ひねくれ王子は私に夢中
「長谷部さんと踊ってどうするんだよ。沙良とじゃなきゃ意味がないんだって」
「甘い言葉を言ったって絆されないからね!? 私はただの素人だよ!? 素人が大勢の前で踊るなんて、自ら恥を晒すようなものじゃない! とてもそんな度胸は――」

「委員長。ここは不破の話に乗るべきだと思うぜ?」
 突然、山岸が話に割って入ってきた。

 そちらを見ると、自分の椅子に横向きに座る彼は右手の手のひらを天井に向け、肩を竦めた。

「周囲に『私たち付き合ってます』っていちいち言って回るより、文化祭のステージで視覚と聴覚に同時に訴えたほうがインパクトは大きい。さすがカップル、素晴らしいダンスだったと観客を唸らせることができれば、不破に言い寄る女もぐんと減るだろうよ。つまり委員長の悩みの種が減るってことだ」
 ぱちん、と綺麗にウィンクする山岸。

「……それはそうかもしれないけど……」

(いや、問題はそこじゃない。そもそも私は偽りの彼女なんだって! 文化祭が終わったらすぐ別れるっていうのに、大々的にカップルをアピールしてどうするの!? 一体何考えてるの!?)
 横目で秀司を見るが、秀司はただ笑っているだけ。

「そうだな。良いことだ」

(なんで山岸くんに同意してるの!? なにが良いことなの!?)

「そんなに心配しなくても大丈夫だって」
 沙良が狼狽している理由を勘違いしたらしく、山岸は苦笑した。

「ダンスの審査を受けるわけじゃないんだから。少々残念なダンスだったとしてもそこは文化祭のノリってやつ。よっぽどのことがない限りみんな拍手を送ってくれるよ」
「いや、私が言いたいのはそういうことじゃなくて、……ええと……」
 困り果てて口ごもり、自身のサイドテールを指で弄りながら秀司を見る。
 彼は沙良と視線を合わせず、微笑んだまま何も言おうとしない。

(私は偽彼女だって暴露してもいいの?)
 でも、それを言ってしまったら終わりのような気がする。

(私はどういう反応をすればいいの?……)

「踊る曲は決めてんの?」
「いや、これから沙良と相談して決めるつもり」
「ならいま流行りのアイドルグループの曲はどう? 『打ち上げ花火』とか『夢とプライド』とか。そうだ、あれがいい! 『Eternal Flower』!」
「『Eternal Flower』?」
「ああ。今年の夏に発売されたゲームの主題歌なんだけどさ、めちゃくちゃ良い曲だから聞いてみてよ――」

「待てよ二人とも」

 と。
 自分を差し置いて盛り上がり始めた二人を制するべきなのか迷っている間に、大和が言った。
 秀司たちが話を中断し、揃って大和を見る。

「花守さんに彼女としての自信をつけてやりたいって気持ちはわかる。でも、花守さんは人前で踊ることに抵抗があるみたいだし、何より怪我してるだろ?」 
 大和の視線はギプスに覆われた沙良の左腕に注がれている。
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