まぶしいほど、まっすぐ!
第九話
〇学校 裁縫科の教室内 (放課後)
夕暮れに赤く染まる教室内には、珠李と春風の二人だけ。
珠李は作業台の前で、軽快にミシンで春風の母親にプレゼントする服を縫う。
春風は物珍しそうに教室内を見回している。
春風「裁縫科って、いっつもこんなにガランとしてんのか?」
珠李「み、みんなは家にミシンがあるから」
「学校のより、さ、最新のを持ってる子もいるんで、持って帰った方が作業が進むって」
春風「夢奈ん家は?」
珠李「い、一応、あ、あるけど、ウチのは、と、とっても古いモノだから」
「それに、い、家だと弟や妹がいてなかなか作業できないし」
春風「そっか」
「それにしても嘘ついたお詫びが」
「裁縫してる間の『付き添い』ってのはなぁ」
珠李「や、やっぱり、め、迷惑だった!?」
春風「逆だよ。むしろこんなことでいいのかって拍子抜けしたくらいだ」
「しかもお袋さんが休みの水曜日だけでいいって」
「罰でもなんでもないって」
珠李「で、でも、は、春風くんだってメイク科の課題があるんだし……」
春風「俺は別に──」
(夢奈と二人っきりになれんだったら、毎日でも)
珠李はミシンを止める。
珠李「ご、ごめんなさい。よく聞こえなかった」
春風「え? ああ、夢奈って怖りだなって」
珠李「だ、だって……」
「ひ、人がいない教室って、こ、怖くない?」
春風「(楽しそうに笑う)だからって、『縫ってる間見てて』って言われた時には驚いたよ」
「子供が怖い夢を見たから、夜中に一人でトイレに行けないのと同じじゃんか」
珠李が頬を膨らませている。
春風「どした?」
珠李「こ、これ。は、春風くんが嘘ついた罰なんだからね」
春風「わかってるよ。だからこうして付き合ってんだろ」
珠李「だ、だったらもっと、し、神妙にしてください!」
春風「神妙って……こんな感じか?」
春風は変顔を作る。
珠李は噴き出して笑う。
その後も尊い二人だけの時間が続く。
〇数日後の学校 月組の教室内 (放課後)
帰り支度をする生徒たち。
椅子の上に上る朝陽。
朝陽「中間テストが終わったことだし」
「打ち上げ行く人!」
生徒a「行く!」
生徒b「どこ行く?」
生徒c「カラオケしかないっしょ!」
生徒d「私、まだ課題のメイクどうするか決めてないからパス」
春風が珠李のところへやって来る。
春風「夢奈も行くよな? 今日は水曜日だし」
珠李「え? わ、私、行っていいの!?」
夏帆「決まってるだろ。クラスで赤点一人も出なかったのは、珠李のおかげなんだから」
朝陽「そうだぞ! 夢奈が来ないとはじまらないだろうが!」
珠李「ちょ、ちょっと待って」
「お、お母さんに聞いてみないと」
メッセージを送信。
珠李《今日試験の打ち上げあるんだけど、ちょっとだけ遅くなってもいい?》
母 《いいよ。楽しんでおいで》
片津を呑んで見守るクラスメート。
珠李「い、いいって」
生徒たち「よっしゃ!」「やったね!」「ねえねえ珠李ちゃんってなに歌うの!?」「夢奈さんんの歌、聞きたい」
珠李「わ、私は──」
〇カラオケボックス内 (午後)
十五人ほどの生徒たち。朝陽が歌い上げている。ソファに座り、マラカスやタンバリンを持っていたり、次に歌う曲を選んでいたりと各々楽しく過ごす。
ソナタ「無糖のジュースをいただくわ。それからこれはノンフライ?」
そんな中、飲み物を持った珠李は顔を火照らせている。
珠李(た、楽しい……)
(みんなは、こういうところで遊んでるんだ)
生徒a「ねえ、リヒトくんは来なかったの?」
生徒b「ココア先輩のところでしょ」
生徒c「やっぱデキてんだ、あの二人」
生徒a「モデル科のトップ二人が付き合ってるって。お似合いかよ!」
生徒b「あぁ、ちょっとヘコむぅ」
