まぶしいほど、まっすぐ!
第二話
〇珠李の自宅 粗末な長屋 (夕方)
六畳二間の家。
家具はタンスやテーブルなど質素。部屋の隅には古びたミシン。
スウェットにエプロン姿の珠李が台所に立っている。
珠李(どうしよう……コンテストに出られるような服なんてないし……)
(それにしても、どうして私なんかが代表に選ばれたんだろ)
小学生の男の子が珠李の足にしがみつく。
弟1「姉ちゃん、お腹空いたよぉ」
手狭な居間では他の弟と妹が遊んでいる。
珠李「も、も、もうすぐカレーが、で、できるから待ってて」
妹 「お母さんはぁ」
珠李「た、たぶん今日も遅くなるだろうから、さ、先に食べちゃお」
弟妹「えー!」
〇珠李の自宅 (午後十時過ぎ)
玄関のドアが開く。
風呂上がりの珠李。髪を拭きながら玄関へ。
珠李「お、おかえり、お母さん」
母親は珠李を抱きしめる。
母 「ただいまぁ」
部屋の中に向けて鼻をクンクン。
母 「おっ、今日は珠李の特製カレーだな」
珠李「さ、さすが! 大正解!」
母 「やったね!」
珠李「あ、温めとくから着替えてきて」
母 「了解。と、その前に──」
母親はそっと襖を開けて、寝ている子供たちの寝顔を見て微笑む。
〇珠李の自宅 (午後十一時)
母親は玄関でスニーカーを履く。
母 「じゃ、お母さんはこれからパチンコ店の清掃に行ってくるから、後はお願いね」
珠李「う、うん。気を付けてね」
母 「ありがと。カレーおいしかった」
「あっ、珠李」
珠李「な、何?」
母 「何か学校でいるものない?」
「あるんなら言いなよ。そのためにお母さん、がんばってパートしてんだからね」
珠李「うん。わ、わかってる」
「い、今のところは、だ、大丈夫だから」
母 「そう。だったらいいけど」
「じゃ、行って来るね」
玄関が閉められる。
珠李(やっぱり、コンテスト用の服は自分で作ろう!)
押し入れの中の段ボールの中を探す。
珠李(生地があればワンピースくらいなら──!)
(これってもしかして)
〇櫻貴ユニバーサル高等学校 職員室内 (朝)
教師たちが一限目の授業の準備に忙しい。
神経質そうな男、教頭が雅のところへやって来る。
教頭がやって来るのを見て、自分の席にいた雅は「ゲッ」と舌を出す。
教頭「雅先生」
教頭を見上げる雅。作り笑顔。
雅 「おはようございます。教頭先生」
教頭「先生のモデルコンテストの代表の件ですが」
「白河ではないとか」
雅 「さすがお耳が早い」
教頭「この学校のことで私が知らないことはありません」
コホンと咳払い。
教頭「ところで、大丈夫なんでしょうか」
雅 「何がですか?」
教頭「月組の女子代表は、吃音の子だっていうじゃないですか」
雅 「(ムッとして)夢奈です」
教頭「なんでわざわざあんな地味な子を代表に選んだんです?」
「まさかイジメられてるってことはないでしょうね」
「吃音の子は一年の時も厄介事を──」
雅 「おかしいですね」
教頭「(怪訝な表情)は?」
雅 「確か我が校には」
「創立以来、イジメなんて一度もなかったのでは?」
教頭「もちろんです。これからもあり得ません」
「ただ、私は確認をしているだけです」
雅 「ご心配には及びませんよ」
「夢奈はイジメられてるわけじゃありません」
教頭「ならいいんですが」
「(ため息まじりに)月組はただでさえ『動物園』などと揶揄されるくらい」
「変り者が集まってるわけですからね」
「問題を起こさないよう、くれぐれもお願いしますよ」
雅、立ち去る教頭の背中に、冷ややかな視線を送る。
〇多目的ホールの建物内 舞台裏 (午前九時)
モデル科の男女は準備に忙しい。
