イケメン少女と子犬王子
「うるせーな、痛い目に遭いたくなきゃ黙って脱げっつってんだよ!」
小太りの男子が胸倉を掴み上げた。
「嫌です」
きっぱりと拒否する美少年。
カッとなったらしく、小太りの男は拳を握り、高くあげた。
胸倉を掴み上げられても動じなかった美少年が、初めてその目を鋭く尖らせた――ような気がしたが、はっきりと確認するよりも先に、あやめは飛び出していた。
「止めろ!!」
怒号を上げ、公園を囲う金網に走り寄る。
鞄を敷地内に放り、勢いをつけて公園を囲う金網に左手を乗せ、軽やかに飛び越え、着地。
突然の登場に、三人組はぽかんとしている。
美少年も驚いたような顔でこちらを見ていた。
「黙って見ていれば、貴様ら――」
憤激とともに歩み寄りながら、あやめが非難するよりも早く。
「お、お前は……グレートデビル湖城!!」
小太りの男は美少年から手を離し、後ずさった。
鬼にでも出遭ったかのように顔面は蒼白だ。
「……グレートデビル?」
出鼻をくじかれ、あやめの肩がこけた。
グレートデビル。訳すと偉大なる悪魔。散々な言われようである。
「こいつが湖城……あの湖城なのか!?」
リーダーの恐怖が伝播したらしく、二人もまた戦きながら後退した。
「湖城っていやあ、熊を片手で絞め殺した……!?」
「札付きのワルが二十人でかかっても倒せなかった伝説の……!?」
「そうだ。無傷で返り討ちにした挙句、倒れた猛者たちの頭を踏みつけ、返り血を舐めながら高笑いした恐ろしい女だぜ……!」
「ちょっと待て。」
色んな意味で止めたかったのだが、あやめの一声で三人組は大きく震えあがった。
膝を畳み、金網の前で綺麗に並んで土下座してくる。
「すいやせんでした姐《ねえ》さん!!」
「誰が姐さんだっ!?」
「はっ、いえ、失礼し、つかま、つかまっつりました!」
「つかまっつり……?」
できる限り丁寧な言葉遣いをしようとして間違っている文章に、美少年が小首を傾げている。
どこか呑気なその仕草を見て、やはり彼が暴力に晒されようとした瞬間、気配を豹変させたように感じたのは気のせいだったのだろうと結論付けた。
「もう二度とこんなことは致しません! 誓います! 根性焼きでもなんでもします!」
小太りの男に、もはやグループを率いるリーダーとしての威厳はなかった。
生まれたての小鹿のように震えながら、滂沱の涙を流している。
「俺たち今日から、いや、たったいまから性根を入れ替えます! 髪も黒に戻します! ちゃんと服も着ます! 学生らしく真面目に勉強します! 毎日風呂に入ります! 寝る前に歯磨きもします!」
「俺も! これまではうっせーババアとか生意気言ってましたけど、これからは母ちゃんの言うことに従います!」
「お許しください! どうか、どうか命だけは!」
三人組は口々に泣き喚き、地面に額をこすりつけた。
「…………。」
頭痛を覚え、頭を抱える。
他校にまで根も葉もない噂が広まり、見知らぬ不良に泣きながら土下座される現実。
なんだかもう、悲しいを通り越して虚しくなってきた。
「ああ。もういい……」
こめかみをもみほぐし、美少年に目をやる。
見た限り、どこか怪我をしている様子はない。間一髪だが間に合った。
「この子は無事なようだし、反省したのなら許そう」
『ありがたきお言葉!』
一斉にひれ伏す不良たち。時代劇の主君にでもなったような気分である。
「では、解散!」
ぱん! と両手を打ち鳴らす。
三人組は「ありがとうございます」と男泣きしながら逃げて行った。
「……はあ。全く……」
脱力してしまいたかったが、そうもいっていられない。
心のうちだけでため息をつき、美少年に向き直る。
美少年もまた、あやめを見ていた。
「助けてくださってありがとうございました、湖城先輩」
美少年は頭を下げてから、笑った。
