ひねくれ王子は私に夢中
「は? 何の話?」
「だから、不破くんに彼女がいるって知って、ショックでにいんちょが壊れちゃったの!! 見てよこれ!!」
歩美は秀司の腕を掴んで引っ張り、いまだに気絶している沙良を指さした。
「ぶっ。酷い顔」
秀司は沙良の惨状を見るなり噴き出し、口元を片手で覆った。
「笑うなよ!! そんでもってストレートに酷い顔とか言うな!!」
「そうだよ、仮にもにいんちょは女子だよ!? 思ってもそこはオブラートに包もうよ!!」
「お前ほんとひでー奴だな!!」
歩美を始めとして、沙良に同情的だったメンバーが抗議する。
「いや、まさかここまでショックを受けるとは思わなくて……」
秀司は肩を震わせている。
「喜びに浸ってるところを悪いんだけれど。沙良の親友として確認しておきたいわ」
歩み寄ると、彼は笑いを収めてこちらを向いた。
「彼女がいるなんて嘘だったのね?」
じっと秀司を見つめる。
「うん」
秀司は素直に認めてから、沙良の前に屈んだ。
まるで姫に忠誠を誓う騎士のように片膝をつき、沙良の肩に手を置いて言う。
「委員長。俺、彼女なんていないよ」
「――――」
その瞬間、沙良の瞳に光が戻った。
「………………本当に?」
沙良は縋るような目で問いかけた。
「うん。いない」
秀司が繰り返すと、沙良は顔を輝かせた。
けれど、人前ということもあって自制を働かせたらしく、喜びの感情をすぐに消した。
落ち着いた様子で立ち上がり、スカートの汚れを払う余裕すら見せる。
「………………」
一言も発することなくクラスメイトたちが見守る中――
「まあ別に? 不破くんに彼女がいようがいまいが関係ないけど?」
沙良は髪を耳にかけながら、ぷいっと顔を背けた。
(なんて往生際の悪い子なのかしら)
瑠夏は呆れ、クラスメイトたちは盛大にズッコケた。
「すげええええ!! この期に及んでそんなツンデレ女子みたいなことが言える委員長マジすげえ!! 半端ねえ!!」
「百年の恋も冷めるような醜態を晒しといて……」
「いまさら格好つけても……」
「手遅れっていうか、もはやギャグにしか見えないよね……」
山岸は何故か感動したように叫び、クラスメイトの女子たちは顔を寄せてボソボソ囁き合っている。
「う、うるさいなあっ! さっきは不破くんに彼女がいるって聞いて、その、なんていうか――ちょっとびっくりしただけよ!」
「ちょっとびっくりしただけで白目剥いて気絶するの!?」
あまりにも苦しい言い訳には、即座に歩美からのツッコミが入った。
「やばいな、うちの委員長、面白すぎる。入学当時は女子にこれでもかってくらい塩対応だった不破が180度変わった理由がいまわかった」
「これはやられるわー。可愛すぎる」
小西の隣で茉奈がうんうん頷いている。
「とにかくっ! 不破くんに彼女がいないってことはわかったし、私、次の授業の予習するから!」
「あ、逃げた」
沙良は早足で自分の席に戻った。
椅子を引いて座り、机に世界史の教科書やノートを並べる。
「……マジで大事にしろよ? あんなに全身全霊でお前を愛してくれる女なんて他にいねーぞ?」
教科書を読むふりをしながら顔を真っ赤にしている沙良を見て、山岸が秀司の腕を小突いた。
「知ってる」
秀司は愉快そうに小さく笑い、自分の席に戻っていった。
「だから、不破くんに彼女がいるって知って、ショックでにいんちょが壊れちゃったの!! 見てよこれ!!」
歩美は秀司の腕を掴んで引っ張り、いまだに気絶している沙良を指さした。
「ぶっ。酷い顔」
秀司は沙良の惨状を見るなり噴き出し、口元を片手で覆った。
「笑うなよ!! そんでもってストレートに酷い顔とか言うな!!」
「そうだよ、仮にもにいんちょは女子だよ!? 思ってもそこはオブラートに包もうよ!!」
「お前ほんとひでー奴だな!!」
歩美を始めとして、沙良に同情的だったメンバーが抗議する。
「いや、まさかここまでショックを受けるとは思わなくて……」
秀司は肩を震わせている。
「喜びに浸ってるところを悪いんだけれど。沙良の親友として確認しておきたいわ」
歩み寄ると、彼は笑いを収めてこちらを向いた。
「彼女がいるなんて嘘だったのね?」
じっと秀司を見つめる。
「うん」
秀司は素直に認めてから、沙良の前に屈んだ。
まるで姫に忠誠を誓う騎士のように片膝をつき、沙良の肩に手を置いて言う。
「委員長。俺、彼女なんていないよ」
「――――」
その瞬間、沙良の瞳に光が戻った。
「………………本当に?」
沙良は縋るような目で問いかけた。
「うん。いない」
秀司が繰り返すと、沙良は顔を輝かせた。
けれど、人前ということもあって自制を働かせたらしく、喜びの感情をすぐに消した。
落ち着いた様子で立ち上がり、スカートの汚れを払う余裕すら見せる。
「………………」
一言も発することなくクラスメイトたちが見守る中――
「まあ別に? 不破くんに彼女がいようがいまいが関係ないけど?」
沙良は髪を耳にかけながら、ぷいっと顔を背けた。
(なんて往生際の悪い子なのかしら)
瑠夏は呆れ、クラスメイトたちは盛大にズッコケた。
「すげええええ!! この期に及んでそんなツンデレ女子みたいなことが言える委員長マジすげえ!! 半端ねえ!!」
「百年の恋も冷めるような醜態を晒しといて……」
「いまさら格好つけても……」
「手遅れっていうか、もはやギャグにしか見えないよね……」
山岸は何故か感動したように叫び、クラスメイトの女子たちは顔を寄せてボソボソ囁き合っている。
「う、うるさいなあっ! さっきは不破くんに彼女がいるって聞いて、その、なんていうか――ちょっとびっくりしただけよ!」
「ちょっとびっくりしただけで白目剥いて気絶するの!?」
あまりにも苦しい言い訳には、即座に歩美からのツッコミが入った。
「やばいな、うちの委員長、面白すぎる。入学当時は女子にこれでもかってくらい塩対応だった不破が180度変わった理由がいまわかった」
「これはやられるわー。可愛すぎる」
小西の隣で茉奈がうんうん頷いている。
「とにかくっ! 不破くんに彼女がいないってことはわかったし、私、次の授業の予習するから!」
「あ、逃げた」
沙良は早足で自分の席に戻った。
椅子を引いて座り、机に世界史の教科書やノートを並べる。
「……マジで大事にしろよ? あんなに全身全霊でお前を愛してくれる女なんて他にいねーぞ?」
教科書を読むふりをしながら顔を真っ赤にしている沙良を見て、山岸が秀司の腕を小突いた。
「知ってる」
秀司は愉快そうに小さく笑い、自分の席に戻っていった。