まぶしいほど、まっすぐ!

第七話

〇学校 月組の教室内 (昼休み)

 生徒たちはそれぞれ仲の良い者が集まって楽しくランチ。
 にぎやかな教室。
 珠李、春風、夏帆、ソナタ、朝陽が机を合わせてランチ中。
 ソナタの前には北京ダック。彼女の後ろには執事が立っている。

朝陽「ぬおおおおお!」
  「どうしてだ! どうして中間テストなんてものが存在してるんだ!」
夏帆「(冷ややかに)あるだろ。学校なんだから」
朝陽「ここは総合美容課だぞ!? メイクとかスタイリストとかやっとけばいいじゃんよ!」
  「なんで一般科目の試験を受けなきゃダメなんだよぉ」
ソナタ「『美は知性ある者に宿る』。この学校の理念ですわ」
   「ですから赤点を取ると、美容科目に出られなくなんですのよ」
朝陽「最悪だよぉ」
春風「夢奈」
珠李「な、何?」
春風「一年の時、学年トップスリーから落ちたことないんだろ」
夏帆「マジ!?」
春風「俺に勉強教えてくんない?」
珠李「は、春風くんに!?」
春風「ダメか?」
朝陽「あれ? 春風って勉強はデキた──」

 夏帆は机の下で朝陽の足を踏みつける。

朝陽「イデッ! 何すんの!」
夏帆《(口パクで)黙れ!》
春風「今日の放課後とか、どう」
珠李「す、少しくらいなら……」
春風「(頬を持ち上げて)じゃ、図書室で」
珠李「う、うん……」
朝陽「オレも! オレも教えて! 数学が絶望的に──イデッ!」
夏帆「アタシたちは用事があるから」
朝陽「え? オレはないけど」
夏帆「デートすんだろ? アタシと」
朝陽「マジ!? する! デートする!」
ソナタ「わたくしはお気遣いなく」
   「専属の家庭教師がいるので」
夏帆「てなわけで、珠李に勉強を教えてもらえんのは春風だけ──」
相星「いいね、ソレ!」

 相星がやって来る。

相星「みんなで勉強会しようよ!」
夏帆「おい!」
相星「おーい、みんな」
  「夢奈さんが勉強教えてくれるって!」
生徒a「ホント!? わたし英語教えてほしい!」
生徒b「オレは化学だわ」
生徒c「古文とかもいけるのかな」
相星「待って待って」
  「勉強会は放課後、図書室でね」


〇図書室内 (午後三時)

 生徒たちはそれそれ机に向かっている。
 珠李は教師のように生徒たちの間を行き来する。

珠李「え、えっと。ここは公式に当てはめると──」
生徒c「こうかな?」
珠李「そう! す、すごい! できた!」
生徒d「先生! こっちもお願いします!」
珠李「は、はーい。い、今行きます」

 しばらく真面目に勉強していたが、徐々に騒がしくなっていく。やがて遊び出す者も。

春風「夢奈」
珠李「は、春風くんもわからないとこ、あ、ある?」
春風「疲れたろ?」
珠李「す、少し……」
春風「じゃ、ちょっと抜け出さないか」
珠李「で、でも……」
春風「(苦笑して)アイツら、勉強する気ないって」

 珠李は図書室を見渡す。
 真面目に勉強しているのは一部の生徒だけで、ほとんどは遊んでいるか居眠りをしている。
 春風はおもむろに珠李の手を取る。

春風「行こう!」
珠李「え!?」

 春風に手を引かれるまま、珠李は図書室を出て行く。
 二人の様子を見た相星はそっと席を立つ。
 入り口のところまで行く。
 夏帆が立ちはだかる。

夏帆「よう、イケメン」
相星「(ニヤけた表所で)あれ? 夏っちは今日、デートじゃなかった?」
夏帆「人の恋路に割り込もうとしてるヤツがいるみたいだから」
  「野暮野郎の顔を見に来たんだよ」
相星「朝っち、気の毒に」
夏帆「ショッピングモールに行ったそうじゃねえか」
相星「偶然だって。だって、二人がどこに行くのか聞いてなかったし」
夏帆「ナオトに聞いたんだろ?」
相星「何さ、夏っち。ボクのこと嗅ぎまわってんの?」
夏帆「何で珠李にちょっかい出すんだよ」
相星「ボクは別に──」
夏帆「とにかくあの二人には構うな」
  「お前なら、女なんて選びたい放題だろうが」

 ニラむ夏帆。
 相星は肩をすくめると、踵を返す。

相星「(呟くように)選びたい放題でも、本命には見向きもされてないんじゃいみないけけどね……」


〇多目的ホール外 建物裏 (午後三時)

