まぶしいほど、まっすぐ!

第十四話

〇珠李の自宅 中 (午後三時過ぎ)

 自宅の部屋の中で体育座りをしている珠李。弟たちが遊んでいる。
 玄関の横開きの戸を叩く音。
 珠李は暗い表情で玄関まで行く。

珠李「ど、どなたですか?」

 ドアを開けた珠李。そこに夏帆とソナタがいるのを見て驚く。

珠李「ど、どうして?」
夏帆「それはこっちのセリフだよ!」
ソナタ「珠李ちゃんが人を殴って停学になったと聞いたんですのよ!」
   「何かの間違いでしょ!?」
珠李「そ、それは……」
夏帆「なんだよ! ついこの間、私たちは友達だって確認したばかりじゃないか」
ソナタ「そうですわ! 隠し事なんて水臭いですのよ」

 ソナタは珠李の肩に手をかける。

ソナタ「珠李ちゃん。これが一体どういうことかは、貴方が一番理解しているはずですわ」
   「もしも退学になったら、櫻花大学には行けませんのよ」
   「それはつまり、妃櫻歌劇団で衣装を作るという夢が絶たれるのですのよ」

 二人はじっと珠李を見つめている。
 うつむく珠李。そして消え入りそうな声で囁く。

珠李「ご、ごめんなさい……」

 しばらく珠李を見つめる夏帆とソナタ。

夏帆「そうか」
ソナタ「残念ですわ」

 二人は目配せをすると珠李に背中を向ける。

夏帆「悪かったな、急に押し掛けたりして」
ソナタ「お邪魔しました」

 素っ気なく言うと、夏帆とソナタは帰って行く。
 珠李は二人に声に本当のことを打ち明けようと口を開くが、グッと言葉を飲み込む。
 二人を失望させてしまったと落ち込む珠李。
 夏帆とソナタと入れ替わるように、母親が仕事場から戻って来る。
 すれ違いざまに、夏帆とソナタがお辞儀する。

jy李「お、お母さん!」
母 「先生から連絡をもらって早退さてもらったの」

 母親は振り返る。

母 「珠李、今の子たちって」
珠李「ク、クラスメートの夏帆ちゃんとソナタちゃん、だ、だよ……」
  「わ、私のこと、し、心配して来てくれたんだけど……」
母 「そう」
  「ところで珠李。一体どういうことなの?」
  「停学になったなんて何かの間違いよね」

 珠李の頬から涙がこぼれる。

母 「なるほどね」

 夜。食事を終え、弟たちはぐっすりと眠っている。
 隣の部屋で珠李は、母親に打ち明けたのだった。

母 「お母さん、明日学校に行って先生に話してくるよ」
珠李「お、お母さん!」
母 「だってさ、珠李は何も悪いことしてないんでしょ?」
  「だったら堂々としてなさい」
珠李「で、でも、それだと、と、友達がイジメられちゃうかも……」
母 「そうかなぁ」
  「さっきの子たちって、珠李のことを心配して来てくれたんじゃないの?」
珠李「う、うん……」
母 「あの時間って、まだ六時間目が終わってないよね」
  「てことは、授業中に抜け出して来たんじゃない?」

 珠李はハッとする。

母 「最近、珠李が学校の話をしてくれるから」
  「ああ、いいクラスメートたちに出会えたんだなって喜んでたんだよね」
  「ほら、一年の時は、珠李、いっつもお腹痛いって言ってたから」

 母親は珠李としっかりと向き合う。
 その表情は真剣そのものだ。

母 「お母さんは、信じていいと思うよ。友達のことを」
  「珠李のことを受け入れてくれたんでしょ?」
  「その男の子の『秘密』も。受け入れてくれるんじゃないの?」


〇通学路 (朝)

 珠李はスーツを着た母親と歩く。
 うつむく珠李。元気がない娘を心配そうに見る母親。
 すると学校の方が何や騒がしい。

春風「お願いしまーす!」
夏帆「お願いしまーす!」

 クラスメートたちが校門前で、登校する生徒にビラを渡している。

珠李「み、みんな、な、何を……」

 朝陽が珠李に気が付く。

朝陽「夢奈!」

 みんなが駆け寄って来る。

春風「心配すんな! 絶対に目撃者を探してやるからな!」
珠李「え?」
夏帆「春風のアイディアで、ビラ作って山田先輩と珠李が話してるところを見た人を探すことにしたんだ」
珠李「ど、どうして……」
ソナタ「珠李ちゃんが人を殴るわけないですもの」
朝陽「そうだよ! ちょっとかわいいからってデタラメ言いやがって!」
春風「夢奈。俺たちは味方だからな」

 再び校門前が騒がしくなる。
 山田ココアがやって来る。後ろには三人組の女子を従えている。
 相星リヒトもいる。

ココア「なんの騒ぎですかぁ」

 落ちているビラを拾う。

ココア「目撃者を探してますって」
   「まるでココアが嘘ついてるみたいじゃない」
春風「本当に夢奈がアンタを殴ったのか?」
ココア「そうよ。急に襲いかかったら来て怖かったぁ」
   「きっとモデコンで一位になったココアを妬んたんだんでしょうね」
夏帆「ンなわけあるか!」
ココア「じゃ、本人に聞いてみれば?」