「ああ、いや。当然のことをしたまでだ」
小太りの男子が胸倉を掴み上げた。
「嫌です」
きっぱりと拒否する美少年。
カッとなったらしく、小太りの男は拳を握り、高くあげた。
胸倉を掴み上げられても動じなかった美少年が、初めてその目を鋭く尖らせた――ような気がしたが、はっきりと確認するよりも先に、あやめは飛び出していた。
「止めろ!!」
怒号を上げ、公園を囲う金網に走り寄る。
鞄を敷地内に放り、勢いをつけて公園を囲う金網に左手を乗せ、軽やかに飛び越え、着地。
突然の登場に、三人組はぽかんとしている。
美少年も驚いたような顔でこちらを見ていた。
「黙って見ていれば、貴様ら――」
憤激とともに歩み寄りながら、あやめが非難するよりも早く。
「お、お前は……グレートデビル湖城!!」
小太りの男は美少年から手を離し、後ずさった。
鬼にでも出遭ったかのように顔面は蒼白だ。
「……グレートデビル?」
出鼻をくじかれ、あやめの肩がこけた。
グレートデビル。訳すと偉大なる悪魔。散々な言われようである。
「こいつが湖城……あの湖城なのか!?」
リーダーの恐怖が伝播したらしく、二人もまた戦きながら後退した。
「湖城っていやあ、熊を片手で絞め殺した……!?」
「札付きのワルが二十人でかかっても倒せなかった伝説の……!?」
「そうだ。無傷で返り討ちにした挙句、倒れた猛者たちの頭を踏みつけ、返り血を舐めながら高笑いした恐ろしい女だぜ……!」
「ちょっと待て。」
色んな意味で止めたかったのだが、あやめの一声で三人組は大きく震えあがった。
膝を畳み、金網の前で綺麗に並んで土下座してくる。
「すいやせんでした姐《ねえ》さん!!」
「誰が姐さんだっ!?」
「はっ、いえ、失礼し、つかま、つかまっつりました!」
「つかまっつり……?」
できる限り丁寧な言葉遣いをしようとして間違っている文章に、美少年が小首を傾げている。
どこか呑気なその仕草を見て、やはり彼が暴力に晒されようとした瞬間、気配を豹変させたように感じたのは気のせいだったのだろうと結論付けた。
「もう二度とこんなことは致しません! 誓います! 根性焼きでもなんでもします!」
小太りの男に、もはやグループを率いるリーダーとしての威厳はなかった。
生まれたての小鹿のように震えながら、滂沱の涙を流している。
「俺たち今日から、いや、たったいまから性根を入れ替えます! 髪も黒に戻します! ちゃんと服も着ます! 学生らしく真面目に勉強します! 毎日風呂に入ります! 寝る前に歯磨きもします!」
「俺も! これまではうっせーババアとか生意気言ってましたけど、これからは母ちゃんの言うことに従います!」
「お許しください! どうか、どうか命だけは!」
三人組は口々に泣き喚き、地面に額をこすりつけた。
「…………。」
頭痛を覚え、頭を抱える。
他校にまで根も葉もない噂が広まり、見知らぬ不良に泣きながら土下座される現実。
なんだかもう、悲しいを通り越して虚しくなってきた。
「ああ。もういい……」
こめかみをもみほぐし、美少年に目をやる。
見た限り、どこか怪我をしている様子はない。間一髪だが間に合った。
「この子は無事なようだし、反省したのなら許そう」
『ありがたきお言葉!』
一斉にひれ伏す不良たち。時代劇の主君にでもなったような気分である。
「では、解散!」
ぱん! と両手を打ち鳴らす。
三人組は「ありがとうございます」と男泣きしながら逃げて行った。
「……はあ。全く……」
脱力してしまいたかったが、そうもいっていられない。
心のうちだけでため息をつき、美少年に向き直る。
美少年もまた、あやめを見ていた。
「助けてくださってありがとうございました、湖城先輩」
美少年は頭を下げてから、笑った。
「ああ、いや。当然のことをしたまでだ」