 階段状になっているところに座る珠李と春風。

春風「夢奈はなんで縫製科に?」
珠李「ウ、ウチのお母さん、妃皇歌劇団のファンで」
  「小さい時に、ぶ、舞台を観に行ったの」
  「(熱っぽく)その時に観た、お、男役の人が着てた衣装が、と、とってもステキで」
  「しょ、将来は妃皇歌劇団の衣装担当になりたいなって思ってて」
  「だ、だから春風くんから、お母さんの服を作ってって言ってもらって」
  「すっごく、う、う、うれしかったんだよ!」

 興奮気味の珠李は我に返る。

珠李「ご、ごめんなさい……」
春風「なんで謝んだよ。すげえじゃん」
珠李「は、春風くんは?」
春風「俺?」
  「俺がメイク科を専攻したのは」
  「『ヒメ姉』の夢を叶えるためだ」

 春風は自分の横を指さす。

春風「ヒメ姉の夢はさ、ハリウッドに行ってメイクアップアーティストになることなんだよ」
  「だから俺が叶えてやろうって思ってさ」
  「俺がヒメ姉をハリウッドに連れて行く。それが俺の夢だ」
珠李「そ、そうなんだ……」
  (でも、それって──)
春風「あっ、そうだ」
  「この前の日曜に聞きそびれたんだけどさ」
  「連絡先教えてくんない?」
珠李「え? わ、私の!?」
春風「頼んだ服がどれくらいできてるか聞きたいしさ」
  「それに足りない材料とかあると、また買いに行かないとだろ?」
珠李「そ、そっか……」

 二人はアドレスを交換する。
 春風は珠李のアドレスを見て微笑んでいる。

珠李「あ、あの、は、春風くん?」
春風「何?」
珠李「お、お母さんのお誕生日って、いつかな?」
  「そ、それまでに服を仕上げなきゃだから」
春風「そっか。まだ言ってなかったな」
  「そうだな──ちょうど、一カ月後、かな」
珠李「い、一か月後……」

 青ざめる珠李。
 スマートフォンの画面を見て、ニヤける春風。
 珠李が戸惑ってることに気が付かない。


〇珠李の自宅内 (午後十一時)

 薄明りの中、珠李は春風の母親に渡すための服の型紙を制作。
 隣の部屋では母親と兄弟たちが眠っている。

珠李「ふう」

 完成した型紙に沿って布をカットしていく。

珠李(よし、これをミシンで縫って──)

 隣の部屋の母親たちに視線を向ける。
 珠李はミシンから手を放す。
 起こしてしまうことを気にして、手で縫い始めるのだった。

珠李(時間がないから、がんばらなきゃ)


〇学校 図書室内 (午後四時)

 生徒たちが試験勉強している。
 壁には『私語厳禁! 特に月組! 次騒いだら出禁!』の張り紙。 

生徒a「あー、もうわかんないよぉ」
生徒b「しっ! 声大きいって!」
生徒a「(小声で)ごめん。でも、全然わかんないだもん」
珠李「だ、大丈夫だよ。ここはね、こうして──」
生徒a「あっ、出来た!」
  「さすが珠李先生!」
生徒b「珠李ちゃんって、教える上手だよね」
珠李「そ、そんなことないよ……」

 時計を見上げてハッとする。午後四時を過ぎている。

珠李「ご、ごめんなさい。わ、私帰らないと……」

〇隣家のおばさん宅 (午後五時)

 見てもらっていた兄弟を迎えに行く。

〇珠李の自宅 (午後六時)

 兄弟たちにご飯を食べさせた後、勉強を見てやったり、絵本を読んでやったりと忙しい。
 ようやく兄弟たちが寝かしつけると、珠李は裁縫をする。
 時計は午前零時。
 母親が帰って来ると、食事の支度。
 母親が寝ると、珠李はまた裁縫。
 時刻は午前二時。
 傍らには放置された教科書とノート。


〇珠李の自宅内 (午前六時)

 慌ただしい朝。
 珠李は朝食の支度をしたり、兄弟の世話をしたり。母親と兄弟たちを送り出して、珠李も学校へ。

〇学校  月組教室内 (午前十時)

 授業。教師が黒板に向かっている。
 生徒たちはみんな真剣な表情。
 珠李は一人、眠そうな表情。

 数日後──

 学校の掲示板に、中間テストの順位が貼り出される。
 掲示板の前で歓声を上げたり、落ち込んだりする生徒。
 珠李は呆然。

朝陽「夢奈ぁ、ありがとう……」
  「おかげで全教科、赤点回避だよぉ」
珠李「よ、良かった」
夏帆「それにしても珠李はさすがだな」
珠李「あ、ありがと」

 珠李は微笑むが、すぐに表情を暗くする。

『二学年順位 四十一位 二年月組 夢奈珠李』
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