ひねくれ王子は私に夢中
もしも祝福されたなら
「ずばり聞くけど。横溝さんの用件ってなんだったの?」
一時限目と二時限目の間の短い休憩中。
沙良は秀司の前に立ち、椅子に座る彼を挑むような強い目で見据えた。
秀司の机には黒いカバーをつけたスマホが置いてある。
秀司はさきほどまで誰かとラインをしていたようだが、沙良が来るとすぐに画面を消して机に置いた。
秀司の隣は彼の幼馴染、戸田大和の席だ。
正統派美少年として密かにファンが多い大和は前の席の山岸と共にこちらを見ていた。
「何って」
沙良の気迫に恐れをなしたのか、秀司は少々困惑気味に答えた。
「『文化祭で私たちダンス部と一緒に踊ってくれないか』って聞かれただけだよ。サプライズで三駒の美男美女をステージに呼んだら盛り上がるんじゃないかっていう計画が部内で持ち上がった。だから、該当する人間に声をかけて回ってるんだとさ。三年の木梨《きなし》先輩や五島《ごとう》先輩も踊るらしいよ」
「……そうなの」
女子の間でイケメンと話題の三年生が踊る云々は正直、どうでもいい情報だ。
横溝の用件が告白ではなかったことにホッとして、肩から力が抜けた。
「秀司は踊るの?」
彼が踊るならステージを見に行くつもりだった。
「いや。ラスト一曲だけの参加でいいからお願いって言われたけど、面倒だし断った。あ、一応これは内緒の計画らしいから誰にも言うなよ」
「もちろんよ。聞きたいことは聞けたし、私はこれで――」
「ちょっと待て。」
くるりと踵を返した沙良は、右腕を掴まれて動きを止めた。
「なんでわざわざ確認しに来た? まさか俺が横溝さんに告白されて付き合う気になったと疑ったんじゃないだろうな」
笑顔だが、秀司の目は笑っていない。
「いまなら怒らないから正直に答えてみな?」
にっこり。
「……いままで母にそう言われて怒られなかった試しがないんだけど……」
「いいから答えろ」
口調が命令形に変わった。
(あくまで笑顔なのが怖いんですけど!?)
これは下手に誤魔化せば余計に面倒なことになりそうである。
「……。はい。その通りです。カップル解消されるんじゃないかと疑って、確認しに来ました」
白状すると、秀司は深いため息をついた。
「あれだけ言ってもわからなかったのか……そうか。沙良は俺のこと信用する気が全くないんだな。よーくわかった」
「違うよ!」
ジト目で睨まれて、沙良は慌てた。
美形が怖い顔をすると本当に怖い。
「信用してないのは秀司じゃなくて私なの。自信が全くないから、私が秀司の相手役でいいのかと思ってしまう……」
右手で髪に結われたシュシュに触る。
秀司に贈られた赤い花のような可愛いらしいこのシュシュだって、本当に自分がつけてていいのかと思ってしまう。
沙良はシュシュに手をやったまま、教室の一角で友達と談笑している姫宮美琴を見た。
可憐な彼女ならこのシュシュもよく似合う。
他人から向けられる誉め言葉を沙良のように疑うこともなく、ありがとうと笑って受け入れるに違いない。
一時限目と二時限目の間の短い休憩中。
沙良は秀司の前に立ち、椅子に座る彼を挑むような強い目で見据えた。
秀司の机には黒いカバーをつけたスマホが置いてある。
秀司はさきほどまで誰かとラインをしていたようだが、沙良が来るとすぐに画面を消して机に置いた。
秀司の隣は彼の幼馴染、戸田大和の席だ。
正統派美少年として密かにファンが多い大和は前の席の山岸と共にこちらを見ていた。
「何って」
沙良の気迫に恐れをなしたのか、秀司は少々困惑気味に答えた。
「『文化祭で私たちダンス部と一緒に踊ってくれないか』って聞かれただけだよ。サプライズで三駒の美男美女をステージに呼んだら盛り上がるんじゃないかっていう計画が部内で持ち上がった。だから、該当する人間に声をかけて回ってるんだとさ。三年の木梨《きなし》先輩や五島《ごとう》先輩も踊るらしいよ」
「……そうなの」
女子の間でイケメンと話題の三年生が踊る云々は正直、どうでもいい情報だ。
横溝の用件が告白ではなかったことにホッとして、肩から力が抜けた。
「秀司は踊るの?」
彼が踊るならステージを見に行くつもりだった。
「いや。ラスト一曲だけの参加でいいからお願いって言われたけど、面倒だし断った。あ、一応これは内緒の計画らしいから誰にも言うなよ」
「もちろんよ。聞きたいことは聞けたし、私はこれで――」
「ちょっと待て。」
くるりと踵を返した沙良は、右腕を掴まれて動きを止めた。
「なんでわざわざ確認しに来た? まさか俺が横溝さんに告白されて付き合う気になったと疑ったんじゃないだろうな」
笑顔だが、秀司の目は笑っていない。
「いまなら怒らないから正直に答えてみな?」
にっこり。
「……いままで母にそう言われて怒られなかった試しがないんだけど……」
「いいから答えろ」
口調が命令形に変わった。
(あくまで笑顔なのが怖いんですけど!?)
これは下手に誤魔化せば余計に面倒なことになりそうである。
「……。はい。その通りです。カップル解消されるんじゃないかと疑って、確認しに来ました」
白状すると、秀司は深いため息をついた。
「あれだけ言ってもわからなかったのか……そうか。沙良は俺のこと信用する気が全くないんだな。よーくわかった」
「違うよ!」
ジト目で睨まれて、沙良は慌てた。
美形が怖い顔をすると本当に怖い。
「信用してないのは秀司じゃなくて私なの。自信が全くないから、私が秀司の相手役でいいのかと思ってしまう……」
右手で髪に結われたシュシュに触る。
秀司に贈られた赤い花のような可愛いらしいこのシュシュだって、本当に自分がつけてていいのかと思ってしまう。
沙良はシュシュに手をやったまま、教室の一角で友達と談笑している姫宮美琴を見た。
可憐な彼女ならこのシュシュもよく似合う。
他人から向けられる誉め言葉を沙良のように疑うこともなく、ありがとうと笑って受け入れるに違いない。