ひねくれ王子は私に夢中
「秀司が遠慮なく振る舞える相手は戸田くんしかいないの。小西くんも加賀くんも素敵な人たちだけど、きっと彼らが相手じゃ秀司は気を遣う。集団で何かをするとき、秀司はチームの輪を乱さないよう、無意識に『出来ない人』に合わせてしまう。去年の文化祭の演劇が良い例だよ。秀司はもっと素晴らしい演技ができたはずなのに、緊張してたヒロイン役の子に合わせて演技を抑えてた」

 沙良はあのときステージの上には立たなかった。
 単純に恥ずかしかったから、華々しい演者ではなくただの小道具係として、舞台の袖からスポットライトを浴びる秀司を見ていただけだった。

 けれど、今回は覚悟を決めた。
 秀司と親友と共に明るいスポットライトを浴びると決めた。

 せっかくステージに立つのならば全力で踊りたいし、秀司にも全力で踊ってほしい。

 そのためにも、秀司が『気を遣う』要素は極力排除したいのだ。

 瑠夏はダンス経験者で抜群に上手く、相手が誰だろうと遠慮するような可愛い性格はしていないため、秀司はすぐに瑠夏と馴染むだろう。

 秀司が沙良に対して自然体なのは言わずもがな。

 だから、重要なのは最後のダンスメンバーだ。

「ステージの上で最高のパフォーマンスをするなら、ダンスメンバーは戸田くんしか考えられないの。難しいとは思う。でも、どうにかバスケ部の出し物とダンスを両立してもらえないかな。我儘を言ってごめん。お願い」
 沙良は深々と頭を下げた。

 数秒の沈黙の後、返ってきたのは「わかったよ」という言葉だった。

「いいの? 本当に?」
 沙良は顔を上げて、確認するようにじっと大和の整った顔を見つめた。

「ああ。頭まで下げられたら断るわけにはいかないだろ。それにその……さっきは悪いこと言ったし……」
 大和はばつが悪そうな顔で己の頬を掻いた。

「凡人とか言ってごめんな。悪気はなくて、あくまで『普通の人』っていう意味で使ったつもりなんだけど、後で秀司にあれは煽ってるようにしか聞こえないって言われて反省したよ。怪我してるからダンスなんて無理だとか、秀司のレベルに合わせるなんて無理だって言ったことも、ごめん。秀司は昔から嫌味なくらい何でもできるやつでさ。どんな人間も最終的に負けを認めて膝を折るから、つい花守さんも同じだって決め付けてしまった。素直に負けを認めておとなしく引き下がるならまだしも、中には秀司を逆恨みしたり、自信を失って極端に卑屈になったりする奴もいたんだよ」
「! 私は」
「うん。花守さんはそんな奴らとは違うよな」
 とっさに言いかけた沙良の台詞を引き継いで、大和は微笑んだ。

「花守さんは何度秀司に負けても懲りずに挑み続ける不屈の根性の持ち主だ。たとえ怪我のハンデを負ってても根性と努力でカバーして頑張るってことくらい、考えればわかることなのに。俺の発言は本当に失礼だったよな。もう二度と言わないから、これからよろしく」
「ええ。こちらこそ」
 大和に微笑み返してから、沙良は教室の時計を見た。

 もうすぐチャイムが鳴る。
 話し合いはいったん中断しなければならない。

「戸田くん。瑠夏にも言ったんだけど、昼休憩に入ったら少し付き合ってくれるかな。秀司と二人で踊る曲も一応決めたんだけど、あれでいいかどうか意見を聞きたい」
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