ひねくれ王子は私に夢中
今日は朝から小雨が降っていたため、三時限目の体育は珍しく一組と二組の男女混合でバドミントンをした。
最初は体育館を半分に分けて男女別に授業を受けていたが、せっかくだから男女混合でやりたいという生徒たちの要望が通り、後半は男女混合で試合もした。
気になるあの子に良いところを見せようと張り切る男子、彼氏に声援を送る女子。
試合は常にはない盛り上がりを見せていた。
運動神経が良く見た目も良い秀司と大和の大活躍に、隣のクラスの女子たちもきゃあきゃあ大騒ぎ。
沙良もその波に乗り、声を出して秀司を応援したい気持ちはあったのだが、声を張り上げようとすると腹筋が痛むため心の中で声援を送った。
自分の試合のときはろくに動けず、沙良ばかり狙われて惨敗してしまい、パートナーの二組の男子には申し訳なかった。
「ちょっと頑張りすぎじゃない?」
「いいえ、文化祭は今週末だもの。いくら頑張っても頑張りすぎるってことはないわ」
沙良は後ろを振り返った。
文化祭が近づくにつれて文化祭用の道具は増え、教室の後方、約三分の一が道具で埋まっている。
おかげで生徒たちが座る席のスペースも普段より狭くなり、全体的に机が前へ寄っていた。
「私はクラス委員長なのに、クラスの準備をほとんど手伝うことなくダンスに専念させてもらっているからね。ステージで無様な姿を晒すわけにはいかないのよ」
びき、と背筋が音を立てるのを感じつつ、まっすぐに背筋を伸ばす。
つい癖で人差し指で眼鏡の縁を押し上げようとし、そこに眼鏡がないことに気づいて沙良は手を下ろした。
「にいんちょが頑張るって言うなら応援するけど。まあ、それはともかく?」
「そうそう、それはともかく?」
歩美は意味ありげに友人たちと顔を見合わせてから沙良の机に両手をつき、身を乗り出した。
ふわりと柑橘系の香りがする。
歩美がつけている香水の香りらしい。
「にいんちょ、コンタクトにしたんだね? イメチェンですか?」
「誰のためですか?」
「ずばり不破くんのためですか?」
三人の目は好奇心に輝いていた。
「……ええ。そうよ」
沙良の頷きに合わせてサイドテールが揺れる。
サイドテールには黄色いリボンが結われていた。
もちろん、このリボンを結ったのは彼女たちではなく、左手が治った沙良自身だ。
「ほほう?」
「恋の力は女を変えるねえ。眉毛も整えたし、その睫毛もビューラーで上げたっしょ?」
茉奈は顔を近づけてしげしげと沙良の顔を眺めた後、にやりと笑って人差し指を向けてきた。
磨き抜かれた爪には透明なマニキュアが塗られていて、彼女の顔にはほんのり化粧が施されている。
その唇を薄紅色に染めているのは口紅か、それとも色付きのリップクリームか。
先生に怒られるギリギリのラインを彼女たちは攻めていた。
「……よく気づいたわね。さすが、普段から美容に気を付けてる人は違うわ」
サイドテールを指先で弄る。
シャンプーやリンスをワンランクアップさせ、風呂上がりに椿油を塗るなどして気を遣い始めた沙良の髪は以前より手触りも良く、艶やかさも増したのだが、その些細な変化も彼女たちなら気づいているかもしれない。
「その。一応私は秀司の彼女なわけだし。少しでも相応しい人間になりたくて……」
言っていて恥ずかしくなり、沙良は目を逸らした。
「い、いやまあ、私は美人じゃないから。多少身だしなみに気を付けたところで、石田さんたちみたいな生まれつきの美人に敵うわけないんだけど」
「え、うちら? 美人?」
「美人じゃない。みんな可愛いわ」
自分を指さす茉奈を見返して、真顔で頷く。
