ひねくれ王子は私に夢中
「……何それ。どうしてそうなるの。違うわよ。そんなはず……だって、私は……」
眉間に苦悩の皺を寄せて拳を握り、磨き抜かれた床に視線を落とす。
二人は秀司と沙良が文化祭で踊る動機を『カップルアピール』だと思っていて、その成功のために尽力してくれている。
それなのに、蓋を開けてみれば秀司と沙良はカップルでも何でもなく『二人で踊って拍手喝采を浴びるか、ブーイングを浴びるか賭けてみたい』などという秀司の謎の思い付きに振り回されていただけなのだと知ったら激怒するだろう。
(私は偽物の彼女だなんて、とても言えない……)
ちょうどBGMとして流れていた曲も終わり、静まり返った部屋の中。
「『だって私は偽物の彼女だもの』?」
「!!?」
台詞の続きを瑠夏に言い当てられた沙良は極限まで目を剥き、弾かれたように顔を上げた。
「どうしてそれを……秀司が話したの?」
「ええ。協力を仰いでおいて騙すのは不誠実だと思ったんでしょうね。講師役兼ダンスメンバーになってほしいと頼まれたその日のうちに、不破くんは隠すことなく全てを打ち明けてくれたわ」
大和に顔を向けると、彼は少々申し訳なさそうな顔で頷いた。
「じゃあ……二人とも知ってたんだ……最初から」
「ええ。もし知らされていなかったとしても、二日前、あんたは『いまは』私が不破くんの彼女だって言ったでしょう。わざわざ『いま』をつけるってことは、 期間限定なんだろうなって察しはついたと思うわよ」
瑠夏は肩を竦めてみせた。
「……待って。全てを打ち明けたって、じゃあ――瑠夏はそもそもどうして秀司が文化祭で踊ろうと言い出したのか、その動機も知らされたの?」
緊張しながら尋ねる。
「もちろんよ。彼は熱を込めて色々語ってくれたけど、要約するとこうね。『どうしても沙良を落としたいから協力してくれ』」
「…………!?」
凄まじい衝撃が頭のてっぺんから足のつま先までを走り抜けていった。
「落とすって……それって、つまり……」
声が震える。
まさか、と思うのに、期待で鼓動が早くなった。
「だから。沙良に本物の彼女になって欲しかったのよ、不破くんは」
明答を口にした瑠夏は良かったわね、とでも言うように笑った。
(どうしよう、嬉しい……)
その感情を自覚してしまったら、もう気づかない振りはできなくなってしまった。
(……私は、秀司のことが好きなんだ)
鼻の奥がつんとして、泣きそうになるのを沙良は必死で堪えた。
「でもあんたは色々と拗らせた女だから、たとえもし不破くんに『付き合ってくれ』って言われたって素直に頷いたりしないでしょう? 不破くんは『いけすかない男』なんでしょう? 『ライバルで、宿敵で、好きになるとかありえない』んでしょう? 二日前も言ってたわよね、『全然ちっとも惚れてない』って」
「う……」
昔の台詞まで良く覚えているな、と沙良は渋面になった。
いや、もちろん、そんなことを言った沙良が悪いのだが。
眉間に苦悩の皺を寄せて拳を握り、磨き抜かれた床に視線を落とす。
二人は秀司と沙良が文化祭で踊る動機を『カップルアピール』だと思っていて、その成功のために尽力してくれている。
それなのに、蓋を開けてみれば秀司と沙良はカップルでも何でもなく『二人で踊って拍手喝采を浴びるか、ブーイングを浴びるか賭けてみたい』などという秀司の謎の思い付きに振り回されていただけなのだと知ったら激怒するだろう。
(私は偽物の彼女だなんて、とても言えない……)
ちょうどBGMとして流れていた曲も終わり、静まり返った部屋の中。
「『だって私は偽物の彼女だもの』?」
「!!?」
台詞の続きを瑠夏に言い当てられた沙良は極限まで目を剥き、弾かれたように顔を上げた。
「どうしてそれを……秀司が話したの?」
「ええ。協力を仰いでおいて騙すのは不誠実だと思ったんでしょうね。講師役兼ダンスメンバーになってほしいと頼まれたその日のうちに、不破くんは隠すことなく全てを打ち明けてくれたわ」
大和に顔を向けると、彼は少々申し訳なさそうな顔で頷いた。
「じゃあ……二人とも知ってたんだ……最初から」
「ええ。もし知らされていなかったとしても、二日前、あんたは『いまは』私が不破くんの彼女だって言ったでしょう。わざわざ『いま』をつけるってことは、 期間限定なんだろうなって察しはついたと思うわよ」
瑠夏は肩を竦めてみせた。
「……待って。全てを打ち明けたって、じゃあ――瑠夏はそもそもどうして秀司が文化祭で踊ろうと言い出したのか、その動機も知らされたの?」
緊張しながら尋ねる。
「もちろんよ。彼は熱を込めて色々語ってくれたけど、要約するとこうね。『どうしても沙良を落としたいから協力してくれ』」
「…………!?」
凄まじい衝撃が頭のてっぺんから足のつま先までを走り抜けていった。
「落とすって……それって、つまり……」
声が震える。
まさか、と思うのに、期待で鼓動が早くなった。
「だから。沙良に本物の彼女になって欲しかったのよ、不破くんは」
明答を口にした瑠夏は良かったわね、とでも言うように笑った。
(どうしよう、嬉しい……)
その感情を自覚してしまったら、もう気づかない振りはできなくなってしまった。
(……私は、秀司のことが好きなんだ)
鼻の奥がつんとして、泣きそうになるのを沙良は必死で堪えた。
「でもあんたは色々と拗らせた女だから、たとえもし不破くんに『付き合ってくれ』って言われたって素直に頷いたりしないでしょう? 不破くんは『いけすかない男』なんでしょう? 『ライバルで、宿敵で、好きになるとかありえない』んでしょう? 二日前も言ってたわよね、『全然ちっとも惚れてない』って」
「う……」
昔の台詞まで良く覚えているな、と沙良は渋面になった。
いや、もちろん、そんなことを言った沙良が悪いのだが。