生徒c「リヒトくん狙ってたの!? 身の程なんですけどぉ」
珠李(相星くん、ココアさんと付き合ってるんだ……)
春風「楽しんでる?」
夢奈「う、うん。すごく楽しいよ。こ、こういうの、はじめてだから」
春風「そっか。良かった」
朝陽「おーい、春風、オレとデュエットしようぜ」
春風「なんでだよ。大瀬としろよ」
夏帆「断る」
朝陽「ほらぁ。だから春風、デュエットォ」
春風「わーったよ」
「ちょっと行ってくるわ」
夢奈「う、うん。が、がんばってね」
春風はさわやかな笑顔。
春風「ああ、がんばってくるよ」
珠李は春風の笑顔にドキッとする。
朝陽と歌う春風を微笑みながら見る珠李。
〇帰り道 (夕方)
ゾロゾロと歩く珠李たち。
夏帆「ンだよ! ほとんどナオトが歌ってたじゃねえかよ」
朝陽「オレの愛の歌、聞いてくれた?」
夏帆「キモイ! 殴るぞ!」
朝陽「だからテレるなって」
夏帆「近寄るな!」
夏帆は走って前を行く生徒たちに合流する。
珠李は朝陽と二人になる。
珠李「朝陽くんは、す、すごいね」
朝陽「何が?」
珠李「お、思ってることを、言葉にできて……」
朝陽「そりゃあ、言わなきゃ伝わんないからな」
珠李「そ、そうだね……」
朝陽「夢奈は春風に告ったの?」
珠李「こ、告る、って私は、べ、別に春風のことは──」
朝陽「好きじゃないのか?」
珠李「よ、よくわからなくて……」
「で、でも、春風くんと一緒にいると、う、うれいい」
朝陽「うれしい、か」
珠李「へ、変かな?」
朝陽「いや、その気持ちはいいと思うぞ」
珠李「そ、そうかな……」
朝陽「ただ、その気持ちは早く伝えた方がいいぞ」
「春風のヤツ、二年が終わったら、学校辞めるらしいから」
珠李「え?」
珠李は立ち止まる。
朝陽「ん?」
「え? え? もしかして、聞いてなかった!?」
「オレ……余計なこと言っちゃった!?」
視線は生徒たちと談笑している春風に向けられている。
夕暮れに赤く染まる教室内には、珠李と春風の二人だけ。
珠李は作業台の前で、軽快にミシンで春風の母親にプレゼントする服を縫う。
春風は物珍しそうに教室内を見回している。
春風「裁縫科って、いっつもこんなにガランとしてんのか?」
珠李「み、みんなは家にミシンがあるから」
「学校のより、さ、最新のを持ってる子もいるんで、持って帰った方が作業が進むって」
春風「夢奈ん家は?」
珠李「い、一応、あ、あるけど、ウチのは、と、とっても古いモノだから」
「それに、い、家だと弟や妹がいてなかなか作業できないし」
春風「そっか」
「それにしても嘘ついたお詫びが」
「裁縫してる間の『付き添い』ってのはなぁ」
珠李「や、やっぱり、め、迷惑だった!?」
春風「逆だよ。むしろこんなことでいいのかって拍子抜けしたくらいだ」
「しかもお袋さんが休みの水曜日だけでいいって」
「罰でもなんでもないって」
珠李「で、でも、は、春風くんだってメイク科の課題があるんだし……」
春風「俺は別に──」
(夢奈と二人っきりになれんだったら、毎日でも)
珠李はミシンを止める。
珠李「ご、ごめんなさい。よく聞こえなかった」
春風「え? ああ、夢奈って怖りだなって」
珠李「だ、だって……」
「ひ、人がいない教室って、こ、怖くない?」
春風「(楽しそうに笑う)だからって、『縫ってる間見てて』って言われた時には驚いたよ」
「子供が怖い夢を見たから、夜中に一人でトイレに行けないのと同じじゃんか」
珠李が頬を膨らませている。
春風「どした?」
珠李「こ、これ。は、春風くんが嘘ついた罰なんだからね」
春風「わかってるよ。だからこうして付き合ってんだろ」
珠李「だ、だったらもっと、し、神妙にしてください!」
春風「神妙って……こんな感じか?」
春風は変顔を作る。
珠李は噴き出して笑う。
