ひねくれ王子は私に夢中
「…………え?」
 予期せぬ反応を返された沙良は手を下ろして凍り付いた。

「え、じゃないわよ。バレバレよ。クラス全員どころかもはや全校生徒が知ってるわよ」
「えええ!?」
 沙良は激しく狼狽した。

 しかし、思い返してみれば、秀司に彼女がいるという噂が広がった日は学年問わず、色んな生徒から同情の眼差しを向けられたような気がする。

「あ、俺、この前電車で秀司のこと噂してる他校の女子を見かけたよ。『でもあの人格好良いけど彼女いるっぽいからなー』とか言ってた」
「まあ、他校の女子にまで広くカップル認定されてるのね。さすがだわ」
「なんでっ!?」
 沙良は悲鳴を上げた。

「なんでって。聞くの? テストが終わるたびに掲示板前で堂々とイチャイチャしといて?」
「い、イチャイチャなんてしてないじゃない!!」
「じゃあやけに気合いの入った不破くんのためのケーキ作りは?」
「あ、あれは、テストが終わったら負けたほうがケーキを渡すって言う約束をしてて、だから仕方なく――」
 赤面して言うが、瑠夏の追及は止まらない。

「ほお。仕方なく作ってる割にはあたしに何個も試作品を食べさせたわよねえ? こっちのケーキがいいかしら、それともあっちのケーキがいいかしら、どれが不破くんの好みかしら。何回も聞かされるものだから、耳にタコができたわよ」
「う……」

「あはは。実は秀司もケーキのお返しをどうするか俺に相談してきたりするよ。とりあえずこれとこれとこれに絞ったんだけど、どれが良いと思う? って真顔で聞かれても。選択肢が十個もあるのに絞ったとは言わねーよ!! って全力でツッコんでやったわ」

「戸田くんもあたしと似たような苦労をしてるのね……あ、そうそう。飴のお礼にカップケーキを持ってきたんだけど食べない?」
「え、いいの? 食べる。俺甘いもの好きなんだ。ありがとう」
 可愛らしい包装紙に包まれたカップケーキを渡された大和は背景に花を咲かせた。

「おお、美味しい」
「でしょう? このカップケーキ、最近のお気に入りで――」
「ちょっと!? 何和気藹々とお菓子談義してるのよ!? 人が最大の秘密を暴露したって言うのに反応薄くない!? 私の告白をカップケーキ一つで流さないで!?」

「いや、花守さんが秀司にベタ惚れだっていうのはみんな知ってるから。『今日の天気は雨です』ってくらい当たり前のことを言われても。そんなの見ればわかるし、ツッコミどころに困るんだよな」
「ツッコまなくていいんだけど!?」
「不破くん心配してたし、腕が治ったことを早く教えてあげなさいね。あと、文化祭終了までに不破くんと付き合わなかったら絶交ね」
「なんでっ!?」
「なんでって。ツンデレ拗らせたあんたにこれ以上付き合うのはご免なのよ。あたしだけじゃなくきっと全校生徒が思ってるわよ」
「そうだな。一体何人の生徒が無自覚にイチャついてる花守さんたちを見て『お前らさっさと付き合えよ!!』って台詞を飲み下してきたと思う? 俺は秀司の親友だから、色んな奴に『あいつら早くなんとかしてくれ』って苦情を言われて大変だったんだよ?」
「裏でそんなことが……」
「とにかく。もう結果はわかってるんだから偽彼女とか面倒くさいこと言ってないでとっとと告白して付き合いなさい。これ以降ツンデレが発動するたびに渾身の力を込めて顔面チョップするからね」
「渾身の力を込めてっ!?」
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