ひねくれ王子は私に夢中
「そうね。ここだけの話、ここでの練習が終わった後も、日曜日もあたしは不破くんの練習に付き合わされてたのよ。文化祭では絶対に失敗したくない、完璧に踊りたいからって」
「え……」
沙良は目を見張った。
月水金はダンスの練習で、火木土は花守食堂でのバイト。
さらに日曜日までダンスの練習をするのでは、秀司に自由時間などないではないか。
ダンスやバイトに励む傍ら、秀司は勉学だって怠っていない。
おとついの抜き打ちテストでも満点を取って93点だった沙良を悔しがらせた。
「俺もここだけの話」
大和は人差し指を唇に持っていき、『秀司には内緒にして』と暗に伝えてから言った。
「フリーバスケを止めたのは秀司に頭を下げられたからだよ。どうしても文化祭を成功させたいから協力してくれってさ。あいつが俺に頼みごとをするなんて珍しいことなんだよ、本当に。あんな真剣な顔で頼まれたら、ダンスに専念する以外の選択肢なんてなかったよ」
苦笑して、大和は腰に手を当てた。
「どうして……」
思わず呟く。
――文化祭が終われば私の役目は終わり。すぐ別れるのに、どうして一緒に踊ろうなんて言い出したの? たとえ嘘でも、付き合った記念に思い出でも作ろうと思ったの?
その質問に彼は答えてくれなかった。
――本当にわからない?
(わからないわよ)
胸が苦しくなり、沙良は胸元をぎゅっと握った。
「……私との思い出作りのためなら、適当に踊って終わりにすればいいでしょう。それなのに、そんなに必死になって――そうまでして私と踊って、一体何になるっていうの……」
(文化祭が終わったら、私とはすぐに別れるつもりなんでしょう? 文化祭が終わってもしばらくはカップルのフリを続けてくれって言っても、頷いてくれなかったじゃない)
だから、文化祭が近づくにつれて沙良は悲しくなった。
嘘でも『彼女』を公言できるのはいまだけだと、隙を見ては秀司の傍へ行き、毎日を噛みしめるように過ごしてきた。
この前の日曜日は秀司と一緒に映画を見に行った。
終始ドキドキしっ放しで緊張したけれど、まるで夢のように楽しかった。
映画の後に立ち寄ったゲームセンターで秀司が取ってくれた猫のぬいぐるみは、沙良の部屋に大事に飾ってある。
(ねえ、私は期間限定の彼女なんでしょう? 文化祭が終わったらこの夢は終わってしまうんでしょう? なのに、どうして……)
「どうして秀司はそんなに頑張るの……秀司が何を考えてるのかなんて、ちっともわからないわよ……」
泣き声のような声が口から洩れ、沙良は俯いた。
「本当にわからないの?」
間髪入れずに瑠夏が言った言葉は、奇しくも秀司が言ったそれと全く同じだった。
顔を上げれば、瑠夏は呆れと非難が入り混じったような目で沙良を見ている。
「……瑠夏はわかるの?」
「馬鹿じゃないの。誰にでもわかるわよ。ああもう」
苛々したように瑠夏は細い手で自分の髪をかき混ぜた。
「言うの?」
大和は片手に持っていたスポーツドリンクを棚に置き、意味ありげな目を瑠夏に向けた。
その台詞と表情からして、彼は瑠夏の言わんとすることを察しているらしい。
「ええ、もう黙ってられない。あたしが言うのはルール違反だろうけど、このままじゃあまりにも不破くんが報われないから教えてあげる」
瑠夏は細く息を吐いてから、強い目で沙良を射抜いた。
「あんたのためよ。それ以外に理由なんてあるわけないでしょう」
「え……」
沙良は目を見張った。
月水金はダンスの練習で、火木土は花守食堂でのバイト。
さらに日曜日までダンスの練習をするのでは、秀司に自由時間などないではないか。
ダンスやバイトに励む傍ら、秀司は勉学だって怠っていない。
おとついの抜き打ちテストでも満点を取って93点だった沙良を悔しがらせた。
「俺もここだけの話」
大和は人差し指を唇に持っていき、『秀司には内緒にして』と暗に伝えてから言った。
「フリーバスケを止めたのは秀司に頭を下げられたからだよ。どうしても文化祭を成功させたいから協力してくれってさ。あいつが俺に頼みごとをするなんて珍しいことなんだよ、本当に。あんな真剣な顔で頼まれたら、ダンスに専念する以外の選択肢なんてなかったよ」
苦笑して、大和は腰に手を当てた。
「どうして……」
思わず呟く。
――文化祭が終われば私の役目は終わり。すぐ別れるのに、どうして一緒に踊ろうなんて言い出したの? たとえ嘘でも、付き合った記念に思い出でも作ろうと思ったの?
その質問に彼は答えてくれなかった。
――本当にわからない?
(わからないわよ)
胸が苦しくなり、沙良は胸元をぎゅっと握った。
「……私との思い出作りのためなら、適当に踊って終わりにすればいいでしょう。それなのに、そんなに必死になって――そうまでして私と踊って、一体何になるっていうの……」
(文化祭が終わったら、私とはすぐに別れるつもりなんでしょう? 文化祭が終わってもしばらくはカップルのフリを続けてくれって言っても、頷いてくれなかったじゃない)
だから、文化祭が近づくにつれて沙良は悲しくなった。
嘘でも『彼女』を公言できるのはいまだけだと、隙を見ては秀司の傍へ行き、毎日を噛みしめるように過ごしてきた。
この前の日曜日は秀司と一緒に映画を見に行った。
終始ドキドキしっ放しで緊張したけれど、まるで夢のように楽しかった。
映画の後に立ち寄ったゲームセンターで秀司が取ってくれた猫のぬいぐるみは、沙良の部屋に大事に飾ってある。
(ねえ、私は期間限定の彼女なんでしょう? 文化祭が終わったらこの夢は終わってしまうんでしょう? なのに、どうして……)
「どうして秀司はそんなに頑張るの……秀司が何を考えてるのかなんて、ちっともわからないわよ……」
泣き声のような声が口から洩れ、沙良は俯いた。
「本当にわからないの?」
間髪入れずに瑠夏が言った言葉は、奇しくも秀司が言ったそれと全く同じだった。
顔を上げれば、瑠夏は呆れと非難が入り混じったような目で沙良を見ている。
「……瑠夏はわかるの?」
「馬鹿じゃないの。誰にでもわかるわよ。ああもう」
苛々したように瑠夏は細い手で自分の髪をかき混ぜた。
「言うの?」
大和は片手に持っていたスポーツドリンクを棚に置き、意味ありげな目を瑠夏に向けた。
その台詞と表情からして、彼は瑠夏の言わんとすることを察しているらしい。
「ええ、もう黙ってられない。あたしが言うのはルール違反だろうけど、このままじゃあまりにも不破くんが報われないから教えてあげる」
瑠夏は細く息を吐いてから、強い目で沙良を射抜いた。
「あんたのためよ。それ以外に理由なんてあるわけないでしょう」