珠李はおずおずと準備室の隅に行く。
珠李(みんなやっぱり、スタイル良いなぁ)
激しく頭を左右に振る。
珠李(ダメダメ! 見惚れてる場合じゃないんだ)
バスタオルで作ったポンチョを頭から被って全身を覆う。
その中で着替える珠李。
春風「夢奈」
珠李が左右を見回す。
舞台裏の奥の方で手招きしている春風を見つける。
珠李「は、春風くん!?」
春風「ちょっとこっち来い」
珠李「え!?」
〇多目的ホールの建物裏 (午前九時)
誰もいない。
ポツンと折り畳みの椅子がある。
春風「とりあえず座れ」
珠李「う、うん……」
春風は珠李の前で膝をつく。
春風「ここなら人目につかないから」
珠李「な、何するの?」
春風「俺がメイクしてやる」
珠李「で、でも、メイクも髪の毛も、じ、自分でやらないと……」
春風「そんなルールを守ってるヤツなんていなよ」
珠李「そ、そうなの!?」
春風「舞台裏にいたヤツら、みんな髪もメイクもバッチリだったろ?」
珠李「た、確かに……」
春風「モデル科のヤツらは、この日のために何カ月も前から」
「お気に入りのメイク科とヘアアーティスト科の連中とリハしてんだよ」
珠李「そ、そうなんだ……」
(私は一回も声かけてもらったことないや……)
春風はカバンからメイク道具を取り出す。
春風「一夜漬けだけどな」
「徹夜で夢奈の顔立ちに映えるメイクを考えてきた」
珠李「わ、わ、私のために!?」
相星「あ~! ズルしてる!」
ファッショナブルな衣装に身を包み、メイクされている。
まるでアイドルのようだ。
やって来た相星リヒトを見て慌てる珠李。
珠李「あ、相星くん!」
「ち、違うの! わ、私が無理やり頼んだだけで」
「は、春風くんは悪くなくて──」
相星「何慌ててんのさ。夢奈さん」
春風「リヒトのメイクも俺がやったんだよ」
珠李はまじまじと相星を見る。
アイシャドーや、ラメなどが施されている。
相星「どう?」
珠李「す、すごくかっこいい……」
相星「ありがと」
「春っちはボクの専属メイクさんだからね」
「ボクがより映えるメイクを知ってるんだよ」
珠李「な、なるほど……」
春風「専属になった覚えはねぇよ」
「てか夢奈、ちょっとこっち向け」
春風にアゴクイされる。
珠李は頬を赤らめる。
春風「さっそくメイクする──」
「え? なんだよ!?」
春風は横を見上げている。
春風「ヒメ姉、時間がないんだって」
「(眉根を寄せ)衣装?」
春風、珠李がポンチョを着ていることに初めて気が付いた様子。
春風「もしかして、この中に衣装着てんのか?」
相星「そりゃそうでしょ。まさかこの格好で出ると思ったの?」
春風「ちょっと見るぞ」
珠李「え、ええっ!? ちょ、ちょっと待って」
ポンチョをめくり上げられ戸惑う珠李。
相星は目を見張る。
相星「春っち、大胆すぎ──って、ワオッ!」
春風「これって──」
珠李「お、押し入れの中にあったのを、少し手直ししたんだけど……」
「へ、変かな?」
相星「全然! てか、メッチャ可愛いじゃん!」
「ねえ、春っち!」
春風「(呟くように)わかてるって」
「衣装と考えてきたメイクじゃ」
「コンセプトが合わないってんだろ」
「ああ。だとすると90年代風にした方がいいよな」
急に春風の顔が目の前に迫って来る。ドギマギする珠李。
春風は夢中でメイクをする。
数分後──
春風「こんなものか」
相星「おおっ!」
「なんかいつもの夢奈さんじゃないみたい」
春風「どうだ?」
春風が持つ手鏡に映る自分の顔を見て、珠李は見惚れる。
すると背後から声。
夏帆「おいおい。まさかそれで完成じゃないだろうな」
大瀬夏帆は憮然とした表情。
