まぶしいほど、まっすぐ!
第三話
○多目的ホール建物内 舞台裏 (午前九時三十分)
薄暗い中、緊張した面持ちの珠李。
珠李(とりあえず、ランウェイでは転ばないようにしなきゃ)
ココア「ちょっと、ごめんなさい」
三年生の山田ココアが立っている。背後にはお付きの女子生徒たちが三人。
珠李(三年のモデル科の山田さんだ!)
ココア「通らせもらってもいいかな」
珠李「す、すみません……」
ココア「こちらこそごめんなさい──」
「って、モデル科の子?」
珠李「わ、私は、に、二年のメイク科で……」
「月組のク、クラスのみんなが選んでくれたんです」
ココア「月組ってことは──ソナタちゃんのクラスだ」
珠李「そ、そうです! し、白河さんがみんなに声をかけてくれて」
ココア「そうなんだ……」
「じゃあ、一緒にランウェイ歩けないんだ」
「ココア、ガッカリだなぁ」
珠李「す、すみません。わ、私なんかで……」
ココア「ううん。あなただってとってもかわいいわよ!」
珠李「ほ、ホントですか!?」
ココア「もちろんよ」
「でも──」
ココアは珠李を物珍しそうに見る。
ココア「その恰好で出るの?」
珠李「え?」
珠李は自分の格好を見て慌てる。
バスタオルで作ったポンチョを着たまま。
珠李は赤面しながら脱ぐ。
ココア「まあ、そのお洋服、とっても可愛いわね」
珠李「あ、ありがとうございます!」
「や、山田さんも、か──」
ココアに抱きしめられる。
ココア「ココアって呼んで」
「苗字は嫌いなの」
珠李「す、すみません……」
ココアは体を離すと、ニッコリと笑う。
ココア「じゃ、ココア、そろそろ行かなきゃ」
「お互いに頑張りましょうね」
珠李「は、はい!」
(山田さんに応援されちゃった!)
舞台裏の暗闇に消えていくココア。
表情が意地悪そうな笑みになる。
ココア「キモ。何、あのしゃべり方」
〇多目的ホール 建物裏 (午後三時)
段になったところで珠李は膝を抱えてうずくまる。
隣には春風。
珠李「ま、まさかこんな結果に、な、なるとは……」
春風「なんだよ。一位取れるって思ってたのか?」
珠李はパッと顔を上げて春風を見る。
珠李「そ、そ、そういうわけじゃ……」
「た、ただ、みんなに合わせる顔がなくて……」
珠李の頭の上に、春風の手がそっと乗せられる。
戸惑う珠李。
春風「そんなに落ち込む必要はないと思うけど」
珠李「(顔を赤らめ)で、でも……」
遠くからガヤガヤと騒がしい。
朝陽「おっ! あんなところにいたぞ」
「おーい、みんな。夢奈がいたぞ!」
朝陽ナオトの呼びかけに、クラスメートたちが続々と集まって来る。
みんな軍手をはめ、ゴミ袋や清掃用トングを持っている。
立ち上がって頭を下げる珠李。半べそ状態。
珠李「み、みんな、ごめん、な、なさい」
「さ、最下位になってしまって……」
クラスメートに囲まれ、ギョッとする珠李。
珠李「え、ええ!?」
生徒a「この服、自分で作ったの!?」
生徒b「メッチャ可愛いんですけど!」
珠李「で、でも、審査員の人には評価されなくて……」
朝陽「気にすんなって」
「みんなココア先輩しか見てねえんだから」
「他は目くそ鼻くそなんだって」
珠李「め、目く……」
朝陽「相星が一位になったおかげで、草むしりは宙組と半分こになったんだし」
「結果オーライじゃね?」
珠李「け、結果オ、オーライ、なの?」
生徒c「そんなことよりさ。夢奈さん」
「その服の作り方教えて。何か参考にしたの?」
珠李「(戸惑いながら)こ、これは」
「ウ、ウチのお祖母ちゃんの洋服を、て、手直ししたもので……」
朝陽「だからか。ちょっとレトロちっくだよな」
「平成? いや、昭和か」
生徒d「メイクと髪型も良くね?」
生徒e「うん。全体の雰囲気に合ってるね」
