ひねくれ王子は私に夢中
「秀司と並んで立てば月とすっぽんなのはわかってるんだけど……でも、何の手入れもしてないすっぽんよりも、甲羅を磨いたすっぽんのほうがまだマシかな、とか……いや何言ってるのかしら。私はいつから亀になったの」
「やーん、恋する乙女モードのにいんちょ可愛いー!!」
自分の言葉に混乱していると、歩美が突然抱き着いてきた。
「!?」
「ちょっと、不破くん、不破くん!! こっち来て!! にいんちょが可愛いこと言ってるから!! 不破くんのために可愛くなりたいって言ってるから!!」
歩美に頬擦りされている間に茉奈が秀司の元へ飛んで行った。
「ちょっと、呼ばなくていいわよ!!」
引き止めたいが、歩美が腕をがっちりホールドしているため沙良は身動きが取れない。
「何?」
茉奈に連行される形で秀司が来ると、歩美はそのときを待っていたかのようにぱっと抱擁を解いて秀司に向き直った。
「聞いてよ、にいんちょ、不破くんのためにコンタクトにしたんだって!! 眉毛を整えて睫毛も上げたし、爪も磨いたんだよ!?」
「そそそそんなことないわよ!! これはそう、気が向いたからイメチェンしてみようかって思っただけで!!」
本当によく見てるなと感心しながら、沙良は両手をさっと机の下に隠した。
「え、さっきと言ってること違うじゃん」
歩美が不満げに呟いたそのとき、斜め前から殺気を感じた。
「!!」
見れば、肩越しに振り返った瑠夏が凄い形相でこちらを睨んでいる。
あんたいい加減にしなさいよ――何よりも強くその表情が訴えていた。
(やばい、渾身の力を込めて顔面チョップされる!!)
「い、いやあの、……そう……です」
沙良は頬を赤く染めて俯き、消え入りそうな声で認めた。
「へえ。コンタクトにしたのって俺のためなんだ? 今日は綺麗だな、って思ったのは間違いじゃなかった」
秀司は沙良の右腕を掴んで机の下から強引に引っ張り出し、さらに指先を軽く握るように掴んだ。
その瞳が見つめているのは、昨日の夜に磨いた沙良の爪。
(き、綺麗って、綺麗って、ああそう、爪のこと! 爪のことね!? 危うく勘違いするところだったわ!!)
心臓がバクバクとうるさい。
「ありがと。沙良は眼鏡外したほうが可愛いよ。素顔のほうが良いって前から思ってたんだよね」
ぎゅっと沙良の手を握り、秀司はにっこり笑った。
「!!!?」
心臓が大きく飛び跳ねた。
握られた手をやけに意識してしまい、顔の熱がさらに上昇する。
「い、いえあの……そうですか、はい……」
顔を真っ赤にして、しゅうしゅうと頭から煙を噴き上げている沙良を、歩美たちがニヤニヤ笑いながら見ている。
(この空気、どうにか変えなきゃ。このままじゃ恥ずかしくて死んじゃう)
「そうだ、石田さんたちに渡したいものがあったの。ちょうどいい機会だからいま渡すわね」
沙良は秀司の手から自分の手を引き抜き、机の横のフックに掛けていた鞄から三つのビニール袋を取り出した。
透明なビニール袋で丁寧にラッピングされているのはカップケーキだ。
金曜日に沙良も瑠夏からカップケーキを貰ったのだが、美味しかったので自分でも作ってみようと思った。
「私の手が治るまで、毎朝髪を結ってくれてありがとう。これ、お礼。良かったら食べて。味は保証するわ」
沙良は三人にそれぞれカップケーキを手渡した。
「わー、ありがと!」
「にいんちょのケーキ食べてみたかったんだよねー。不破くんに渡してるケーキ、どれも美味しそうだったから。夢が叶ったよ」
里帆が手の中のカップケーキを大事そうに持ち、嬉しそうに笑う。
「やーん、恋する乙女モードのにいんちょ可愛いー!!」
自分の言葉に混乱していると、歩美が突然抱き着いてきた。
「!?」
「ちょっと、不破くん、不破くん!! こっち来て!! にいんちょが可愛いこと言ってるから!! 不破くんのために可愛くなりたいって言ってるから!!」
歩美に頬擦りされている間に茉奈が秀司の元へ飛んで行った。
「ちょっと、呼ばなくていいわよ!!」
引き止めたいが、歩美が腕をがっちりホールドしているため沙良は身動きが取れない。
「何?」
茉奈に連行される形で秀司が来ると、歩美はそのときを待っていたかのようにぱっと抱擁を解いて秀司に向き直った。
「聞いてよ、にいんちょ、不破くんのためにコンタクトにしたんだって!! 眉毛を整えて睫毛も上げたし、爪も磨いたんだよ!?」
「そそそそんなことないわよ!! これはそう、気が向いたからイメチェンしてみようかって思っただけで!!」
本当によく見てるなと感心しながら、沙良は両手をさっと机の下に隠した。
「え、さっきと言ってること違うじゃん」
歩美が不満げに呟いたそのとき、斜め前から殺気を感じた。
「!!」
見れば、肩越しに振り返った瑠夏が凄い形相でこちらを睨んでいる。
あんたいい加減にしなさいよ――何よりも強くその表情が訴えていた。
(やばい、渾身の力を込めて顔面チョップされる!!)
「い、いやあの、……そう……です」
沙良は頬を赤く染めて俯き、消え入りそうな声で認めた。
「へえ。コンタクトにしたのって俺のためなんだ? 今日は綺麗だな、って思ったのは間違いじゃなかった」
秀司は沙良の右腕を掴んで机の下から強引に引っ張り出し、さらに指先を軽く握るように掴んだ。
その瞳が見つめているのは、昨日の夜に磨いた沙良の爪。
(き、綺麗って、綺麗って、ああそう、爪のこと! 爪のことね!? 危うく勘違いするところだったわ!!)
心臓がバクバクとうるさい。
「ありがと。沙良は眼鏡外したほうが可愛いよ。素顔のほうが良いって前から思ってたんだよね」
ぎゅっと沙良の手を握り、秀司はにっこり笑った。
「!!!?」
心臓が大きく飛び跳ねた。
握られた手をやけに意識してしまい、顔の熱がさらに上昇する。
「い、いえあの……そうですか、はい……」
顔を真っ赤にして、しゅうしゅうと頭から煙を噴き上げている沙良を、歩美たちがニヤニヤ笑いながら見ている。
(この空気、どうにか変えなきゃ。このままじゃ恥ずかしくて死んじゃう)
「そうだ、石田さんたちに渡したいものがあったの。ちょうどいい機会だからいま渡すわね」
沙良は秀司の手から自分の手を引き抜き、机の横のフックに掛けていた鞄から三つのビニール袋を取り出した。
透明なビニール袋で丁寧にラッピングされているのはカップケーキだ。
金曜日に沙良も瑠夏からカップケーキを貰ったのだが、美味しかったので自分でも作ってみようと思った。
「私の手が治るまで、毎朝髪を結ってくれてありがとう。これ、お礼。良かったら食べて。味は保証するわ」
沙良は三人にそれぞれカップケーキを手渡した。
「わー、ありがと!」
「にいんちょのケーキ食べてみたかったんだよねー。不破くんに渡してるケーキ、どれも美味しそうだったから。夢が叶ったよ」
里帆が手の中のカップケーキを大事そうに持ち、嬉しそうに笑う。