いつものように男子の制服を着ている。
相星「(楽し気に)夏っちゃん!」
「何しにここへ?」
夏帆「髪の毛がまだだろうが」
「アタシがやってやるよ」
相星「あらら。興味なさそうだったのに」
「白票は夏っちゃんでしょ?」
*珠李の回想。
黒板。
一票だけ白票。
*珠李の回想終わり。
夏帆「やり方が気に食わなかったんだよ」
相沢「は?」
夏帆「ソナタのヤツが、みんなに呼びかけてたんだよ」
「夢奈に投票するように、ってな」
珠李「し、白河さんが?」
夏帆「お前がいっつも一人だから」
「みんなと打ち解けられるように、代表にしてあげようって言ってな」
夏帆は苦虫を嚙み潰したような表情をしながら、手際よく珠李の髪の毛をセットしていく。
夏帆「春風と相星も言われただろ?」
相星「まあね」
「ボクはソナっちに入れたけど」
夏帆「よし! セット終わり」
珠李の首に巻いていたタオルを取る。
夏帆「アイツ、夢奈を代表にして」
「みんなの前で恥をかかせようと──」
珠李は勢い良く立ち上がる。
珠李「わ、私、が、が、頑張る!」
夏帆「はあ?」
珠李「し、白河さんが、わ、私のために動いて、く、くれたんだもの」
夏帆「あのなぁ、アイツはお前のことを笑い者に──」
珠李「そ、それに春風くんや相星くん、それから大瀬さんが力を貸してくれたんだから!」
アナウンス『出場者のみなさんは、舞台裏に集ってください』
珠李「せめて、さ、さ、最下位だけには、な、ならないようにしなきゃ!」
「私、い、行ってくるね!」
夏帆「おい! アタシの話を聞けっての!」
珠李は鼻息荒く歩いて行く。
夏帆はポカンとしたまま珠李を見送る。
夏帆「何なのさ! アイツ!」
春風は肩を揺すって笑う。
春風「やっぱ変だよな。夢奈って」
春風と夏帆の後ろで、相星が鋭い視線を向けている。
六畳二間の家。
家具はタンスやテーブルなど質素。部屋の隅には古びたミシン。
スウェットにエプロン姿の珠李が台所に立っている。
珠李(どうしよう……コンテストに出られるような服なんてないし……)
(それにしても、どうして私なんかが代表に選ばれたんだろ)
小学生の男の子が珠李の足にしがみつく。
弟1「姉ちゃん、お腹空いたよぉ」
手狭な居間では他の弟と妹が遊んでいる。
珠李「も、も、もうすぐカレーが、で、できるから待ってて」
妹 「お母さんはぁ」
珠李「た、たぶん今日も遅くなるだろうから、さ、先に食べちゃお」
弟妹「えー!」
〇珠李の自宅 (午後十時過ぎ)
玄関のドアが開く。
風呂上がりの珠李。髪を拭きながら玄関へ。
珠李「お、おかえり、お母さん」
母親は珠李を抱きしめる。
母 「ただいまぁ」
部屋の中に向けて鼻をクンクン。
母 「おっ、今日は珠李の特製カレーだな」
珠李「さ、さすが! 大正解!」
母 「やったね!」
珠李「あ、温めとくから着替えてきて」
母 「了解。と、その前に──」
母親はそっと襖を開けて、寝ている子供たちの寝顔を見て微笑む。
〇珠李の自宅 (午後十一時)
母親は玄関でスニーカーを履く。
母 「じゃ、お母さんはこれからパチンコ店の清掃に行ってくるから、後はお願いね」
珠李「う、うん。気を付けてね」
母 「ありがと。カレーおいしかった」
「あっ、珠李」
珠李「な、何?」
母 「何か学校でいるものない?」
「あるんなら言いなよ。そのためにお母さん、がんばってパートしてんだからね」
珠李「うん。わ、わかってる」
「い、今のところは、だ、大丈夫だから」
母 「そう。だったらいいけど」
「じゃ、行って来るね」
玄関が閉められる。
珠李(やっぱり、コンテスト用の服は自分で作ろう!)
