ひねくれ王子は私に夢中
筋肉痛の月曜日
文化祭がいよいよ今週末に迫った月曜日、三時限目終了後の十分休憩中。
(……疲れた……)
沙良は右頬を自分の机にべったりくっつけ、全身の筋肉を弛緩させていた。
心優しいクラスメイトたちは沙良を見ても見ぬふりをしてくれている。
おかげで沙良は存分に休むことができていたのだが――
「にいんちょ、大丈夫? 生きてる?」
歩美の声がした。
机に両手をついて鉛のように重く感じる頭を持ち上げ、ゆっくり首を動かして右手を見れば、歩美たち三人組が心配そうな表情で立っている。
「……一応生きてます……」
生まれたての小鹿のようにプルプル震えながら言う。
近くの席で話していた男子たちもこちらを向いていた。
「辛かったら寝てていいよ? それとも保健室行く?」
「大丈夫……ただの筋肉痛だから……」
沙良は痛む腕を動かして、これまた痛む首を押さえた。
(首が痛いし肩も痛い。腕も腰も脚も痛い……もはや全身が痛い……)
三日前の金曜日。
腕が治った沙良に、瑠夏は「一人だけスタートが遅れてるんだから」とスパルタレッスンを行った。
一応沙良は秀司への恋心を自覚したばかりで、少しくらい甘酸っぱい恋の余韻に浸らせてくれても罰は当たらないのではないのか――なんて思ったりしたのだが、瑠夏は容赦なく沙良の身体を掴んで事細かにダメ出しをした。
まるで八百屋が大根でも扱うような手つきで彼女はこちらの身体を掴んできた。
何故秀司や大和が異性の瑠夏に身体を掴まれても特に恥じらう様子がなかったのかわかった。
(あんな情緒もへったくれもない適当さで扱われれば、ドキッとするわけがないわ)
何より問題点を指摘する瑠夏は至って真面目なのだ。
射抜くような強い目で睨まれては邪な考えを抱けるわけもない。
沙良は彼女の期待に応えるべく、レンタルスタジオに居残れる時間ギリギリまで粘って踊った。
翌日の土曜日は秀司と花守食堂で働いた。
前日のラインで秀司は『大丈夫』と言っていたが、実際に平気な顔で左手を振ってみせた彼を見てようやく沙良は安堵することができた。
お昼のピークが過ぎ、テーブル席で秀司と一緒に遅い昼食を食べながら談笑していると、常連客が「仲が良いんだねえ」と言った。
沙良は赤面したが秀司は「実は付き合ってるんです」と言わなくてもいいことを言い、その場にいた客全員に茶化されたり祝福されたりした。
……死ぬほど恥ずかしかった。
夕方になってバイトが終わると、沙良は秀司を自分の部屋に招き、ダンスの練習に付き合ってもらった。
悔しいが彼のダンスはほとんど完璧だった。
瑠夏は「あたしは重箱の隅をつついてるようなもの」と言っていたが、確かに秀司のダンスはこのままステージに立っても拍手喝采を送られるのは確実なレベルにまで仕上がっていた。
危機感を覚えた沙良はその日の夜遅くまで自主練習をした。
日曜日には四人でダンスの衣装を買いに行き、レンタルスタジオに寄って踊った。
撮ったビデオを確認しても、やはり沙良だけが下手だった。
解散した後も、沙良は自宅で自主練習に励んだ。
そして現在。
金土日と、三日連続で頑張った結果は筋肉痛という反動となって沙良の身体を蝕んでいた。
「全身筋肉痛で動けなくなるって、相当だよね。さっきの体育でも、にいんちょ一人だけ変な動きしてた」
「うん。壊れたマリオネットみたいだった」
「自覚してるから言わないで……隣のクラスの子にまで心配されたんだから……」
沙良は両手で顔を覆った。
(……疲れた……)
沙良は右頬を自分の机にべったりくっつけ、全身の筋肉を弛緩させていた。
心優しいクラスメイトたちは沙良を見ても見ぬふりをしてくれている。
おかげで沙良は存分に休むことができていたのだが――
「にいんちょ、大丈夫? 生きてる?」
歩美の声がした。
机に両手をついて鉛のように重く感じる頭を持ち上げ、ゆっくり首を動かして右手を見れば、歩美たち三人組が心配そうな表情で立っている。
「……一応生きてます……」
生まれたての小鹿のようにプルプル震えながら言う。
近くの席で話していた男子たちもこちらを向いていた。
「辛かったら寝てていいよ? それとも保健室行く?」
「大丈夫……ただの筋肉痛だから……」
沙良は痛む腕を動かして、これまた痛む首を押さえた。
(首が痛いし肩も痛い。腕も腰も脚も痛い……もはや全身が痛い……)
三日前の金曜日。
腕が治った沙良に、瑠夏は「一人だけスタートが遅れてるんだから」とスパルタレッスンを行った。
一応沙良は秀司への恋心を自覚したばかりで、少しくらい甘酸っぱい恋の余韻に浸らせてくれても罰は当たらないのではないのか――なんて思ったりしたのだが、瑠夏は容赦なく沙良の身体を掴んで事細かにダメ出しをした。
まるで八百屋が大根でも扱うような手つきで彼女はこちらの身体を掴んできた。
何故秀司や大和が異性の瑠夏に身体を掴まれても特に恥じらう様子がなかったのかわかった。
(あんな情緒もへったくれもない適当さで扱われれば、ドキッとするわけがないわ)
何より問題点を指摘する瑠夏は至って真面目なのだ。
射抜くような強い目で睨まれては邪な考えを抱けるわけもない。
沙良は彼女の期待に応えるべく、レンタルスタジオに居残れる時間ギリギリまで粘って踊った。
翌日の土曜日は秀司と花守食堂で働いた。
前日のラインで秀司は『大丈夫』と言っていたが、実際に平気な顔で左手を振ってみせた彼を見てようやく沙良は安堵することができた。
お昼のピークが過ぎ、テーブル席で秀司と一緒に遅い昼食を食べながら談笑していると、常連客が「仲が良いんだねえ」と言った。
沙良は赤面したが秀司は「実は付き合ってるんです」と言わなくてもいいことを言い、その場にいた客全員に茶化されたり祝福されたりした。
……死ぬほど恥ずかしかった。
夕方になってバイトが終わると、沙良は秀司を自分の部屋に招き、ダンスの練習に付き合ってもらった。
悔しいが彼のダンスはほとんど完璧だった。
瑠夏は「あたしは重箱の隅をつついてるようなもの」と言っていたが、確かに秀司のダンスはこのままステージに立っても拍手喝采を送られるのは確実なレベルにまで仕上がっていた。
危機感を覚えた沙良はその日の夜遅くまで自主練習をした。
日曜日には四人でダンスの衣装を買いに行き、レンタルスタジオに寄って踊った。
撮ったビデオを確認しても、やはり沙良だけが下手だった。
解散した後も、沙良は自宅で自主練習に励んだ。
そして現在。
金土日と、三日連続で頑張った結果は筋肉痛という反動となって沙良の身体を蝕んでいた。
「全身筋肉痛で動けなくなるって、相当だよね。さっきの体育でも、にいんちょ一人だけ変な動きしてた」
「うん。壊れたマリオネットみたいだった」
「自覚してるから言わないで……隣のクラスの子にまで心配されたんだから……」
沙良は両手で顔を覆った。