珠李「こ、これは春風くんと」
「大瀬さんのおかげで……」
朝陽「何を!? さすがは夏帆!」
夏帆「呼び捨てすんな!」
朝陽「いいじゃんよ。オレと夏帆の仲なんだから」
珠李「ふ、二人は付き合ってるの!?」
朝陽「そう」
夏帆「付き合ってない!」
「ただの幼馴染だ!」
朝陽「ンもう! 照れ屋なんだから、夏帆は!」
雅 「おーい、お前ら」
両手に袋を抱えて担任の雅がやって来る。
雅 「差し入れ持ってきてやったぞ」
朝陽「さすがシュンちゃん!」
雅 「先生な」
袋を受け取った生徒の顔が明るくなる。
生徒f「(袋を覗き)あっ! 肉まんだ!」
生徒g「ピザまん、ある!?」
生徒h「私、カレーまんがいい!」
雅は春風のところへ行く。
肉まんを渡してやる。
雅 「ほれ」
「安月給の教師が買ってやったんだから、有難く食えよ」
春風「どもっす」
雅 「(肉まんを頬張りながら)ところで、夢奈にメイクしてやったんだって?」
春風「シュンちゃん的には、誤魔化して欲しいっすか?」
雅 「だから先生な」
「(苦笑して)髪もメイクも」
「モデル自身がやってるなんて、誰も思ってないよ」
春風「ですね」
「メイクは俺がやりました」
雅 「へえ。珍しいじゃないか」
「他人に興味ないお前が」
春風「ヒメ姉が助けてやれってうるさいんで」
雅 「そっか」
春風「なんすか?」
雅 「いや、もしかして『例の件』」
「気が変わったのかなって思ってな」
春風「何でそう思うんすか」
雅 「何んとなくな。教師の勘ってヤツだ」
春風「考えは変わりませんよ」
雅 「姉さんは何て?」
春風「『私の夢は託した』って」
クラスメートたちから歓声が上がる。
生徒i「もう一回、回ってみて」
珠李「こ、こう?」
生徒j「やっぱ、腰のリボンがかわいいよね」
「それに大きな襟も!」
生徒k「スマホで撮っていい?」
珠李「う、うん……」
戸惑いつつもクラスメートの要求に応えてポーズを取る珠李。
そんな珠李を、微笑ましく見つめる春風。
雅は春風の横顔を見ながら、暗く沈んだ表情。
薄暗い中、緊張した面持ちの珠李。
珠李(とりあえず、ランウェイでは転ばないようにしなきゃ)
ココア「ちょっと、ごめんなさい」
三年生の山田ココアが立っている。背後にはお付きの女子生徒たちが三人。
珠李(三年のモデル科の山田さんだ!)
ココア「通らせもらってもいいかな」
珠李「す、すみません……」
ココア「こちらこそごめんなさい──」
「って、モデル科の子?」
珠李「わ、私は、に、二年のメイク科で……」
「月組のク、クラスのみんなが選んでくれたんです」
ココア「月組ってことは──ソナタちゃんのクラスだ」
珠李「そ、そうです! し、白河さんがみんなに声をかけてくれて」
ココア「そうなんだ……」
「じゃあ、一緒にランウェイ歩けないんだ」
「ココア、ガッカリだなぁ」
珠李「す、すみません。わ、私なんかで……」
ココア「ううん。あなただってとってもかわいいわよ!」
珠李「ほ、ホントですか!?」
ココア「もちろんよ」
「でも──」
ココアは珠李を物珍しそうに見る。
ココア「その恰好で出るの?」
珠李「え?」
珠李は自分の格好を見て慌てる。
バスタオルで作ったポンチョを着たまま。
珠李は赤面しながら脱ぐ。
ココア「まあ、そのお洋服、とっても可愛いわね」
珠李「あ、ありがとうございます!」
「や、山田さんも、か──」
ココアに抱きしめられる。
ココア「ココアって呼んで」
「苗字は嫌いなの」
珠李「す、すみません……」
ココアは体を離すと、ニッコリと笑う。
ココア「じゃ、ココア、そろそろ行かなきゃ」
「お互いに頑張りましょうね」
珠李「は、はい!」
(山田さんに応援されちゃった!)