押し入れの中の段ボールの中を探す。
珠李(生地があればワンピースくらいなら──!)
(これってもしかして)
〇櫻貴ユニバーサル高等学校 職員室内 (朝)
教師たちが一限目の授業の準備に忙しい。
神経質そうな男、教頭が雅のところへやって来る。
教頭がやって来るのを見て、自分の席にいた雅は「ゲッ」と舌を出す。
教頭「雅先生」
教頭を見上げる雅。作り笑顔。
雅 「おはようございます。教頭先生」
教頭「先生のモデルコンテストの代表の件ですが」
「白河ではないとか」
雅 「さすがお耳が早い」
教頭「この学校のことで私が知らないことはありません」
コホンと咳払い。
教頭「ところで、大丈夫なんでしょうか」
雅 「何がですか?」
教頭「月組の女子代表は、吃音の子だっていうじゃないですか」
雅 「(ムッとして)夢奈です」
教頭「なんでわざわざあんな地味な子を代表に選んだんです?」
「まさかイジメられてるってことはないでしょうね」
「吃音の子は一年の時も厄介事を──」
雅 「おかしいですね」
教頭「(怪訝な表情)は?」
雅 「確か我が校には」
「創立以来、イジメなんて一度もなかったのでは?」
教頭「もちろんです。これからもあり得ません」
「ただ、私は確認をしているだけです」
雅 「ご心配には及びませんよ」
「夢奈はイジメられてるわけじゃありません」
教頭「ならいいんですが」
「(ため息まじりに)月組はただでさえ『動物園』などと揶揄されるくらい」
「変り者が集まってるわけですからね」
「問題を起こさないよう、くれぐれもお願いしますよ」
雅、立ち去る教頭の背中に、冷ややかな視線を送る。
〇多目的ホールの建物内 舞台裏 (午前九時)
モデル科の男女は準備に忙しい。
珠李はおずおずと準備室の隅に行く。
珠李(みんなやっぱり、スタイル良いなぁ)
激しく頭を左右に振る。
珠李(ダメダメ! 見惚れてる場合じゃないんだ)
バスタオルで作ったポンチョを頭から被って全身を覆う。
その中で着替える珠李。
春風「夢奈」
珠李が左右を見回す。
舞台裏の奥の方で手招きしている春風を見つける。
珠李「は、春風くん!?」
春風「ちょっとこっち来い」
珠李「え!?」
〇多目的ホールの建物裏 (午前九時)
誰もいない。
ポツンと折り畳みの椅子がある。
春風「とりあえず座れ」
珠李「う、うん……」
春風は珠李の前で膝をつく。
春風「ここなら人目につかないから」
珠李「な、何するの?」
春風「俺がメイクしてやる」
珠李「で、でも、メイクも髪の毛も、じ、自分でやらないと……」
春風「そんなルールを守ってるヤツなんていなよ」
珠李「そ、そうなの!?」
春風「舞台裏にいたヤツら、みんな髪もメイクもバッチリだったろ?」
珠李「た、確かに……」
春風「モデル科のヤツらは、この日のために何カ月も前から」
「お気に入りのメイク科とヘアアーティスト科の連中とリハしてんだよ」
珠李「そ、そうなんだ……」
(私は一回も声かけてもらったことないや……)
春風はカバンからメイク道具を取り出す。
春風「一夜漬けだけどな」
「徹夜で夢奈の顔立ちに映えるメイクを考えてきた」
珠李「わ、わ、私のために!?」
相星「あ~! ズルしてる!」
ファッショナブルな衣装に身を包み、メイクされている。
まるでアイドルのようだ。
やって来た相星リヒトを見て慌てる珠李。
珠李「あ、相星くん!」
「ち、違うの! わ、私が無理やり頼んだだけで」
「は、春風くんは悪くなくて──」
相星「何慌ててんのさ。夢奈さん」
春風「リヒトのメイクも俺がやったんだよ」
珠李はまじまじと相星を見る。
