ひねくれ王子は私に夢中
「不破くんはどこに行ったの?」
「他のクラスの女子に呼び出されてどっか行った」
「もー、あのモテ男は! そもそも本当に彼女いるの? そこんとこどうなの?」
「いや、俺も噂で聞いただけだし、知らないよ。本人に直接聞くしかないと思う」
「不破のことが本気で好きだったんだな。仮にも女子なのに白目剥いてんじゃん。口は半開きだし……すげえ顔。完全に魂が抜けると人はこうなるんだな……」
「この姿、写真に撮ったら一生強請(ゆす)れそう……」
「こら、不謹慎なこと言わないの」

「ああ、こんな無残な姿になって……おいたわしや……」
 山岸は両手で顔を覆った。

「ちょっと、山岸くん。クラス委員でしょ、真面目にどうすべきか考えてよ。もしこのままにいんちょの自我が戻らなかったら、あなたが委員長になるんだよ?」
 歩美が腰に手を当てる。

「え、やだ。委員長とか面倒くさい」
 山岸は泣き真似を止めて真顔になった。

「そもそも俺はジャンケンで負けて仕方なくクラス委員になっただけだし。なんとしてでも委員長には正気に戻って貰わないと。不破に関わった途端にポンコツになるけど、普段は理想の委員長だからな。このまま精神科病院にでも入院されたら困る。どうしよう?」
 意見を求めるように山岸は周りを見回した。

「俺が保健室に連れていくよ」
「えー」
 片手を上げて至極まっとうな意見を出した小西順平《こにしじゅんぺい》はブーイングを浴びた。

「それは最終手段だろ。普通過ぎてつまんねーよ」
 口を尖らせたのは山岸だ。

「つまらないって……」
「そうだよ。クラスで起きた問題なんだから、あたしたちで解決しないと。いまこそ一組の知恵と愛と勇気と団結力が試されるとき!」
「その通り!」
 決然と拳を握った歩美は山岸から拍手を送られた。

「……委員長、帰ってきてくれ。愛嬌とノリだけで生きてる山岸が委員長になんかなったらクラスが崩壊しかねない。変人ばかりが集まった一組をまとめ上げられるのは委員長だけなんだ」
 小西は屈んで沙良に呼びかけたが、もちろん反応はなかった。

「さあみんな、何かいい案思いついたら遠慮なく言って!」
 パンパン、と山岸が両手を叩く。

「はい!」
「はい、海藤さん」
 片手をあげた里帆を山岸が手のひら全体で示し、発言を許可した。

「ショック療法はどうかな? おばあちゃんが家電にしてたみたいに、叩けば直るかも」
「お、いいね。採用」
「やってみよう」
「レッツチャレンジ」
 里帆と歩美と山岸が三人揃って右手を上げるのを見て、そろそろ止めようかと口を開いたときだった。

「――何やってんの?」

 そんな声と共に、秀司が教室に戻ってきた。

「不破くん!」
「不破!!」
「……なんだよ?」
 クラスメイト全員に駆け寄られた秀司は面喰ったように目を二、三度と瞬かせた。

「どうすんだよ、お前のせいで委員長が壊れたぞ!!」
 山岸が秀司に詰め寄る。
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