まぶしいほど、まっすぐ!
第五話
〇大豪邸 春風の自宅 外(午後四時)
門の前で立ち尽くす珠李。
珠李「こ、ここが、は、春風くんの家!?」
春風「ああ」
珠李(春風くんって、お金持ちなんだ……)
春風「お袋、起きてるといいけどな」
珠李「お、お母さん、具合が悪いの?」
春風「ちょっとな……」
珠李「じゃ、じゃあ、また今度にした方が」
春風「いや、最近はすごく顔色がいいんだよ」
「さっきメールしたら、体調はいいって言ってたから。でも、急に気分が悪くなることもあるから」
珠李「そ、そうなんだ……」
〇大豪邸 春風自宅内 (午後四時)
中に入ると、すぐに春風の母親、柚乃が出迎える。
柚乃「お帰りなさい、漣」
春風「起きてて大丈夫かよ」
柚乃「ええ。今日はとっても体調がいいの」
「で、そちらのお嬢さんが?」
珠李「ゆ、夢奈珠李って言います!」
春風「メールでも書いたけど」
「夢奈に採寸させてやってよ」
柚乃「私で良ければお安い御用よ」
〇柚乃の自室
採寸の支度をする珠李。
柚乃、部屋の中央に立つと、息子を見つめる。
春風「(怪訝な表情で)何?」
柚乃「母親の裸を見たいの?」
春風「な、何言ってんだよ!?」
柚乃「何って。ねえ、珠李ちゃん」
珠李「せ、正確な採寸をするには」
「下着姿に、な、ならないとだから……」
春風は顔を赤らめて部屋を出て行く。
柚乃「じゃ、早速測ってもらおうかしら」
下着姿になる柚乃は珠李に背中を向けて立つ。
珠李はメジャーを手に採寸する。
珠李(綺麗……)
「し、失礼します」
柚乃「ありがとうね、珠李ちゃん」
珠李「え? お、お礼を言うのは」
「わ、私の方です。が、学校の課題に協力していただいて──」
柚乃「嘘なんでしょ?」
珠李「い、いえ……こ、これは本当に……」
柚乃「無理しなくていいのよ」
柚乃は振り返る。
柚乃「モデル科の子より」
「こんなオバさんの方がいいなんておかしいもの」
「私の誕生日プレゼントに、衣装を作るよう漣に頼まれたんでしょ?」
珠李「す、すみません……」
柚乃「謝らないで」
「私は嬉しいの」
「ヒメカが亡くなってから」
「漣は人を遠ざけて、ふさぎ込むことが多かったから」
柚乃の視線の先には、棚の上の家族写真。春風の隣に美しい少女。
珠李(春風くんが言ってる『ヒメ姉』って……)
柚乃「あの子はお姉さん子だったから」
「かなりショックを受けてたんだけど」
「でも、漣以上に私が参っちゃってね……」
「そんな私を元気づけようと、『ヒメ姉』が視えるなんて言い出して」
「あの子は本当に優しい子で──」
珠李「います!」
柚乃「え?」
珠李「ヒ、ヒメカさんはちゃんといます!」
「は、春風くんの側にいます。今もここにいて、お、お、お二人のことを見守ってます」
驚いたように目を見開く柚乃。やがて相好を崩す。
柚乃「漣が最近すごく楽しそうなのは、きっと珠李ちゃんのおかげね」
珠李「そ、そんな、わ、私なんて……」
柚乃「ヒメカが亡くなってから」
「学校の話なんてほとんどしなかったのに」
「今は毎日何があったのか話してくれるの」
「中でも一番多いのはあなたの話」
珠李「わ、私、のこと、で、ですか!?」
柚乃「そう。『夢奈って変なヤツがいてさ』って言ってね」
珠李(変なヤツ……)
柚乃「(楽しそうに笑いながら)たぶん、あの子」
「あなたに恋してると思う」
〇帰り道の道路 (午後六時)
薄暗くなった歩道を並んで歩く珠李と春風。
春風「夢奈。聞いてる?」
珠李「え? な、何!?」
春風「ぼーっとして、何か考え事か?」
珠李「べ、別になんでもな……」
*珠李の回想
ウインクする柚乃。
柚乃『あなたに恋してるって話。漣には内緒ね』
『私がそんなこと言ったってわかったら、あの子、きっと怒るだろうから』
『思春期の男の子の母親って、大変なの』
*回想終わり。
春風「じゃ、いつにしようか。買い物」
珠李「か、買い物!?」
「な、何の?」
春風「何のって、服作るんだから」
「布とか、ボタンとかいろいろいるだろ?」