沙良は身長が167センチと女子にしては高めなので、大抵の女子は小さく、可愛らしく見える。
最初は体育館を半分に分けて男女別に授業を受けていたが、せっかくだから男女混合でやりたいという生徒たちの要望が通り、後半は男女混合で試合もした。
気になるあの子に良いところを見せようと張り切る男子、彼氏に声援を送る女子。
試合は常にはない盛り上がりを見せていた。
運動神経が良く見た目も良い秀司と大和の大活躍に、隣のクラスの女子たちもきゃあきゃあ大騒ぎ。
沙良もその波に乗り、声を出して秀司を応援したい気持ちはあったのだが、声を張り上げようとすると腹筋が痛むため心の中で声援を送った。
自分の試合のときはろくに動けず、沙良ばかり狙われて惨敗してしまい、パートナーの二組の男子には申し訳なかった。
「ちょっと頑張りすぎじゃない?」
「いいえ、文化祭は今週末だもの。いくら頑張っても頑張りすぎるってことはないわ」
沙良は後ろを振り返った。
文化祭が近づくにつれて文化祭用の道具は増え、教室の後方、約三分の一が道具で埋まっている。
おかげで生徒たちが座る席のスペースも普段より狭くなり、全体的に机が前へ寄っていた。
「私はクラス委員長なのに、クラスの準備をほとんど手伝うことなくダンスに専念させてもらっているからね。ステージで無様な姿を晒すわけにはいかないのよ」
びき、と背筋が音を立てるのを感じつつ、まっすぐに背筋を伸ばす。
つい癖で人差し指で眼鏡の縁を押し上げようとし、そこに眼鏡がないことに気づいて沙良は手を下ろした。
「にいんちょが頑張るって言うなら応援するけど。まあ、それはともかく?」
「そうそう、それはともかく?」
歩美は意味ありげに友人たちと顔を見合わせてから沙良の机に両手をつき、身を乗り出した。
ふわりと柑橘系の香りがする。
歩美がつけている香水の香りらしい。
「にいんちょ、コンタクトにしたんだね? イメチェンですか?」
「誰のためですか?」
「ずばり不破くんのためですか?」
三人の目は好奇心に輝いていた。
「……ええ。そうよ」
沙良の頷きに合わせてサイドテールが揺れる。
サイドテールには黄色いリボンが結われていた。
もちろん、このリボンを結ったのは彼女たちではなく、左手が治った沙良自身だ。
「ほほう?」
「恋の力は女を変えるねえ。眉毛も整えたし、その睫毛もビューラーで上げたっしょ?」
茉奈は顔を近づけてしげしげと沙良の顔を眺めた後、にやりと笑って人差し指を向けてきた。
磨き抜かれた爪には透明なマニキュアが塗られていて、彼女の顔にはほんのり化粧が施されている。
その唇を薄紅色に染めているのは口紅か、それとも色付きのリップクリームか。
先生に怒られるギリギリのラインを彼女たちは攻めていた。
「……よく気づいたわね。さすが、普段から美容に気を付けてる人は違うわ」
サイドテールを指先で弄る。
シャンプーやリンスをワンランクアップさせ、風呂上がりに椿油を塗るなどして気を遣い始めた沙良の髪は以前より手触りも良く、艶やかさも増したのだが、その些細な変化も彼女たちなら気づいているかもしれない。
「その。一応私は秀司の彼女なわけだし。少しでも相応しい人間になりたくて……」
言っていて恥ずかしくなり、沙良は目を逸らした。
「い、いやまあ、私は美人じゃないから。多少身だしなみに気を付けたところで、石田さんたちみたいな生まれつきの美人に敵うわけないんだけど」
「え、うちら? 美人?」
「美人じゃない。みんな可愛いわ」
自分を指さす茉奈を見返して、真顔で頷く。
沙良は身長が167センチと女子にしては高めなので、大抵の女子は小さく、可愛らしく見える。