 全員の視線が珠李に向けられる。
 母親は珠李の背中をそっと押す。
 珠李の視線は相星に向けられる。
 相星、悲しそうにうつむく。
 珠李は何も答えない。

ココア「ほら、反論しないってことは認めてるってことでしょ?」
春風「だからなんだよ?」
ココア「はあ?」
春風「俺は夢奈の口からアンタを殴ったとは聞いてない」
  「夢奈が殴ったと言うまでは、俺は夢奈のことを信じる」
ココア「へえ。じゃ、言ってあげたら?」
   「『わ、わ、私が、コ、コ、ココアちゃんを殴りました』って」

 ココアは笑う。
 クラスメートたちが怒りの表情。
 相星も笑う。

夏帆「リヒト! お前まで何笑ってんだよ!」
相星「やっぱ性格はブスだね。山田さんは」
ココア「(眉間にシワを作る)はあ?」
相星「ボクを横に置いときたいだけなんでしょ?」
  「だからボクは、山田さんのペットになるのやめるよ」
ココア「そんなこと言っていいの、リヒトくん」
   「アナタが──」
相星「ゲイだってバラすって?」

 あたりが騒然となる。

相星「そうだよ。ボクは男が好きなんだ」
  「そしてボクが好きなのは──」

 春風を見る。

相星「春っち。君だ」
  「ボクは君のことが好きなんだ」

 周りの生徒たちがザワつく。
 どこからか「気持ち悪っ」とつぶやく声。

相星「らそのことをバラされたくなかったら、ペットになれって山田さんから脅迫されたんだ」
  「夢奈さんはそんなのおかしいって、山田さんを注意してくれたんだ」
  「もちろん、夢奈さんは一切に山田さんには触れてないよ」
  「でも、山田さんは逆らったら全部バラしてやるって言って──」
ココア「デタラメよ!」
相星「嘘ついてんのはそっちじゃん」
  「『余計なこと言ったらリヒトがハブられるよ』って言うから、夢奈さんは本当のことが言えなかったんだ」
ココア「こっちには証人がいるのよ」

 ココアは振り返り、三人の女子を見る。

ココア「ねえ、そうでしょ?」

 三人の女子はうなずく。

ココア「それとも、殴ってないって証明できるわけ?」

 雅が生徒たちをかき分けて来る。

雅 「なんだなんだ。ずいぶんと賑やかだな」
ココア「先生ぇ、助けてくださぁい」
   「この子達が先輩の私に言いがかりをつけてくるんですぅ」
雅 「言いがかり?」
ココア「そうなんですぅ」
   「夢奈さんが私を殴ったのに、全部嘘だって言うんです」
雅 「嘘なんだろ?」
ココア「はあ?」
   「せ、先生まで何言ってるんですか?」
雅 「山田。お前たち、帰りにハンバーガー屋に行っただろ?」
  「ずいぶん騒いだそうじゃないか」
  「『殴られたって嘘言ってやった』『ブスをまた退学にしてやった』って」

 ココアと三人の女子は顔を引きつらせる。

雅 「お前らが立ち寄りそうなところをしらみ潰しに探したんだよ」
  「店員さんたちは、山田たちのことをよく覚えてたよ。行儀が悪いってな」
  「で、店長さんに防犯カメラの映像を提供してもらったんだ」
ココア「そ、そんなの冗談で言ったんですよ」
   「だって、本人が認めてるんですから」
雅 「夢奈。本当に山田を殴ったのか?」

 雅の視線は珠李に向けられる。
 相星は「いいよ」と言わんばかりに頭を縦に振る。
 母親もうなずく。
 珠李は背筋を伸ばすと、毅然とした態度。

珠李「殴ってません!」

 雅は山田のところに行き、スマートフォンの画像を見せる。
 山田たちが馬鹿騒ぎしていて、店員たちが怪訝な表情を浮かべている。

雅 「そういうわけだ」
  「ちなみにこの画像は、校長に見てもらって改めて夢奈の処分を検討してもらう」
ココア「(素敵に笑う)先生。私の父親がどれだけ学校に寄付してるのか、お忘れですか?」
   「寄付がなくなると、困るんじゃないんですか?」
雅 「俺の生徒の夢を潰されそうになってんのに、黙って見てられるかよ」

 ココアは口惜しそうに唇を噛む。

ココア「覚えてなさいよ!」
   「パパに言ってクビにしてやるから!」

 ココアは行ってしまう。
 月組の生徒たちから歓声が上がる。

朝陽「シュンちゃん、カッコいい!」
生徒a「シュンちゃん素敵!」
生徒b「シュンちゃん、見直した!」
雅 「先生な。先生」

 珠李は目に涙を溜めて雅の元へ。

珠李「せ、先生……」

 雅は珠李の頭をポンポンする。

雅 「ありがとな。相星を守ってくれて」
珠李「い、いえ……わ、私は何も──」

 雅はおもむろに両手で珠李の両頬をツネる。
 珠李は驚いて目を見開く。

雅 「次からは、困ったことがあったら俺に相談しろ!」
  「教師、ナメんなよ!」
珠李「は、はひ(はい)……」
雅 「それからな、お前には仲間がいる」
  「夢奈が退学になったって言ったら、コイツら校長室に乗り込んで抗議したんだ」
雅 「もう一度言うぞ」
  「お前には仲間がいる。だからちゃんと頼れ! わかったか?」

 珠李は改めてクラスメートを見る。
 笑顔を浮かべる生徒たち。
 珠李も頬をツネられながらも、なんとか笑みを作る。

 母親がそっと雅に耳打ち。

母 「先生。一応、嫁入り前の娘なんで、もうその辺で」

 我に返った雅。慌てて珠李の頬から手を離す。
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