アイシャドーや、ラメなどが施されている。
相星「どう?」
珠李「す、すごくかっこいい……」
相星「ありがと」
「春っちはボクの専属メイクさんだからね」
「ボクがより映えるメイクを知ってるんだよ」
珠李「な、なるほど……」
春風「専属になった覚えはねぇよ」
「てか夢奈、ちょっとこっち向け」
春風にアゴクイされる。
珠李は頬を赤らめる。
春風「さっそくメイクする──」
「え? なんだよ!?」
春風は横を見上げている。
春風「ヒメ姉、時間がないんだって」
「(眉根を寄せ)衣装?」
春風、珠李がポンチョを着ていることに初めて気が付いた様子。
春風「もしかして、この中に衣装着てんのか?」
相星「そりゃそうでしょ。まさかこの格好で出ると思ったの?」
春風「ちょっと見るぞ」
珠李「え、ええっ!? ちょ、ちょっと待って」
ポンチョをめくり上げられ戸惑う珠李。
相星は目を見張る。
相星「春っち、大胆すぎ──って、ワオッ!」
春風「これって──」
珠李「お、押し入れの中にあったのを、少し手直ししたんだけど……」
「へ、変かな?」
相星「全然! てか、メッチャ可愛いじゃん!」
「ねえ、春っち!」
春風「(呟くように)わかてるって」
「衣装と考えてきたメイクじゃ」
「コンセプトが合わないってんだろ」
「ああ。だとすると90年代風にした方がいいよな」
急に春風の顔が目の前に迫って来る。ドギマギする珠李。
春風は夢中でメイクをする。
数分後──
春風「こんなものか」
相星「おおっ!」
「なんかいつもの夢奈さんじゃないみたい」
春風「どうだ?」
春風が持つ手鏡に映る自分の顔を見て、珠李は見惚れる。
すると背後から声。
夏帆「おいおい。まさかそれで完成じゃないだろうな」
大瀬夏帆は憮然とした表情。
いつものように男子の制服を着ている。
相星「(楽し気に)夏っちゃん!」
「何しにここへ?」
夏帆「髪の毛がまだだろうが」
「アタシがやってやるよ」
相星「あらら。興味なさそうだったのに」
「白票は夏っちゃんでしょ?」
*珠李の回想。
黒板。
一票だけ白票。
*珠李の回想終わり。
夏帆「やり方が気に食わなかったんだよ」
相沢「は?」
夏帆「ソナタのヤツが、みんなに呼びかけてたんだよ」
「夢奈に投票するように、ってな」
珠李「し、白河さんが?」
夏帆「お前がいっつも一人だから」
「みんなと打ち解けられるように、代表にしてあげようって言ってな」
夏帆は苦虫を嚙み潰したような表情をしながら、手際よく珠李の髪の毛をセットしていく。
夏帆「春風と相星も言われただろ?」
相星「まあね」
「ボクはソナっちに入れたけど」
夏帆「よし! セット終わり」
珠李の首に巻いていたタオルを取る。
夏帆「アイツ、夢奈を代表にして」
「みんなの前で恥をかかせようと──」
珠李は勢い良く立ち上がる。
珠李「わ、私、が、が、頑張る!」
夏帆「はあ?」
珠李「し、白河さんが、わ、私のために動いて、く、くれたんだもの」
夏帆「あのなぁ、アイツはお前のことを笑い者に──」
珠李「そ、それに春風くんや相星くん、それから大瀬さんが力を貸してくれたんだから!」
アナウンス『出場者のみなさんは、舞台裏に集ってください』
珠李「せめて、さ、さ、最下位だけには、な、ならないようにしなきゃ!」
「私、い、行ってくるね!」
夏帆「おい! アタシの話を聞けっての!」
珠李は鼻息荒く歩いて行く。
夏帆はポカンとしたまま珠李を見送る。
夏帆「何なのさ! アイツ!」
春風は肩を揺すって笑う。
春風「やっぱ変だよな。夢奈って」
春風と夏帆の後ろで、相星が鋭い視線を向けている。