まぶしいほど、まっすぐ!

第十話

〇学校 裁縫科の教室内 (放課後)

 水曜日。
 ガランとした教室には珠李と春風。
 ミシンの音が静かな空間に響き渡る。

春風「そういえば、もうすぐチーム戦だな」

 珠李はミシンを止める。

珠李「そ、そうだね……」
春風「どんなメンバーになるんだろうな」
  「夢奈は誰と組みたいとかある?」
珠李「み、雅先生が決めることだから……」

 春風が顔を覗き込んでいることに気が付き、珠李は戸惑う。

珠李「な、何!?」
春風「なんか、怒ってるか?」
珠李「お、怒ってないよ、何で?」
春風「いや、この前の中間テストの打ち上げの後から、なんかヨソヨソしくなってる気がするから」
珠李「そ、そんなこと、な、ないよ」
春風「なら、いいんだけど」

*珠李の回想。
 打ち上げの帰り道。
 顔の前で手を合わせる朝陽。
 朝陽『ごめん。コレ、春風から聞きたかったよな。ホントごめん』
   『それから春風が学校辞めること、オレから聞いたってことは内緒にしてくれ』
   『夏帆に殺される』
 珠李『う、うん。だ、誰にも言わない……』
 朝陽『助かる……』
*回想終わり。

珠李(春風くん、みんなには話してるんだ)
  (学校やめること……)
春風「なあ、夢奈」
珠李「え? な、何?」
春風「ここらでいったん休憩しないか」
珠李「そ、そうだね……」
春風「俺、トイレ行って来ていいか?」
  「実はずっと我慢してんたんだ」
珠李「い、行って来て。ご、ごめんなさい。気が付かなくて」
春風「俺がいない間、心細くて泣くなよ」
珠李「う、うん……」
春風(スベッた……)

 春風は元気がない珠李を見て不安げな表情。

春風「すぐに戻って来るから」
  「(真剣な表情で)どこにも行くなよ!」

 春風は教室を出て行く。
 一人になる珠李。

珠李(春風くん、どうして私には話してくれないんだろう)

 教室のドアが開けられる。

珠李「は、春風くん、早かった──」
相星「やっほー!」
珠李「あ、相星くん!? ど、どうしたの?」
相星「ヒマだから様子見にね」
  「ところで春っちは?」
珠李「ト、トイレに……」
相星「てことは、今がチャンスってわけだ」
珠李「チャ、チャンス?」

 相星は春風が座っていた椅子を引き寄せる。珠李と膝を突き合わせる距離。

相星「ボクと付き合ってよ」
珠李「え?」
相星「ダメ?」
珠李「ダ、ダメっていうか……」
相星「やっぱ、春っちと付き合ってんの?」
珠李「「そ、そ、そいうわけじゃ……」
相星「じゃ、いいじゃん。お試しってことでさ」
珠李「お、お試し……」
相星「そっ。付き合ってみて『違うなぁ』って思えば、お互いに別の相手を探せばいいんだし」
珠李「で、でも…あ、相星くんは……」
相星「あっ、ちょっと待って」

 急に相星が顔を近づけて来る。
 戸惑う珠李。

相星「前をつぶって」
珠李「ど、どうして?」


〇学校のトイレ前 (放課後)

 用を足した春風はトイレから出て来る。

春風(夢奈のヤツ、元気なかったな。また体調くずしてんじゃなきゃいいけど)

 廊下を歩く春風。

春風(飲み物でも買って行ってやるか)

 自販機の前に立つ。

*春風の回想
 珠李と買い物に行った日のことを思い出す。
 春風の脳裏には、笑顔の珠李。
*春風の回想終わり

春風(当然、クリソーでしょ!)

〇裁縫科の教室のドアの前 (放課後)

 笑顔の春風。
 ドアの前に立つ。ドアに手をかけようとして、固まる。
 ドアにはめられたガラス越しに教室内を見る。
 相星の後ろ姿。その向こうには目を閉じた樹里。
 春風には二人がキスをしているように見える
 春風は走ってその場を立ち去る。


〇裁縫科の教室の中 (放課後)

 珠李に顔を近づける相星。

相星「そのまま動かないでよ」
珠李「う、うん……」

 相星は珠李のまつ毛についているゴミをそっと指でつまむ。

相星「はい、取れたよ」
珠李「あ、ありが──」

 ドアの向こうで「ゴトン!」と物音。

相星「ん? 春っちかな?」

 二人はドアを見るが、誰も入って来る気配がない。
 珠李のスマートフォンが鳴る。

珠李(春風くんからだ)

《悪い。用が出来たから先帰る》

相星「誰から?」

 スマートフォンの画面をのぞき込み、ほくそ笑む。

相星「どうしちゃったんだろうね。春っち」

 珠李はドアに駆け寄り開ける。そこにはペットボトルのクリームソーダが二本落ちている。
 珠李はそれを拾う。

相星「ボクなら、恋人を残して先に帰ったりしないんだけどな」

 相星が意味ありげな笑みを浮かべている。


〇学校 月組の教室内 (午前中)

 黒板に張り出されたプリントに群がる生徒たち、あちっこちから奇声。落胆の声など様々。 
 春風に近寄る珠李。

珠李「は、春風くん、あのね……」
春風「悪い、これからチームで打ち合わせなんだ」

 そっけなく春風は行ってしまう。
 残された珠李は悲し気。
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