ひねくれ王子は私に夢中
 続いて勧誘するメンバーは大和だ。

「え、俺? なんで?」
 秀司と大和の席へ行き――つまり秀司は自分の席に戻ったようなものだ――一緒に踊らないかと尋ねると、大和は困惑を示した。

「お前運動神経いいし、格好良いだろ。その顔と身長はステージ映えする」
「……その評価はありがたく受け取るけど、俺はバスケ部の出し物にも参加しないといけないから忙しいんだよ。悪いけどパス」

「バスケ部の出し物って?」
「フリースタイルバスケ。ステージに立つメンバーに選ばれたから練習しないといけないんだ」
「じゃあそれ無しで。辞退して」
「笑顔で無茶言うなよ!?」

「バスケ部の部員はたくさんいるだろ。代わりがいるんだからお前じゃなくてもいいじゃん」
「思いっきりブーメランなんだけど!? 『運動神経が良くて格好良い人間なら誰でもいい』なら、俺にこだわる必要ないだろ!? 小西とか加賀とか誘ってみれば!?」
「ああ、ごめん。言い方が悪かった。俺は他の誰かじゃ嫌だ。大和が良い。だから俺と一緒に踊ってくれ」
 秀司は真顔で言い放った。

 隣で聞いていてドキッとするような台詞だったが、大和は頭痛でも感じたらしい。

「……そういう台詞は女子に言ってやれよ……」
 大和は片手で頭を抱えてため息をついた。

「ダメ。秀司に惚れちゃうからダメ」
 彼女役続行中の沙良は大事なことなので二回言った。

「なあ、大和。バスケ部より俺を選んでよ」

 秀司は両手で大和の肩を掴み、真摯にその目を見つめた。

 ある意味とんでもない台詞だ。
 目撃した女子たちは色めきだち、両手で口を覆っている。
 中には顔を真っ赤にする者や、興奮気味に友人の肩をバシバシ叩く者もいた。

「……お前って、割と手段選ばないよなあ……」
 ぴくぴくと大和の頬が痙攣している。
 その額には怒りの血管が浮き上がっていたりした。

「言ってて恥ずかしくないのか? ちなみに俺は言われて死ぬほど恥ずかしい」
 大和は己の肩を掴む秀司の手を乱暴に振り払った。

「大和相手には遠慮しないって決めてるからな」
 気にした様子もなく手を引っ込め、秀司がにっこり笑う。

「で、引き受けてくれないの? どうしても嫌だって言うならこっちにも考えがあるけど」
「何する気だよ!?」
 身の危険を感じたらしく、大和は椅子ごと身体を引いた。

「秀司、脅してどうするの!? 私たちは頼みに来たんでしょう!? ちょっと黙ってて!」
 話がややこしくなる前に、沙良は秀司の腕を押して横に退かせ、大和の正面に立った。

「お願い、戸田くん」
 言いながら右手を上げる。

 本当は両手を合わせたいのだが、左手が動かないいまは半端なポーズしか取れない。
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