ひねくれ王子は私に夢中

プレゼントを君に

 勉強机に置いた鏡の向こうから見返してくるのは、黒縁眼鏡をかけたツリ目の少女だ。

 身長は167センチ、体型は細め。
 胸は……残念ながらそんなに大きくはない。

(……私に偽彼女役を頼もうとしてきた時点で秀司もそこにはこだわってないはずよね。もしそうなら私じゃなくFカップの横溝さんに頼んでたはずだし。うん)

 自身の慎み深い胸を見下ろして、ひとつ頷く。

(体型は大丈夫として、問題はこの顔よ、顔。なんだって私はこんなにキツイ顔してるのかしら。意識して笑ってないと『なんか怒ってる?』って聞かれるし、男子には『花守は悪役令嬢向きの顔だよな』『わかる、絶対ヒロインじゃない』とか好き勝手言われるし。それもこれも全部このツリ目が悪いのよ)

 両目の目じりに人差し指を置き、下向きに引っ張ってみる。

(いいなあ、姫宮さんは。小柄で、可愛くて、見てるだけで『守ってあげたい!』って庇護欲を掻き立てられるような天然の美少女だもの。彼女こそまさに生まれつきのヒロインよね。姫宮さんが秀司と並んで立てば皆がお似合いのカップルって絶賛するんだろうなあ。それに比べて私ときたら……)

 指を離すと、強制的に垂れていた目はいつものツリ目に戻ってしまった。
 沙良は深いため息をつき、首を傾け、ごつんと額を鏡にぶつけて口元をへの字に曲げた。

(『美女と野獣』の反対語にあたる言葉って何? 『醜女とイケメン』? いや、いくらなんでも黄泉《よみ》の国の女鬼呼ばわりされるほど不細工じゃない……と思いたいけれど、秀司って本当にイケメンだもんなあ。こんな悪役顔の女が偽彼女役をやってもいいのかしら……秀司は私でいい、私がいいって言ってくれたけど、周りはどう思うか……不安だわ……)

 クラスメイトたちは秀司が沙良と付き合い始めたと報告すると、何故か一様に感動してくれた。

 おおげさに天井を仰ぐ者あり、目頭を押さえる者あり、両手で顔を覆う者あり、友人と肩を抱き合う者あり。

「やっとか……」「長かったね……」「末永くお幸せに……」などと口々に言われた沙良はクラスメイトたちの好意的な反応に拍子抜けしてしまった。

 でも、それはあくまで半年近く共に過ごし、それなりに絆を育んできたクラスメイトたちだからこその優しさだ。

 他人はきっと容赦してくれない。

「…………」
 行く先々で不釣り合いなカップルだと嘲笑される未来を想像し、果てしなく気分が落ち込む。

 日曜日の今日、これから沙良は秀司と二人きりで出かける。

 偽カップルとして上手くやっていくためにデートしようと秀司から提案されたのだ。
 沙良はあまりの喜びで挙動不審になりつつ、一も二もなく承諾した。
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