まぶしいほど、まっすぐ!

第十二話

〇学校 月組教室中 (昼休み)

 夏帆が机を抱えてやって来る。

夏帆「よっしゃ! 飯だ」
  「このメンツで食べるのお久じゃん?」
ソナタ「ですわね。この日は我が家のシェフが本場のインドカリーを作ってくれたのですのよ」
朝陽「オレも夏帆とランチできなくて寂しかったよぉ」
夏帆「アタシは珠李と食いたいんだよ!」
朝陽「連れないこと言うなよ」
夏帆「珠李、うるさいのは無視して、さっさと食おうぜ」

 珠李は立ち上がると、弁当を持つ。

珠李「わ、私……やらなきゃいけないことが、あ、あるんで……」

 慌てて教室を出て行く珠李。
 どあのところで購買部から戻って来た春風と出くわす。

珠李「は、春風くん!?」

 春風もまた驚いた表情。すぐに気まずそうにうつむく。

春風「夢奈……あの、俺」
珠李「ご、ごめんなさい。わ、私、い、行かなきゃだから」
春風「ちょ、ちょっと待ってくれ──」

 珠李は走って行ってしまう。
 怪訝な表情の夏帆とソナタ。
 春風は悲しそう。そんな中、朝陽は眉根を寄せている。


〇学校 中庭 (昼休み)

 あちこちで生徒姿。芝生の上で遊んでいる者や、弁当を食べている者がいる。
 珠李は一人、ベンチに座って、膝の上に置いた自作の弁当を口に運ぶ。
 無意識にため息。

〇学校 校舎内 廊下 (昼休みがもうすぐ終わる)

 ランチクロスに包んだ弁当箱を胸に抱え、トボトボと廊下を歩く珠李。
 やはり重苦しいため息。

珠李(次はチーム戦の準備だから、このまま裁縫科の教室に行けばいいよね)
夏帆「おい!」

 背後か声をかけられ、驚いて体を震わせる珠李。
 夏帆が腕を組んで仁王立ち。

夏帆「珠李。もしかしてアタシたちのこと避けてんの?」
珠李「そ、そういうわけじゃ……」
夏帆「だったらなんでコソコソ逃げ回ってんだよ」

 廊下を歩く生徒がヒソヒソ話。

生徒a「え? あの子って吃音の子だよね」
生徒b「もしかしてイジメれてる?」
生徒c「先生に言った方がいい?」

 昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴る。

珠李「も、もう行かないと。ご、ごめんね……」

 うつむいて走り去る珠李。
 憮然とする夏帆。


〇学校 裁縫科の教室 (五時限目)

 チーム戦の準備。
 そこそここで打ち合わせや作業をしている生徒。
 珠李たちもまた、相星に作りかけの衣装を合わせたり、メイクや髪の毛のアレンジの相談をしている。

相星「ああ、疲れたよぉ」
さち花「だらしないわね! モデルが一時間くらいポーズ決めてられなくてどうすんの」
相星「結構大変なんだよ」
  「ちょっと早いけど休憩しよ。今日の買い出し当番だれだっけ?」
さち花「私とリヒト」
相星「嘘でしょ……朝っち、代わってくんない?」
朝陽「ヤだね。ああ、オレ、ゲットレモネードね」
さち花「珠李は? 何がいい?」
珠李「わ、私は……お茶で……」
さち花「りょ。リヒト、行くよ!」
相星「ふあーい」

 さち花と相星がジュースを買いに教室を出る。
 生徒たちがやって来る。
 先ほど、珠李と夏帆のやり取りを見ていた生徒。

生徒a「ねえ、ちょっといい?」
珠李「は、はい?」
生徒b「大丈夫だった?」
珠李「え?」
生徒c「さっき大瀬さんに絡まれてたじゃん」
生徒a「あの子って男子の制服を着てるのもそうだけど」
   「ちょっと怖いよね?」
生徒b「先生に言うなら、わたしたちも協力するから」
生徒c「そうそう。あなたがイジメられてたって言ってあげる」
珠李「あ、ありがとう……」

 生徒たちは立ち去る。
 朝陽は不機嫌そう。

朝陽「何? 今の」
珠李「な、何でもない……」
朝陽「夏帆にイジメれたのか?」
珠李「イ、イジメれてないよ!」
朝陽「だったらなんでちゃんと否定しないんだよ」
  「友達が誤解さててんのにさ」
  「あっ、そうか。もう友達じゃないのか」
珠李「そ、そうじゃない!」
  「で、でも……」
朝陽「でも?」
珠李「わ、私がいると、め、迷惑だから……」
朝陽「なんだよ、それ」
珠李「イ、イケてるグループの人たちの中に、わ、私みたいなのがいると、周りの人に、ご、誤解されちゃうから」
  「そ、それに春風くんたちは、わ、私のことがかわいそうだから、と、友達のフリをしてるって言ってたらしいし……」
朝陽「夢奈って、勉強はできるけど、アホなんだな」
珠李「ア、アホ……」
朝陽「いや、バカか。違うな、間抜けかもな」
珠李「そ、そこまで言わなくても……」
朝陽「だってそうだろ」

 朝陽はいつになく真剣な表情。

朝陽「夢奈が今言ってるのってさ」
  「自分が見たものや聞いたものより」
  「どっかの誰かが言ったことを信用するってことなんだろ?」
  「こんなバカな話があるかよ」
  「夢奈は今まで春風や夏帆たちを一緒にいて、お前のことをかわいそうに思ってるなんて感じたか?」
  「イケてる自分たちに夢奈がいると、迷惑だって思ってるように見えてたのか?」