珠李「そ、そうだけど」
「材料は、わ、私が──」
春風「俺一人だと何買っていいかわかんないからさ」
「夢奈について来てもらわないと、見当違いのモンを買っちまうから」
「てことで、今度の日曜でいいか?」
珠李「う、うん……」
春風「そっか、良かった」
「それから遅くまで悪かったな」
「弟さんたち、大丈夫か?」
珠李「お、遅くなる時は、お隣のおばちゃんが見ててくれるから」
春風「そっか。お袋のヤツ、一人でしゃべりまくってて、うるさかったろ?」
珠李「た、楽しかったよ! ひ、妃皇歌劇団のお話、た、たくさんできたから」
「こ、こっちこそごめんなんさい。お、お土産までもらちゃって」
珠李の手にはチェックの風呂敷に包まれたタッパー。
春風「(苦笑して)お土産つっても」
「タッパーの中、晩飯用の肉じゃがだけどな」
珠李「と、とっても、う、うれしい」
「ウチ、きょ、兄弟多いから」
「あっ、タ、タッパーは、洗って日曜日に、か、返すね」
春風「いや、日曜はダメだ。しばらく預けとく」
珠李「な、何で?」
春風「いいじゃん。返してほしい時に、こっちから言うから」
「それまで夢奈ンちに置いといて」
珠李「う、うん……」
〇駅の前 (午後六時)
人が改札を通って行く。
向かい合う珠李と春。。
春風「じゃ、今度の日曜日な」
珠李「う、うん」
春風「楽しみにしてるよ」
「じゃあな。気を付けて帰れよ」
手を挙げて走り去る春風。
〇電車の中 (午後六時)
ドア付近に立つ珠李。
周りには帰宅途中の会社員たち。
珠李(春風くん、『楽しみにしてる』って言ったよね?)
(私との買い物が!?)
(そんなわけないか……)
(きっと、お母さんにプレゼントする服が出来上がるのが)
(楽しみ──なんだよね)
*珠李の回想。
春風の笑顔。
春風『楽しみにしてるよ』
*回想終わり。
タッパーを小脇に抱え、ドア近くの手すりにしがみつく珠李。
頬が火照てり、胸がドキドキしているのを感じる。
珠李(なんでだろう……)
(体がフワフワする……)
門の前で立ち尽くす珠李。
珠李「こ、ここが、は、春風くんの家!?」
春風「ああ」
珠李(春風くんって、お金持ちなんだ……)
春風「お袋、起きてるといいけどな」
珠李「お、お母さん、具合が悪いの?」
春風「ちょっとな……」
珠李「じゃ、じゃあ、また今度にした方が」
春風「いや、最近はすごく顔色がいいんだよ」
「さっきメールしたら、体調はいいって言ってたから。でも、急に気分が悪くなることもあるから」
珠李「そ、そうなんだ……」
〇大豪邸 春風自宅内 (午後四時)
中に入ると、すぐに春風の母親、柚乃が出迎える。
柚乃「お帰りなさい、漣」
春風「起きてて大丈夫かよ」
柚乃「ええ。今日はとっても体調がいいの」
「で、そちらのお嬢さんが?」
珠李「ゆ、夢奈珠李って言います!」
春風「メールでも書いたけど」
「夢奈に採寸させてやってよ」
柚乃「私で良ければお安い御用よ」
〇柚乃の自室
採寸の支度をする珠李。
柚乃、部屋の中央に立つと、息子を見つめる。
春風「(怪訝な表情で)何?」
柚乃「母親の裸を見たいの?」
春風「な、何言ってんだよ!?」
柚乃「何って。ねえ、珠李ちゃん」
珠李「せ、正確な採寸をするには」
「下着姿に、な、ならないとだから……」
春風は顔を赤らめて部屋を出て行く。
柚乃「じゃ、早速測ってもらおうかしら」
下着姿になる柚乃は珠李に背中を向けて立つ。
珠李はメジャーを手に採寸する。
珠李(綺麗……)
「し、失礼します」
柚乃「ありがとうね、珠李ちゃん」
珠李「え? お、お礼を言うのは」
「わ、私の方です。が、学校の課題に協力していただいて──」
柚乃「嘘なんでしょ?」
珠李「い、いえ……こ、これは本当に……」
柚乃「無理しなくていいのよ」
柚乃は振り返る。
柚乃「モデル科の子より」
「こんなオバさんの方がいいなんておかしいもの」
「私の誕生日プレゼントに、衣装を作るよう漣に頼まれたんでしょ?」
珠李「す、すみません……」
