まぶしいほど、まっすぐ!

第十五話

○学校 月組の教室 (十二月二十二日の午前)

 冬服の制服に身を包む生徒たち。
 マフラーを巻き、帰り支度をする。

朝陽「よーし! 冬休みに入る前に、打ち上げやろうぜ!」
生徒a「賛成!」
生徒b「どこ行く!」
生徒c「お馴染みのカラオケしかないっしょ!」

○カラオケボックス (午後三時)

 散々歌った後なので、室内は少し落ち着いている。

朝陽「それにしても、色々あった一年だったな」
夏帆「だな」
相星「てか、みんなごめんね」
朝陽「何回謝んだよ! もういいっての!」
相星「朝っちって優しいね」
朝陽「悪いがリヒト。オレは夏帆一筋だから」
相星「大丈夫。朝っちはタイプじゃないから」
朝陽「おい!」
相星「それにしても、シュンちゃんが教師をクビにならなくてホント良かったよ」
夏帆「ホント、それな!」

 全員がソナタを見る。
 ソナタはワイングラスに注がれたジュースを飲むと、優雅にフォークとナイフでパンケーキを食べている。

 朝陽と夏帆と相星は顔を突き合わせる。

朝陽「ソナタの爺ちゃんが寄付したんだっけ?」
夏帆「しかも山田の親父よりゼロが一個多かったとか?」
相星「ボクはゼロ二個多いって聞いたけど」
夏帆「マジで!?」
朝陽「しかもシュンちゃんをクビにしろって騒ぐ教頭に『喝!』を入れたとか」

 三人はソナタを見る。

ソナタ「あっ、マルゲリータとオレンジジュースを追加してくださる?」
夏帆「てか、アイツどんだけ食うんだよ」
相星「しばらくコンテストがないから、節制しなくていいんだよ」
  「だからタガを外すんだってさ」
夏帆「タガを外すって……いつも豪華な弁当食ってんじゃん」

 席を立つ春風。

朝陽「おい、春風! どこ行くんだよ!」
  「まさか帰るんじゃないだろうな。宴はこれからだぞ!」
春風「便所だよ」


○カラオケボックス 部屋の外 トイレ

 男子用トイレで用を足す春風。
 終わると手を洗う。鏡に相星が映る。

相星「珠李ちゃんには、いつ告るつもり?」
春風「なんだって?」
相星「まさか気持ちを伝えずに海外に行っちゃうわけ?」
春風「いなくなるのに、自分の気持ちだけ押し付けんのは身勝手だろ?」
相星「それって傷つきたくないだけでしょ?」

 春風は相星の方を向く。

相星「相手のことを気遣ってるつもりかもしれないけど、あんだけ好き好きビーム出しといて」
  「最後だけ逃げるなんて卑怯じゃない?」
春風「もしも、もしもだぞ」
  「夢奈に告ってOKされたらどうすんだよ」
  「俺はいないんだぞ。夢奈が傷つくだろ」
相星「ボクの告白はあっさり断ったクセに」
春風「それは……」
相星「勝手に腫れ物扱いされる方が傷つくと思うけど」
  「かわいそうだから傷つくからって、ショーケースに入れて眺めてるだけ?」
  「傷つくかどうかを決めるのは、珠李ちゃんじゃない?」

○カラオケボックス 部屋の中

 朝陽が演歌を歌い上げている。
 夏帆は珠李の隣に座る。

夏帆「珠李、いつ春風に気持ちを伝えるつもりなんだ?」
珠李「え?」
夏帆「春風、海外に行っちまうぞ」
ソナタ「そうですわ。早くしないと」
珠李「わ、私なんかが告白したら、き、きっと迷惑──」

 夏帆とソナタがそれぞれ珠李の頬をツネる。

夏帆「私なんかってなんだ!」
ソナタ「自分で自分の価値を下げるのは、貴方を好きでいてくれる人に失礼ですわ」
夏帆「そうだ。私たちの親友の夢奈珠李を侮辱するな!」
ソナタ「たまには、わがままに自分の気持ちを相手にぶつけてみるのもいいんじゃないかしら?」
夏帆「そうだぞ。相手のことを気遣い過ぎると、逆に傷つくことってあると思う」


○帰り道 (午後六時)

 雪がチラついてくる。

朝陽「おおっ! 雪だ!」
  「春風、雪だぞ!」
夏帆「はいはい。雪降ってるな。うれしいな」

 夏帆は朝陽と肩を抱き、強引に連れて行く。
 ソナタは振り返り、珠李と春風が並んで歩いているのを見てそっと微笑む。

ソナタ「みなさん! これからわたくしのお家に招待しますわ!」
   「お家の人に許可が取れる人はお泊まりくださってもよろしくてよ」

 生徒たちから歓声が上がる。
 珠李と春風は二人きりになる。

珠李「あ、あの……」
春風「ん?」
珠李「か、海外に行っちゃうんだよね……」
春風「すまん。夢奈に言ってなかったよな」
珠李「ど、どうして?」
春風「言えなかった」

 春風は立ち止まる。

春風「夢奈のことが大事だから、言えなかったんだ」
  「でも、それじゃあダメなんだよな」

 意を決したように生唾を飲み込む春風。

春風「好きだ!」

 驚き、戸惑い、口に手を当てる珠李。

春風「学校の廊下で初めて話した時から、夢奈に恋した」
珠李「で、でも……は、春風くんはもうすぐ、い、いなくなっちゃうんだよね……」
春風「でも、今はいる! ここにいる!」
珠李「わ、私……い、今、す、すごくうれしい……は、春風くんに好きって言ってもらって、う、うれしい……」

 珠李の目から大粒の涙が溢れる。

珠李「い、いいのかな……こんなに幸せで」

 春風は珠李を抱きしめる。

春風「俺もうれしい!」


○学校 掲示板前 (三年生の春 午前中)

 掲示板にはクラス分けの張り紙。
 生徒たちは一喜一憂の様子。
 珠李は生徒たちの隙間から張り紙を覗く。

夏帆「よっ!」
珠李「な、夏帆ちゃん!」
夏帆「また同じクラスだな」
珠李「よ、よろしくね」
夏帆「こっちこそな」
  「で、他の面子は?」
珠李「ソナタちゃんも一緒だ!」
夏帆「ンだよ! ナオトもリヒトもあるじゃんよ」
珠李「ホ、ホントだ! あれ?」
夏帆「どした?」

 夏帆は張り紙を見て驚いたように目を見開く。

夏帆「おい、珠李! これって──」

 夏帆が向き直る。が、そこにはもう珠李はいない。
 珠李は三年生の教室に向かって走り出している。
 教室のドアを開ける珠李。
 息を切らした珠李の目に春風の姿。
 振り返る春風。

春風「よう」
珠李「ど、どうして……」
春風「海外に行くのは、卒業してからにした」
珠李「ヒ、ヒメ姉さんがそうしろって言ったの?」
春風「いや、これは俺が決めた」
  「俺がそうしたいと思ったんだ」

 満面の笑みを浮かべる珠李と春風。
 春の穏やかな風が吹き抜けていく。
                   《終わり》
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