時のような感じで、物々しい雰囲気。
珠李は真ん中にいる男子生徒の横顔を見て息を呑む。
珠李(あの人は──)
慌てて後を追う。
〇階段の踊り場 (昼休み)
三人の男子生徒に囲まれる春風漣。
男子生徒a「『バケモノ』が視えるっていう二年の春風ってのはお前なんだろ?」
春風「だったらなんです」
男子生徒b「聞いた話じゃ、『バケモノ』と会話ができるそうじゃん」
男子生徒c「(小馬鹿にしたように)なんて言ってんのか聞いてくれよ」
春風「そうですね」
「こんなバカたちに関わるな、って言ってます」
身を隠して盗み聞きしていた珠李は驚愕の表情。
男子生徒aは春風の胸ぐらをつかむ。
男子生徒a「てめえ!」
珠李「キ、キンタが来たよ!」
生活指導の教師の名前を聞いた男子生徒たちは一斉に体を震わせる。
男子生徒c「また今度、ゆっくりと話しを聞かせてもらうからな」
男子生徒は足早に立ち去る。
春風が無事に解放されたのを見届けた珠李は、ホッと一息つく。安心すると力が抜けてしまい、床にへたり込む。
珠李(良かった……)
(ん?)
影が珠李を覆う。
顔を上げると、目の前に春風。
春風「生活指導のキンタが来たってのは、勘違いだったようだな」
春風は珠李の前にしゃがみ込む。*いわゆる「ヤンキー座り」
春風「確か」
「夢奈、だったよな」
珠李「わ、私の名前、し、し、知ってるの?」
春風「(苦笑しながら)そりゃあ知ってるさ」
「ウチの月組は個性的なヤツばっかだからな」
珠李(春風くんもかなり個性的だと思うけど……)
春風「そんな中で夢奈が一番まともそうだから、逆に覚えやすい」
珠李「そ、そうなんだ……」
(これは褒められてるのかな……)
春風は誰もいない斜め上を見る。
春風「え? ほら、同じクラスの子だよ」
「違うって。夢奈はヘアメイク科じゃなくて裁縫科」
珠李「や、や、やっぱり春風くんは」
「『お化け』が視えるっていうのは、ホ、ホントなんだ!」
春風はまた斜め上を見て、顔をしかめる。
春風「だからいちいち怒るなって、悪気がないんだから」
珠李「な、なんて言ってるの?」
春風「『誰がお化けだ、このどブス!』だってさ」
珠英「ど、どブスって……」
春風「『ヒメ姉』は化け物扱いされるとブチ切れんだよ」
珠李は顔を赤らめる。
珠李「だ、だ、だからって初対面なのに……」
すぐにハッとする。
珠李「あっ! で、でも、い、いつも春風くんと一緒にいるんだよね!」
「(独り言)わ、私が知らないだけで、しょ、初対面じゃないのか……」
春風が自分を見ていることに気が付く。
珠李「な、何!?」
春風「(微笑む)夢奈って変なヤツだな」
珠李「へ、変かな……」
春風「ああ」
「『ヒメ姉』の話をしたらさ、大抵は馬鹿にされる」
「けど、夢奈はさっきから『ヒメ姉』がいるって前提でしゃべってるじゃん」
珠李「(不思議そうに)だ、だって、いるんでしょ? 『ヒメ姉』さんは」
春風「いるよ」
珠李「だ、だったら疑う人たちの方が、お、お、おかしいよ!」
「よ、世の中には、自分の目には視えなくても」
「た、確かに存在してるものがたくさんあるんだもん!」
「た、他えば『ありがとう』とか『うれしい』は見えないけど」
「ちゃ、ちゃんと気持ちはそこにあるんだもん」
「た、たぶん、大事なことほど、め、目には見えない──」
春風「(うれしそうに)めっちゃしゃべるじゃん!」
珠李「え?」
春風「夢奈って、教室じゃ全然しゃべんないから、そういう主義かと思ってた」
珠李「しゅ、しゅ、主義っていうか……」
「わ、私……しゃべり方が、こ、こんなだから……」
春風「吃音のこと? ウチの連中でそんなこと気にするヤツなんているかなぁ」
「結構みんな、自分のことにしか興味ないってヤツばっかだと思うけど」
春風は珠李が抱えているプリントを見る。
春風「ところでそれ、今日やった小テスト?」
珠李「い、いけない! 職員室に、も、持って行かなきゃ!」
珠李は立ち上がると、頭を下げる。
珠李「ヒ、ヒメ姉さん、『お化け』なんて言って、ごめんなさい」
「じゃ、わ、私、行くね!」
駆けて行く珠李を唖然とした表情で見送る春風。やがて表情は笑みへと変わる。
春風「やっぱヘンだわ。アイツ」
珠李と春風のやり取りの一部始終を見ていた人物(|相星《あいほし)リヒト)は、廊下の木陰で悔しそうに唇を噛む。
〇教室 五時間目(午後一時)
生徒たちがそれぞれ自分の席に座っていて、固唾を呑んで見守っている。
黒板の前の教壇に立つ生徒は、箱の中から取り出した投票用紙を読み上げる。
窓際には担任の雅旬。
珠李だけは上の空。
珠李(春風くんといっぱいしゃべっちゃった……)
頬を赤らめるが、すぐに我に返る。
珠李(もしかして、ウザいヤツとか思われてないかな……)
チラリと春風を見る。頬杖をついている。
すると珠李をにらむ男子生徒の制服を着た女子生徒、大瀬夏帆と目が合う。
慌てて目を逸らす珠李。
珠李(にらまれちゃった……)
黒板には「男子」と「女子」の文字。
生徒が黒板に書き込んでいく。
生徒たち「おおっ!」と、どよめきが起こる。
相星 十九票(正の字で書かれている)
春風 十票
白河 九票
夢奈 十九票
白票 一票
生徒「えー、投票の結果。男子は相星くん、女子は夢奈さんに決まりました」
拍手が起こり、珠李はようやく何が起こっているのかを知る。
珠李「え?」
相星 十九票(正の字で書かれている)
春風 十票
白河 九票
夢奈 十九票
白票 一票
珠李「え、ええええっ!」
雅 「いいのか。コンテストの出場者は」
「基本的にモデル科の生徒から選ぶことになってんだぞ」
モデル科の白河ソナタが手を上げる。
ソナタ「(満面の笑み)シュンちゃん。わたくしたちがそのような些細なことにこだわると思ってますの?」
雅 「シュンちゃんじゃなくて、先生な。先生と呼べ」
ソナタ「とにかく、これはクラスの総意ですのよ。シュンちゃん先生」
雅 「まあ、お前らがいいんなら俺は構わんが」
「学年最下位だと、クラス全員で校舎内の草むしりだからな」
相星「がんばろうね、夢奈さん」
珠李「う、うん……」
ソナタ「楽しみだわ。わたくし、夢奈さんの私服って」
「まだちゃんと拝見したことがありませんでしたから」
生徒「そういえばそうかも」
珠李(そうだ……モデル科のコンテストって)
(私服のセンスも審査されるんだ……)
(どうしよう……私のせいで、みんなに迷惑かけちゃう……)
珠李は青ざめる。