柚乃「謝らないで」
「私は嬉しいの」
「ヒメカが亡くなってから」
「漣は人を遠ざけて、ふさぎ込むことが多かったから」
柚乃の視線の先には、棚の上の家族写真。春風の隣に美しい少女。
珠李(春風くんが言ってる『ヒメ姉』って……)
柚乃「あの子はお姉さん子だったから」
「かなりショックを受けてたんだけど」
「でも、漣以上に私が参っちゃってね……」
「そんな私を元気づけようと、『ヒメ姉』が視えるなんて言い出して」
「あの子は本当に優しい子で──」
珠李「います!」
柚乃「え?」
珠李「ヒ、ヒメカさんはちゃんといます!」
「は、春風くんの側にいます。今もここにいて、お、お、お二人のことを見守ってます」
驚いたように目を見開く柚乃。やがて相好を崩す。
柚乃「漣が最近すごく楽しそうなのは、きっと珠李ちゃんのおかげね」
珠李「そ、そんな、わ、私なんて……」
柚乃「ヒメカが亡くなってから」
「学校の話なんてほとんどしなかったのに」
「今は毎日何があったのか話してくれるの」
「中でも一番多いのはあなたの話」
珠李「わ、私、のこと、で、ですか!?」
柚乃「そう。『夢奈って変なヤツがいてさ』って言ってね」
珠李(変なヤツ……)
柚乃「(楽しそうに笑いながら)たぶん、あの子」
「あなたに恋してると思う」
〇帰り道の道路 (午後六時)
薄暗くなった歩道を並んで歩く珠李と春風。
春風「夢奈。聞いてる?」
珠李「え? な、何!?」
春風「ぼーっとして、何か考え事か?」
珠李「べ、別になんでもな……」
*珠李の回想
ウインクする柚乃。
柚乃『あなたに恋してるって話。漣には内緒ね』
『私がそんなこと言ったってわかったら、あの子、きっと怒るだろうから』
『思春期の男の子の母親って、大変なの』
*回想終わり。
春風「じゃ、いつにしようか。買い物」
珠李「か、買い物!?」
「な、何の?」
春風「何のって、服作るんだから」
「布とか、ボタンとかいろいろいるだろ?」
珠李「そ、そうだけど」
「材料は、わ、私が──」
春風「俺一人だと何買っていいかわかんないからさ」
「夢奈について来てもらわないと、見当違いのモンを買っちまうから」
「てことで、今度の日曜でいいか?」
珠李「う、うん……」
春風「そっか、良かった」
「それから遅くまで悪かったな」
「弟さんたち、大丈夫か?」
珠李「お、遅くなる時は、お隣のおばちゃんが見ててくれるから」
春風「そっか。お袋のヤツ、一人でしゃべりまくってて、うるさかったろ?」
珠李「た、楽しかったよ! ひ、妃皇歌劇団のお話、た、たくさんできたから」
「こ、こっちこそごめんなんさい。お、お土産までもらちゃって」
珠李の手にはチェックの風呂敷に包まれたタッパー。
春風「(苦笑して)お土産つっても」
「タッパーの中、晩飯用の肉じゃがだけどな」
珠李「と、とっても、う、うれしい」
「ウチ、きょ、兄弟多いから」
「あっ、タ、タッパーは、洗って日曜日に、か、返すね」
春風「いや、日曜はダメだ。しばらく預けとく」
珠李「な、何で?」
春風「いいじゃん。返してほしい時に、こっちから言うから」
「それまで夢奈ンちに置いといて」
珠李「う、うん……」
〇駅の前 (午後六時)
人が改札を通って行く。
向かい合う珠李と春。。
春風「じゃ、今度の日曜日な」
珠李「う、うん」
春風「楽しみにしてるよ」
「じゃあな。気を付けて帰れよ」
手を挙げて走り去る春風。
〇電車の中 (午後六時)
ドア付近に立つ珠李。
周りには帰宅途中の会社員たち。
珠李(春風くん、『楽しみにしてる』って言ったよね?)
(私との買い物が!?)
(そんなわけないか……)
(きっと、お母さんにプレゼントする服が出来上がるのが)
(楽しみ──なんだよね)
*珠李の回想。
春風の笑顔。
春風『楽しみにしてるよ』
*回想終わり。
タッパーを小脇に抱え、ドア近くの手すりにしがみつく珠李。
頬が火照てり、胸がドキドキしているのを感じる。
珠李(なんでだろう……)
(体がフワフワする……)