 朝陽の言葉に衝撃を受ける珠李。

*珠李の回想。
 春風と買い物に出かけた時の彼の笑顔や、思ったより生地が高くて落ち込む姿。
 一緒にお昼を食べている時の夏帆。珠李の髪の毛をセットする夏帆の真剣なまなざし。
*珠李の回想終わり。

朝陽「オレなら、まず本人に話を聞くね」

 珠李は勢い良く立ち上がる。

珠李「わ、私、ちょっと席を外してもいいかな?」
朝陽「いいんじゃねえの」
  「ちなみに春風たちは二年のヘアメイク科の教室にいるらしいぞ」
珠李「あ、ありがと。あ、あ、朝陽くん」

 ヘアメイク科の教室に向かって走り出す珠李。
 ちょうど戻って来た相星たちが目を丸くしている。

さち花「珠李、どうしちゃったの!?」
朝陽「ちょいと野暮用でな」

 得意げな朝陽。
 呆気に取られるさち花。
 相星だけは表情を曇らせている。


〇学校 ヘアメイク科の教室内 (六時限目が始まる前の休憩時間)

 春風と夏帆、モデル科のソナタ、それから裁縫科の生徒がジュースを飲みながら話し合っている。ソナタは持参の白湯を入れた水稲を口に運んでいる。
 勢い良くドアが開く。
 生徒たちはギョッとする。
 息を切らした珠李。髪の毛が乱れ、必死の形相。

春風「夢奈!?」
珠李「わ、私とお友達になってくれますか!?」
春風「え? 何!? 友達のつもりだけど」
珠李「わ、私がいると、め、迷惑じゃないですか!?」
夏帆「何言ってんだよ。迷惑だったら友達になんかなってねえよ」
ソナタ「そうですわ。どんなに素晴らしいお洋服が作れても、人間的に嫌いな人には依頼しませんもの」

 珠李はその場にへたり込む。腰が抜けたといった感じだ。

珠李「よ、良かった……」

 春風たちが駆け寄ってくる。三人は珠李の周りに集まりしゃがみ込む。

春風「大丈夫か?」
夏帆「もしかしてナオトに何かされたのか!?」
  「アイツ、ぶっ飛ばしてやる!」
珠李「ち、違うの……。私が、へ、変な噂を信じちゃったから……」
夏帆「変な噂?」
珠李「わ、私がいると、夏帆ちゃんやソナタちゃん、それから春風くんが迷惑がってるって」
  「そ、そしたら、朝陽くんに怒られちゃったの。う、噂話より夏帆ちゃんたち、ほ、本人たちに直接聞けって」

 ソナタはナプキンで口を拭い立ち上がると、珠李のところへやって来る。

ソナタ「その噂話、誰からお聞きになったの?」
珠李「あ、相星くんが、たまたま耳にしたって」

 珠李は床に座ったまま頭を下げる。

珠李「ごめんなさい……みんなのこと、遠ざけちゃったりして……」
春風「だったら謝るのはオレの方だ」
珠李「ど、どうして春風くんが?」
春風「実は裁縫科でリヒトと珠李が話してるのを見て、ムカついたんだ」
珠李「え?」
夏帆「春風のヤツ。珠李が相星とキスしてたって言うんだ」

*珠李の回想。
 相星が珠李に顔を近づけ、まつ毛のゴミを取った場面を思い出す。
 そしてドアの外で物音。
*珠李の回想終わり。

 珠李は春風がその時の場面を見ていたのだと察する。
 顔を真っ赤にして首を横に振る。

珠李「し、してない!」
  「リ、リヒトくんはまつ毛のゴミを取ってくれただけ、だよ」
春風「だよな」
  「大瀬に叱られた。『珠李がそんなことするわけねぇ』って」
  「で、今日、夢奈にそのことを聞こうとしたんだけど、走って逃げられてたから──」
珠李「ご、ごめんさい……」

春風、深々と頭を下げる。

春風「こっちこそごめん! 勝手に勘違いして」
珠李「わ、私の方こそ、ヤな態度だったよね……ご、ごめんなさい」
夏帆「ところで珠李」
  「変な噂ってなんだよ」

 珠李の表情から見る見る血の気が失せて行く。

珠李「そ、そうだ! ご、誤解を解かないと!」

 立ち上がると珠李は裁縫科の教室に戻るため、再び走り出す。

夏帆「おい! どこ行くんだよ!」
  「まったく忙しい奴だな!」


〇学校 裁縫科の教室 (六時限目)

 チャイムが鳴るのと同時に珠李がやって来る。

さち花「あっ、戻って来た」
   「もうっ! どこに行ってたの──」

 珠李は自分たちのチームを通り過ぎて、先ほど声をかけてきた生徒abcのところのところへ行く。
 春風、夏帆、ソナタもやって来る。

珠李「あ、あの……」

 珠李を見て戸惑う生徒abc。

珠李「わ、私、イジメられてない!」
  「な、夏帆ちゃんたちは、わ、私の大切な友達なの!」
  「そ、その誤解だけは解いときたくて」

 夏帆が珠李の肩を組む。

夏帆「ンだよ! 慌てて走り出すから何事かと思ったじゃんよ!」
珠李「た、大切なことだから」
夏帆「まあ、なんかよくわかんないけど」
  「一件落着で、これでまた私たちの友情は復活ってことだな」
ソナタ「本当に一件落着なのかしら?」

 珠李たちは同じ方を見る。
 いつもににこやかなソナタが険しい表情をじ浮かべ両肘を抱いている。
 ゆっくりとした歩みで、相星リヒトのところまで行く。

ソナタ「説明してくださるかしら? リヒトくん」

 不穏な空気が流れる。
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