ひねくれ王子は私に夢中
(ああ……それで秀司は入学当時、あんなに冷たかったのね)

 人間不信に陥った瑠夏と似たような目をしていた理由がようやくわかった。

 トップ入学を果たしておきながら入学式での新入生代表挨拶を断ったのも、目立って女子に騒がれることを厭ったからだろう。

「たった一日で別人みたく変わったよな、秀司」
 大和は立てた片膝に腕をかけ、苦笑している。

「まあな。なんていうか、自分の中の何かがぶちっと切れた。多分、とっくに限界だったんだろうな。アイドルは俺には向いてないってことがよくわかった。人間、無理せず思うままに生きるのが一番だよ」
 秀司は座ったまま姿勢を低くし、膝を抱えて俯いている瑠夏の顔を横から覗き込んだ。

「長谷部さんも、もう少し肩の力を抜いて生きてみたら? 休憩時間中に本ばかり読んでないで、沙良以外の他の女子とも積極的に絡んでみなよ。個人的には石田さんのグループとかお勧め。見た目はちょっと派手だけど、みんないい人たちだよ」

「……わかってるわよ。善人じゃなきゃ、沙良の髪を毎朝まとめてあげたりしないでしょう」
 瑠夏は沙良のポニーテイルを見た。

 ポニーテイルの根元にはピンク色のリボンが結ばれている。
 今朝このリボンを結んでくれたのは里帆だ。

「なら明日、自分から石田さんたちに話しかけてみなよ。世界が広がるかもしれないよ?」
「……そうね。そうしてみよう、かしら」
 瑠夏は小さく頷いた。

「うんうん。頑張れ」
 秀司はにこにこしながら瑠夏の頭を撫でた。

 ぴく、と沙良の頬が引き攣ったが、秀司はそれに気づかない。

 そもそも彼は瑠夏のほうを向いているため、沙良の微妙な表情変化に気づくはずもなかった。

「ふふ」
 瑠夏は体育座りを止めて膝を倒し、珍しく笑い声を上げた。

「不破くんがモテる理由が少しだけわかったような気がするわ。あたしが中学で出会ってしまった男は外見しか取柄がないナルシストなクソ野郎だったけど、不破くんは中身もイケメンね。あたしに過去を話すよう促したのも、沙良との間に生じたわだかまりを早く解消して欲しかったからでしょう。有耶無耶にしてしまうと長く引きずるからね。全く、沙良が惚れるわけだわ」
「ほ、惚れてないし!! 全然ちっとも惚れてないし!!」
 ぶんぶん首を振る。

「あんたねえ。カップルになったくせに、まだそんなこと言うの? あんまりそっけない態度を取ってると、不破くんの心も離れるわよ?」
 瑠夏は呆れ果てたような顔をしている。

「う……」
(いや、だから、私は偽彼女なんだって……)
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