ひねくれ王子は私に夢中

新しいダンスメンバー

 文化祭のステージに立つには生徒会にPR分を添えた企画書を提出し、生徒会と文化祭実行委員会から認可を得る必要がある。

 ステージ関連の企画書の提出期限は今日の昼休憩まで。

 沙良は放課後に二人でのんびり相談して――などと甘いことを考えていたが、秀司に断られずとも、そもそもそんな暇はなかった。

 二時限目と三時限目の間の休憩中に沙良たちは急いで踊る曲を決めた。

 曲数は三。
 二曲はアップテンポの曲で、参考にした動画通りに四人で踊る予定だ。

 ラスト一曲は趣向を変え、やや落ち着いた和風の曲。
 この曲は秀司と二人で、左右対称の動きを随所に取り入れつつ踊るということになった。

「面倒だから嫌」
 三時限目と四時限目の間の休憩中。

 沙良と秀司は瑠夏の席へ行き、指南役兼ダンスメンバーになってくれと頼んだが、にべもなく断られた。

「そこをなんとか」
「嫌ったら嫌。他をあたってちょうだい」
 瑠夏の声は氷のように冷ややかだ。
 自分の席に座る彼女の視線は手元の文庫本に固定されたまま、こちらを一瞥もしない。

「……うーん……」
 秀司もこれには困っている様子。

「……秀司。残念だけど、諦めましょう。こうなった瑠夏は物凄く手ごわいの。一度嫌だって言ったら、それは絶対よ。よっぽどのことがない限り、梃子でも動かない。瑠夏に頼むより、他の人に頼んだほうがいいわ。そうだ、吉田さんってダンス部だったでしょう。彼女に頼んでみましょうよ」
「ちょっと待って。諦めるのはまだ早い」
 秀司はズボンのポケットからスマホを取り出し、何か調べ始めた。

「いいえ、諦めるべきよ。どんな条件を出したところであたしが引き受ける可能性は無いわ。わかったらとっとと帰って。読書の邪魔」
 多くの女子を虜にする学校のアイドルに対して、瑠夏は辛辣にそう言った。

 それでも秀司はスマホを弄ったまま瑠夏の横から動かない。
 瑠夏は不快そうに柳眉を逆立て、初めてまともに秀司の顔を見た。

「聞いてるの? スマホを弄りたいなら自分の席に帰って――」
「このジム知ってる?」
 秀司はスマホを瑠夏の目の前に突き付けた。

 スマホに表示されているのはどこかのジムらしきSNSの写真。

 筋骨隆々の半裸の男性が白い歯を煌めかせ、トレーニングマシンの前でポーズを取っている。

「『maximum』を知らない人間なんていないでしょう」
 瑠夏は即答した。
 その視線は半裸の男性に釘付けだ。

「え、知らないんだけど……」
 思わず呟くと、瑠夏は聞き捨てならないとばかりに素早く首を動かして沙良を見据えた。
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