ひねくれ王子は私に夢中
「大体なんでここにいるの!? あなたがいるべきは学校《ここ》じゃなくて博物館でしょ!? 不破くんほど格好良い男なんて地球上に、いえ、宇宙に存在しないもの! 超貴重な国宝として一番目立つロビーにでも展示されてなさいよ!!」
 彼の両肩から手を離し、ビシッと指差す。
 眉間に指を突きつけられて、秀司は目をパチクリさせた。

「もし博物館に不破くんがいたら女子が殺到して経済が回るわ! お土産コーナーで不破くんを模した像なんか発売したらバカ売れ間違いなしよ! 少なくとも私は買う!!」
「買うんだ」
 秀司はおかしそうに笑った。

「買うわよ! 四月に不破くんを初めて見たときは衝撃だったもの!! 疑うなら見なさいよ女子たちを! みんなあなたを見てるじゃない!!」
 手のひら全体で示すと、こちらを見ていた女子たちは一斉に目を逸らした。

「ね、わかったでしょう!? それだけルックスが良ければ無理に一位を取る必要なんてないって! 不破くんなら立派なヒモになれるわ、私が保障する! たとえ一文無しのニートになったって世の女性が放っとかない、みんな喜んで養ってくれるわよ! だから安心して私にそのバッジを渡しなさい!!」

 バッジに手を伸ばすが、秀司はさっと身をよけた。
 それからバッジを外し、つまんで掲げる。

「そんなにこれが欲しい?」
「欲しい!!」

「じゃあ勉強しましょう。」
 秀司はにっこり笑った。

「……………………」
 笑顔でド正論を言われた沙良は石化した。

(……それはそうなんだけど……それを言ったらおしまいというか、身も蓋もないというか……勉強しても勝てないから苦労してるのであって……)

「大丈夫、やればできるよ。委員長ならいつか一位になれるって信じてるから。頑張って!」

 バッジを手の内に握り込み、秀司は己の胸の前で拳を作ってみせた。

(くっ……このっ……白々しい笑顔で、心にもないことを……!!)

「……覚えてなさいよおおおお!!」

 沙良は泣きながら逃亡した。
 といっても、四階にある自分の教室に戻るだけだ。

「待ってよ、にいんちょー」
 階段を上っていると、秀司が一段飛ばしで追いかけてきた。

「不破くんにだけはそのあだ名で呼ばれたくないっ!」
 階段の途中で振り返り、キツい眼差しで秀司を睨みつける。

「まあまあ、そんな怖い顔しないで。それはそうと、俺、チョコレートケーキが食べたいな」
 さきほどの騒動などなかったかのような、いつも通りの飄々とした態度で秀司は階段を上り、沙良の隣に並んでリクエストしてきた。
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