その後も尊い二人だけの時間が続く。
〇数日後の学校 月組の教室内 (放課後)
帰り支度をする生徒たち。
椅子の上に上る朝陽。
朝陽「中間テストが終わったことだし」
「打ち上げ行く人!」
生徒a「行く!」
生徒b「どこ行く?」
生徒c「カラオケしかないっしょ!」
生徒d「私、まだ課題のメイクどうするか決めてないからパス」
春風が珠李のところへやって来る。
春風「夢奈も行くよな? 今日は水曜日だし」
珠李「え? わ、私、行っていいの!?」
夏帆「決まってるだろ。クラスで赤点一人も出なかったのは、珠李のおかげなんだから」
朝陽「そうだぞ! 夢奈が来ないとはじまらないだろうが!」
珠李「ちょ、ちょっと待って」
「お、お母さんに聞いてみないと」
メッセージを送信。
珠李《今日試験の打ち上げあるんだけど、ちょっとだけ遅くなってもいい?》
母 《いいよ。楽しんでおいで》
片津を呑んで見守るクラスメート。
珠李「い、いいって」
生徒たち「よっしゃ!」「やったね!」「ねえねえ珠李ちゃんってなに歌うの!?」「夢奈さんんの歌、聞きたい」
珠李「わ、私は──」
〇カラオケボックス内 (午後)
十五人ほどの生徒たち。朝陽が歌い上げている。ソファに座り、マラカスやタンバリンを持っていたり、次に歌う曲を選んでいたりと各々楽しく過ごす。
ソナタ「無糖のジュースをいただくわ。それからこれはノンフライ?」
そんな中、飲み物を持った珠李は顔を火照らせている。
珠李(た、楽しい……)
(みんなは、こういうところで遊んでるんだ)
生徒a「ねえ、リヒトくんは来なかったの?」
生徒b「ココア先輩のところでしょ」
生徒c「やっぱデキてんだ、あの二人」
生徒a「モデル科のトップ二人が付き合ってるって。お似合いかよ!」
生徒b「あぁ、ちょっとヘコむぅ」
生徒c「リヒトくん狙ってたの!? 身の程なんですけどぉ」
珠李(相星くん、ココアさんと付き合ってるんだ……)
春風「楽しんでる?」
夢奈「う、うん。すごく楽しいよ。こ、こういうの、はじめてだから」
春風「そっか。良かった」
朝陽「おーい、春風、オレとデュエットしようぜ」
春風「なんでだよ。大瀬としろよ」
夏帆「断る」
朝陽「ほらぁ。だから春風、デュエットォ」
春風「わーったよ」
「ちょっと行ってくるわ」
夢奈「う、うん。が、がんばってね」
春風はさわやかな笑顔。
春風「ああ、がんばってくるよ」
珠李は春風の笑顔にドキッとする。
朝陽と歌う春風を微笑みながら見る珠李。
〇帰り道 (夕方)
ゾロゾロと歩く珠李たち。
夏帆「ンだよ! ほとんどナオトが歌ってたじゃねえかよ」
朝陽「オレの愛の歌、聞いてくれた?」
夏帆「キモイ! 殴るぞ!」
朝陽「だからテレるなって」
夏帆「近寄るな!」
夏帆は走って前を行く生徒たちに合流する。
珠李は朝陽と二人になる。
珠李「朝陽くんは、す、すごいね」
朝陽「何が?」
珠李「お、思ってることを、言葉にできて……」
朝陽「そりゃあ、言わなきゃ伝わんないからな」
珠李「そ、そうだね……」
朝陽「夢奈は春風に告ったの?」
珠李「こ、告る、って私は、べ、別に春風のことは──」
朝陽「好きじゃないのか?」
珠李「よ、よくわからなくて……」
「で、でも、春風くんと一緒にいると、う、うれいい」
朝陽「うれしい、か」
珠李「へ、変かな?」
朝陽「いや、その気持ちはいいと思うぞ」
珠李「そ、そうかな……」
朝陽「ただ、その気持ちは早く伝えた方がいいぞ」
「春風のヤツ、二年が終わったら、学校辞めるらしいから」
珠李「え?」
珠李は立ち止まる。
朝陽「ん?」
「え? え? もしかして、聞いてなかった!?」
「オレ……余計なこと言っちゃった!?」
視線は生徒たちと談笑している春風に向けられている。