ひねくれ王子は私に夢中
「いや、あの、ちょっと待って? 話を戻すけど、秀司は私に彼女になって欲しくて文化祭で踊ろうなんて言い出したの? 本当に?」
「嘘をついてどうするのよ。不破くんは――」
「はい。秀司の事情は俺から説明していい? 多分、長谷部さんより俺のほうが詳しい」
 大和が片手をあげたため、瑠夏は話を中断してそちらを向いた。

「どうぞ」
 発言権を譲った瑠夏はスポーツドリンクを片手に持ち、壁に背を預けて座った。
 後は任せたという態度でのんびりとスポーツドリンクを飲み始める。
 彼女に倣って沙良も新品のスポーツドリンクを取り上げ、その場に座った。

 駅からここまで走って来たため、実はかなり喉が渇いている。

「ちょっと待ってね」
 沙良は急いで水分補給し、ペットボトルの蓋を閉めて身体の横に置き、改めて大和を見た。

「どうぞ。お願いします」
 一言一句聞き逃すまいと、きちんと正座して傾聴の姿勢を取る。

「いや、正座とかしなくていいんだけど……そんな大した話でもないし……」
 片膝を立て、リラックスした姿勢をしている大和は困り顔。
 指摘された沙良は即座に膝を崩し、これでいいよね、さあ早く! という目で大和を見た。

 大和はぽりぽりと頬を掻いてから口を開いた。

「この前、秀司に彼女がいる疑惑が持ち上がっただろ」
「……ええ」
 クラスメイトの前で醜態を晒してしまった沙良は赤面して頷いた。

 いまでも思い出しては恥ずかしさの余りベッドでのたうち回っているのは秘密である。

「魂が抜けちゃった花守さんを見て、秀司はやっと『これは脈ありっぽい』と判断することができたんだよ。秀司は物凄いイケメンで、何でもできるパーフェクトヒューマンだけど、根っこは普通の男だからさ。普段のじゃれ合いから花守さんに嫌われてないのは確信してても、花守さんが自分に向ける好意の種類がわからなかったんだ。『クラスメイトや友人に向けるものと同じ、ただの親愛』か、それとも『異性に抱く特別な恋愛感情』か。照れ隠しなんだろうけど、長谷部さんの言う通り、花守さんはちっとも好きじゃないとか、ただのライバルとか、秀司に割と酷いこと言うからさ」
「要は全部あんたが悪い。」
「はい……」
 瑠夏にズバリ指摘された沙良は背中を丸めて身体を縮めた。

「まあまあ」
 大和は苦笑しながら両手を振り、ジト目で沙良を睨んでいる瑠夏を宥めた。

「それで、えーと。どこまで話したかな。そうそう、魂が抜けちゃった花守さんを見て、脈ありっぽいと判断した秀司はようやく一歩を踏み出すことにした。いきなり彼女になってって言っても多分、花守さんはあれこれ理由をつけて頷いてくれないだろうから、とりあえず期間限定ってことして、どうにか仮の彼女になってもらったんだよ」
「沙良は素直じゃないからねえ」
 小声で瑠夏がボソッと言う。
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