まぶしいほど、まっすぐ!

第十三話

〇学校 裁縫科の教室内 (六時限目)

 チーム戦に向けて準備中の生徒たちは、何事かと手を止めて見守っている。
 珠李は戸惑う。
 ソナタは椅子に座る相星を見下ろす。

ソナタ「リヒトくん、貴方、このわたくしにいいましたわよね?」
   「珠李ちゃんがクラスに馴染めるようにしてあげたいから、美人コンテスの代表になれるようわたくしからみんなに話してくれって」
   「本当に珠李ちゃんのためなのかしら?」
相星「そうだよ。現に夢奈さんはこうして友達ができたじゃん」
ソナタ「その割には、裏でコソコソと動いてるみたいじゃなくて?」
相星「なんのことかな」
ソナタ「珠李ちゃんが、わたくしたちが迷惑がってるって噂を貴方から聞いたらしいけど」
   「噂を流したのって、貴方じゃなくて? リヒトくん」
夏帆「だな」
  「図書室の勉強会の時や、珠李と春風のデートにひょっこり現れた時のといい」
  「やたらと珠李にちょっかいだしてるもんな」
  「珠李が春風と仲良くやってのが気に入らないってわけか」

 相星は笑う。

夏帆「何がおかしいんだよ」
相星「ボクが夢奈さんのことが好きだっていいたの?」
  「そんなわけないじゃん」
夏帆「だったらなんでこんなことすんだよ」
相星「ムカつくからに決まってんじゃん」
  「悲劇のヒロインぶってさ。『家が貧乏だけど、がんばってます』って感じがイラつくんだよね」
  「だからビジコンに出して恥かかせてやろうって思ったの」
ソナタ「で、わたくしを利用したと?」
相星「すんなり信じちゃうんだもん。世間知らずのお嬢様は簡単だよね」
ソナタ「最低ね!」
相星「みんなだってそうでしょ?」
  「こんな地味な女の子は、普通なら端役(モブ)じゃん」
夏帆「てめえ!」

 夏帆が動くよりも早く、春風が相星のところへ行く。
 春風、怒りの表情で相星の胸ぐらをつかむ。
 相星は春風の行動を見て、一瞬だけ悲し気な表情。
 珠李は相星の表情を見て確信する。

相星「何? 恋人を侮辱されて怒っちゃった?」
  「それとも『お化け』に指示されたのかな?」

 拳を振り上げる春風。

珠李「ま、待って!」

 珠李は春風にしがみつく。

珠李「お、お願い! や、やめて!

 春風は拳を下ろすと、相星の胸ぐらから手を離す。

春風「二度と夢奈に近づくな」

 すると相星は顔を伏せる。

相星「わかったよ」

 相星は教室を出て行ってしまう。


〇学校 月組教室内 (二時限目)

 教科担任の教師、キンタがプリントを配る。

*ナレーション
 『金太郎のような見た目ということから、生徒たちからは「キンタ」とあだ名をつけられている」
 『ただし生活指導も兼任している厳しい教師のため、これは内緒の話」

 生徒たちは自分のぶんのプリントを取ると、残りを後ろの生徒に渡していく。
 ところが相星は飛ばされてプリントを渡してもらえない。
 相星は苦笑い。手を挙げる。

相星「先生、プリントが足りないです」
キンタ「ん? 人数分あるはずだぞ」
  「誰か二枚取ってないか?」
生徒a「すんません、ありました!」

 相星は生徒aのところに取りに行く。が、手渡す瞬間、ワザと床に落とされる。相星は苦笑いすると、黙ってそれを拾う。
 珠李に意地悪していたと知った生徒たちは、みんな相星に冷ややかな視線を向けている。
 悲しげな珠李。

 授業の終わりを告げるチャイム、

キンタ「今日の当番は相星だったな」
   「教材を職員室まで持って来いよ」
相星「はーい」

 教壇の前で教材をまとめる相星。

珠李「て、手伝うよ」
相星「何? ハブられてるボクに手を貸して、いい人アピール?」
珠李「そ、そういうわけじゃ……」
相星「まっ、手伝ってくれるならありがたいけど」


○学校 中庭 (二時限目終わりの休憩時間)

 まばらに生徒たちがいる。
 相星は遊歩道を歩く。不意に振り返り、珠李を見る。

相星「いつまでついて来る気?」
  「ボクに関わると、夢奈さんまでターゲットになるかもよ?」
珠李「リ、リヒトくんを一人にするのは、し、心配だから……」
相星「イジメを苦に自殺するかもって?」
珠李「そ、そういうわけじゃ……」
相星「大丈夫だよ。クラスメートからハブられるのは、初めてじゃないし」
珠李「そ、それってもしかして……」

 相星はじっと珠李の顔を見る。

相星「もしかして夢奈さんって、ボクの『秘密』に気がついてる?」
珠李「な、なんとなく……」
相星「いつから?」
珠李「モ、モデルコンテストの時に、も、もしかしらって思って」
相星「へえ、よく見てるんだね」
  「誰かに話した?」
珠李「は、話してないよ! 相星くんが言いたくないなら、言う必要ないと思うし……」

 前方から女子生徒が四人やって来る。
 その中の一人は、三年生の山田ココア。

ココア「あら? リヒトくんじゃない?」
珠李(コ、ココア先輩だ!)

 相星は舌打ちをする。
 ココアは相星の隣にいる珠李を見る。

ココア「あら? どこかで見た気がするんだけど」
珠李「モ、モデルコンテストの時に、『お互い頑張ろう』って──」
ココア「ああ、あの時の子か」

 ココアは改めて珠李を見る。まるで値踏みするような視線。

ココア「まさかこの子がリヒトくんの新しい恋人?」
相星「違うよ。この子は関係ない」
ココア「そうよね」
   「リヒトくんの趣味じゃないものね」

 ココアは意味ありげに唇の端を持ち上げる。

ココア「私、リヒトくんと同じ中学出身って子を知ってるんだ」

 相星は青ざめる。

ココア「その子が色々と教えてくれたわ」
   「どうりで私の恋人にしてあげるって言っても断るわけよね」

 ココアの後ろにいる女子生徒たちもいやらしく笑う。

ココア「どうしよっかなぁ。みんなにバラしてもいいんだけど」
相星「そ、それは……」
ココア「だったら私と付き合う?」

 ココアは眉根を寄せる。
 珠李が相星を背にして立ちはだかっている。

ココア「何? 今、リヒトくんと話してるんだけど」
珠李「あ、あの……私の友達を、きょ、脅迫するようなマネは、や、や、やめてください!」
ココア「何言ってるの? 気持ち悪い子ね」
   「いい? このリヒトくんはね──」


○学校 月組教室内 (すでに三時限目が始まっている)

 夏帆は珠李の机を見る。

夏帆「珠李のヤツ、遅くね?」
ソナタ「そうですわね。珠李ちゃんが授業に遅れたり、サボったりなんてしないですものね」
夏帆「まさかリヒトのヤツが何かやってんじゃないだろうな」

 春風の表情が曇る。

朝陽「それにシュンちゃんも遅くね?」
  「とっくに三時限目始まってんのにさ」
  「まあ、授業がないのは嬉しいけど」

 雅がやって来る。

雅 「授業を始める前に、ちょっと聞いてくれ」

 雅が険しい表情を浮かべている。

雅 「夢奈が暴力事件を起こして、停学になった」
  「もしかしたら退学処分になるかもしれない」
< 13 / 15 >

この作品をシェア

pagetop