ひねくれ王子は私に夢中
「文化祭は一か月後だぞ? 完治まではどれくらいかかるんだ?」
「三週間くらいって言われたわ。もちろん、もっと早く治る可能性もあるけど、長引けば三週間くらい、って」
「なら、最悪、一週間足らずで振付を覚えて身体に叩き込むことになる。たった一週間じゃ一曲覚えるのも厳しいだろ。花守さんの負担が大きすぎるよ」
大和は顔をしかめた。
「秀司なら三日もあればダンスの振りつけも完璧に覚えて仕上げるんだろうけど、花守さんはそうじゃない。なんでもそつなくこなす天才肌のお前と違って、花守さんは多少頭が良いだけの凡人だよ?」
「………っ!!」
情け容赦のない大和からの評価は、沙良に並々ならぬダメージを与えた。
(確かに私は凡人……容姿は冴えないし、体育は平均値だし、唯一の取柄だったはずの学力ではこれまで一度も秀司に勝ったことがない。戸田くんにそう認識されるのも仕方ないことよ。それなのに、どうしてかしら。いざはっきりそう言われると傷つくわ……)
秀司に挑んでは負けた屈辱の日々がまざまざと蘇り、目から血涙が出そうだった。
「一緒にステージに立って、お前と比較される花守さんの身にもなってみろよ。これまで何度も似たようなことがあっただろ。急遽代打で弾いたピアノだって演劇だって部活の試合だって、お前は本人より上手にこなして周りから絶賛されてたけど、本人は本当に可哀想だったよ。お前は自分の能力値が一般に比べて異常に高いってことを自覚したほうがいい。花守さんみたいな凡人がお前のレベルについていけると思うなよ」
「うう……」
さらなる追撃に、口からうめき声が漏れる。
(また凡人って言われた……私じゃ秀司には敵わない、彼と同じレベルまで引き上げるのは無理だって決めつけられた……そりゃあ、人前で踊るなんて恥ずかしいし、踊りたくなんてなかったはずなんだけど。でも、このままだと『怪我を言い訳にして秀司と比較されることから逃げた』ってことにならない?)
右手を強く握りしめる。
どんなに努力しても秀司に敵わない。
そんなの、やってみなければわからないではないか。
(もはやなんで秀司が私と踊りたいかなんてどうでも良い。ここまで言われたからには完璧に踊って、無自覚に私を『秀司に劣るダメ人間』扱いしてる戸田くんをぎゃふんと言わせてやりたい。凡人だってやればできるんだってことを思い知らせてやりたい)
このとき、踊ることをためらっていた沙良の胸中に闘志の火が生まれた。
「三週間くらいって言われたわ。もちろん、もっと早く治る可能性もあるけど、長引けば三週間くらい、って」
「なら、最悪、一週間足らずで振付を覚えて身体に叩き込むことになる。たった一週間じゃ一曲覚えるのも厳しいだろ。花守さんの負担が大きすぎるよ」
大和は顔をしかめた。
「秀司なら三日もあればダンスの振りつけも完璧に覚えて仕上げるんだろうけど、花守さんはそうじゃない。なんでもそつなくこなす天才肌のお前と違って、花守さんは多少頭が良いだけの凡人だよ?」
「………っ!!」
情け容赦のない大和からの評価は、沙良に並々ならぬダメージを与えた。
(確かに私は凡人……容姿は冴えないし、体育は平均値だし、唯一の取柄だったはずの学力ではこれまで一度も秀司に勝ったことがない。戸田くんにそう認識されるのも仕方ないことよ。それなのに、どうしてかしら。いざはっきりそう言われると傷つくわ……)
秀司に挑んでは負けた屈辱の日々がまざまざと蘇り、目から血涙が出そうだった。
「一緒にステージに立って、お前と比較される花守さんの身にもなってみろよ。これまで何度も似たようなことがあっただろ。急遽代打で弾いたピアノだって演劇だって部活の試合だって、お前は本人より上手にこなして周りから絶賛されてたけど、本人は本当に可哀想だったよ。お前は自分の能力値が一般に比べて異常に高いってことを自覚したほうがいい。花守さんみたいな凡人がお前のレベルについていけると思うなよ」
「うう……」
さらなる追撃に、口からうめき声が漏れる。
(また凡人って言われた……私じゃ秀司には敵わない、彼と同じレベルまで引き上げるのは無理だって決めつけられた……そりゃあ、人前で踊るなんて恥ずかしいし、踊りたくなんてなかったはずなんだけど。でも、このままだと『怪我を言い訳にして秀司と比較されることから逃げた』ってことにならない?)
右手を強く握りしめる。
どんなに努力しても秀司に敵わない。
そんなの、やってみなければわからないではないか。
(もはやなんで秀司が私と踊りたいかなんてどうでも良い。ここまで言われたからには完璧に踊って、無自覚に私を『秀司に劣るダメ人間』扱いしてる戸田くんをぎゃふんと言わせてやりたい。凡人だってやればできるんだってことを思い知らせてやりたい)
このとき、踊ることをためらっていた沙良の胸中に闘志の火が生まれた。