ひねくれ王子は私に夢中
「だから。何回言えばいいんだよ。自分を卑下する必要ないって。沙良には沙良の魅力があるんだ。証拠にクラスの奴らは俺たちのカップル成立を祝福してくれただろ?」
 秀司は隣の席に顔を向けた。

 黙ってこちらのやりとりを見ていた大和は頷き、山岸は指で丸を作り、それぞれに反応を示してくれた。

「……クラスの人たちはこれまで築いてきた絆があるから好意的に受け止めてくれてるだけでしょう。他人はそうはいかな――」

「じゃあこれまでほとんど交流がなかった奴らを納得させればいいんだな? たとえば全校生徒から素晴らしいカップルだと祝福されたらどうだ?」
「え?」
 妙なことを言いだした秀司に、沙良は戸惑った。

(素晴らしいカップルって。私は期間限定の偽りの彼女なのに? 秀司は文化祭が終わるまでは私に本物の彼女として振る舞って欲しいのかしら。まあ……卑屈な彼女なんて誰だって嫌か。彼女役に立候補したのは私なんだから、期待には応える努力をしないと)
 思い直した沙良は全校生徒から素晴らしいカップルだと讃えられる様を大真面目に想像してみた。

「……もしそんなことが本当に起きたなら、私にも自信がつくでしょうね。私こそが秀司の彼女に相応しいと思えるようになるかもしれない、けど……」
 いったん口ごもり、言う。

「……でも、あまりにも現実味がないわ。拍手喝采を浴びるよりも『なんであんな子が彼女なの?』と秀司のファンから大ブーイングを浴びる図のほうが遥かに想像しやすい」

「なら俺と賭けよう。拍手喝采を浴びるか、ブーイングを浴びるか」
 片手で顔を覆う沙良に対して、秀司は不敵に笑った。

「どういうこと? 何をするつもりなの?」
 困惑して顔を上げると、秀司は笑んだまま言った。

「俺らも文化祭で踊ろう」

「へっ!?」
 予想だにしない提案に声がひっくり返った。
 目を剥き、仰天して固まる。

「百聞は一見に如かずってな。大勢の人間が集まるステージの上で堂々と息の合ったダンスを見せつけてやれば、観客は俺らをカップルだと認識するだろ。その結果が拍手喝采なら沙良も安心して俺の隣に立てるよな? 言質は取ったんだ。それでもやっぱり自信がないとか言わせないから」

「……いやいや、なんでそんな話になるの!?」
 我に返った沙良は激しく右手を振った。
 左手が動けば両手を振って、ついでに首も振り、全身で『無理』をアピールしていたところだ。

「踊りたいなら瑠夏に言って!? あの子は昔ヒップホップ習ってたからめちゃくちゃ上手いし、動きもキレッキレだよ!? ダンスの授業のときは先生を含めた全員から拍手喝采を浴びてたもの! 美人だから秀司と踊っても絵になるわよ!?」
 ちなみに当人は現在、自分の席で静かにブックカバーを付けた文庫本を広げている。

 ここからそんなに離れていないため、瑠夏にも沙良たちの声は届いているはずだが、聞いていないのか、あるいは聞いていても我関せずを貫くつもりらしい。
 どこまでもマイペース。それが長谷部瑠夏だ。
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