舞台裏の暗闇に消えていくココア。
表情が意地悪そうな笑みになる。
ココア「キモ。何、あのしゃべり方」
〇多目的ホール 建物裏 (午後三時)
段になったところで珠李は膝を抱えてうずくまる。
隣には春風。
珠李「ま、まさかこんな結果に、な、なるとは……」
春風「なんだよ。一位取れるって思ってたのか?」
珠李はパッと顔を上げて春風を見る。
珠李「そ、そ、そういうわけじゃ……」
「た、ただ、みんなに合わせる顔がなくて……」
珠李の頭の上に、春風の手がそっと乗せられる。
戸惑う珠李。
春風「そんなに落ち込む必要はないと思うけど」
珠李「(顔を赤らめ)で、でも……」
遠くからガヤガヤと騒がしい。
朝陽「おっ! あんなところにいたぞ」
「おーい、みんな。夢奈がいたぞ!」
朝陽ナオトの呼びかけに、クラスメートたちが続々と集まって来る。
みんな軍手をはめ、ゴミ袋や清掃用トングを持っている。
立ち上がって頭を下げる珠李。半べそ状態。
珠李「み、みんな、ごめん、な、なさい」
「さ、最下位になってしまって……」
クラスメートに囲まれ、ギョッとする珠李。
珠李「え、ええ!?」
生徒a「この服、自分で作ったの!?」
生徒b「メッチャ可愛いんですけど!」
珠李「で、でも、審査員の人には評価されなくて……」
朝陽「気にすんなって」
「みんなココア先輩しか見てねえんだから」
「他は目くそ鼻くそなんだって」
珠李「め、目く……」
朝陽「相星が一位になったおかげで、草むしりは宙組と半分こになったんだし」
「結果オーライじゃね?」
珠李「け、結果オ、オーライ、なの?」
生徒c「そんなことよりさ。夢奈さん」
「その服の作り方教えて。何か参考にしたの?」
珠李「(戸惑いながら)こ、これは」
「ウ、ウチのお祖母ちゃんの洋服を、て、手直ししたもので……」
朝陽「だからか。ちょっとレトロちっくだよな」
「平成? いや、昭和か」
生徒d「メイクと髪型も良くね?」
生徒e「うん。全体の雰囲気に合ってるね」
珠李「こ、これは春風くんと」
「大瀬さんのおかげで……」
朝陽「何を!? さすがは夏帆!」
夏帆「呼び捨てすんな!」
朝陽「いいじゃんよ。オレと夏帆の仲なんだから」
珠李「ふ、二人は付き合ってるの!?」
朝陽「そう」
夏帆「付き合ってない!」
「ただの幼馴染だ!」
朝陽「ンもう! 照れ屋なんだから、夏帆は!」
雅 「おーい、お前ら」
両手に袋を抱えて担任の雅がやって来る。
雅 「差し入れ持ってきてやったぞ」
朝陽「さすがシュンちゃん!」
雅 「先生な」
袋を受け取った生徒の顔が明るくなる。
生徒f「(袋を覗き)あっ! 肉まんだ!」
生徒g「ピザまん、ある!?」
生徒h「私、カレーまんがいい!」
雅は春風のところへ行く。
肉まんを渡してやる。
雅 「ほれ」
「安月給の教師が買ってやったんだから、有難く食えよ」
春風「どもっす」
雅 「(肉まんを頬張りながら)ところで、夢奈にメイクしてやったんだって?」
春風「シュンちゃん的には、誤魔化して欲しいっすか?」
雅 「だから先生な」
「(苦笑して)髪もメイクも」
「モデル自身がやってるなんて、誰も思ってないよ」
春風「ですね」
「メイクは俺がやりました」
雅 「へえ。珍しいじゃないか」
「他人に興味ないお前が」
春風「ヒメ姉が助けてやれってうるさいんで」
雅 「そっか」
春風「なんすか?」
雅 「いや、もしかして『例の件』」
「気が変わったのかなって思ってな」
春風「何でそう思うんすか」
雅 「何んとなくな。教師の勘ってヤツだ」
春風「考えは変わりませんよ」
雅 「姉さんは何て?」
春風「『私の夢は託した』って」
クラスメートたちから歓声が上がる。
生徒i「もう一回、回ってみて」
珠李「こ、こう?」
生徒j「やっぱ、腰のリボンがかわいいよね」
「それに大きな襟も!」
生徒k「スマホで撮っていい?」
珠李「う、うん……」
戸惑いつつもクラスメートの要求に応えてポーズを取る珠李。
そんな珠李を、微笑ましく見つめる春風。
雅は春風の横顔を見ながら、暗く沈んだ表情。