ひねくれ王子は私に夢中
「あんたがいなきゃあたしはいまでも全てを憎んでたでしょう。あんたのおかげで、あたしは世界の破滅を願うことを止められた。感謝してるのよ。だから、その……」
 瑠夏は口ごもって目を伏せ、また視線を上げ、それから頭を下げた。

「……さっきは取り乱して、八つ当たりみたいなこと言って、ごめん」

「いいよ」
 沙良は彼女の手首を掴んでいた手を離し、改めてその手を握り、上機嫌で振った。

「これは何?」
「仲直りの握手」
「……。ほんと、あんたには敵わないわ」
 瑠夏は頬を緩めて沙良の手を握り返してきた。

(良かった。これでわだかまりは完全に消えたわよね)
 握手を終えて心からほっとしていると。

「良かったね」
 秀司が全く同じ感想を口にしたため、沙良はそちらに注意を向けた。

 秀司は穏やかに笑っている。
 大和も同じ表情だった。

「長谷部さん、辛い過去を話してくれてありがとう。お礼になるかどうかはわからないけど、俺も自分の過去を話そうかな。興味があれば」
「ある」
 瑠夏より先に沙良が言った。

 秀司は瑠夏に対して質問したのであって、自分が答えるのは違うとわかっていた。
 それでも秀司のことならなんでも知りたくて、考えるより先に言葉が出ていた。

 秀司はこちらを見て意外そうな顔をし、微かに笑って語り始めた。

「美人の長谷部さんが男子にモテるように、俺は昔から女子にモテた。誰かに好きだって言ってもらえるのは純粋に嬉しいし、アイドル扱いされるのも悪くないと思ってたよ。でも、盗撮やストーカーは当たり前、好意が免罪符になると思ってる人の相手をするのは疲れたな。世の中には常識や話が通用しない人種がいるんだよね、悲しいことに」

「自分が良ければそれで良し。自分こそが正義でルールって思い込んでる馬鹿はどこにでもいるものよ」
 並外れた美少女であるが故、幼少の頃から痴漢やストーカー被害に遭い、これまで大変な苦労を強いられてきた瑠夏がしみじみと呟く。

「決定的な出来事が起きたのは中三のときだ。俺はある女子に告白されて断った。後で知ったんだけど、その子にはそもそも彼氏がいた。それも、相当厄介な類の男だ。俺はその男に『俺の女に手を出した』って非難されて殴られた。手を出すも何も、こっちは本当に何もしてないのにね。問題のその子は『思わせぶりな態度を取った俺が悪い、私は被害者、なんて可哀想な私』ってな感じで泣くんだよ。いや、俺は皆の求める理想のアイドル像を演じてただけで、勝手に惚れたのはそっちですけどっていう。それまでストレスに耐えてアイドルを演じてたけど、全部が馬鹿馬鹿しくなって、俺はその日を境に愛想を振りまくのを止めた」
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