ひねくれ王子は私に夢中
蓮華の花言葉
チャイムが鳴って先生が退室し、昼休憩に入るとすぐに沙良は水色のランチバッグを持って席を立った。
歩くたびにダンスで酷使してきた膝の関節や脚の筋肉が痛むが些末事だ。
「秀司」
近づいて呼びかけると、化学の教科書やノートを片付けていた秀司は視線を上げてこちらを見た。
「何?」
表情は無い。
思わず怯みそうになったが、沙良は負けじと一歩足を踏み出して言った。
「お昼一緒に食べない?」
普段沙良は瑠夏と食べているが、それは沙良が弁当を持って彼女の席へ行くから一緒に食べるという流れになっているだけだ。
沙良が彼女の元へ行かなければ瑠夏は一人で勝手に昼食を取るだろう。
来るもの拒まず去るもの追わず。
他人と無理に慣れ合おうとせず、我が道を行く瑠夏のスタイルを沙良は好ましく思っていた。
「大和と食べるから」
秀司の返答はそっけなかった。
「そう……」
『ごめん』の一言もつけてもらえなかったことが沙良の胸を痛ませた。
秀司からこうもはっきり拒絶されるのは珍しく、これまでどれだけ彼の優しさに甘えてきたのかを思い知る。
(私って、秀司に甘えっぱなしだったんだな……自分から誘えば秀司は乗ってくれるはずだ、なんて、とんだ思い上がりだわ)
沙良はカップケーキの入ったランチバッグをぎゅっと握った。
(時間が経てば秀司も少しは機嫌を直してくれるかも……放課後まで待っても渡すタイミングが見つからなかったら、これは私が食べよう)
「無理言ってごめんね」
すごすごと引き下がろうとしたそのとき、隣でその様子を見ていた大和が言った。
「秀司。俺のことは気にしなくていいから花守さんと食べなよ。せっかく彼女が誘ってくれたんだ、そこは素直に乗るのが男ってもんだろ」
隣を見れば、大和は『全くこいつらは仕方ないなあ』という顔で苦笑している。
その表情からして、大和もさきほどのやり取りを遠くから見ていたらしい。
「『俺以外の奴にケーキを作らない』って約束してたなら問題だろうけどさ。そもそも花守さんは秀司からそんなこと言われてないんだろ?」
大和と秀司の顔を見比べつつ、恐る恐る頷くと、秀司は無表情を崩して不機嫌そうな顔をした。
「言わなくてもわかるだろ、それくらい」
「! わからないわよ!? 男子に渡したならともかく石田さんは同性じゃないの、そんな嫉妬しなくてもいいじゃない!」
「あっそう。じゃあこれから沙良に渡すお菓子、クラスの男子全員に配るから」
「え、マジで? やった、タダで高級菓子が食える」
話を聞いていたらしい――最も、この距離なら聞こえていて当然なのだが――山岸が振り返り、にんまり笑って自身の椅子の背もたれに片腕を乗せた。
「それはダメ!!」
沙良は慌てて言った。
歩くたびにダンスで酷使してきた膝の関節や脚の筋肉が痛むが些末事だ。
「秀司」
近づいて呼びかけると、化学の教科書やノートを片付けていた秀司は視線を上げてこちらを見た。
「何?」
表情は無い。
思わず怯みそうになったが、沙良は負けじと一歩足を踏み出して言った。
「お昼一緒に食べない?」
普段沙良は瑠夏と食べているが、それは沙良が弁当を持って彼女の席へ行くから一緒に食べるという流れになっているだけだ。
沙良が彼女の元へ行かなければ瑠夏は一人で勝手に昼食を取るだろう。
来るもの拒まず去るもの追わず。
他人と無理に慣れ合おうとせず、我が道を行く瑠夏のスタイルを沙良は好ましく思っていた。
「大和と食べるから」
秀司の返答はそっけなかった。
「そう……」
『ごめん』の一言もつけてもらえなかったことが沙良の胸を痛ませた。
秀司からこうもはっきり拒絶されるのは珍しく、これまでどれだけ彼の優しさに甘えてきたのかを思い知る。
(私って、秀司に甘えっぱなしだったんだな……自分から誘えば秀司は乗ってくれるはずだ、なんて、とんだ思い上がりだわ)
沙良はカップケーキの入ったランチバッグをぎゅっと握った。
(時間が経てば秀司も少しは機嫌を直してくれるかも……放課後まで待っても渡すタイミングが見つからなかったら、これは私が食べよう)
「無理言ってごめんね」
すごすごと引き下がろうとしたそのとき、隣でその様子を見ていた大和が言った。
「秀司。俺のことは気にしなくていいから花守さんと食べなよ。せっかく彼女が誘ってくれたんだ、そこは素直に乗るのが男ってもんだろ」
隣を見れば、大和は『全くこいつらは仕方ないなあ』という顔で苦笑している。
その表情からして、大和もさきほどのやり取りを遠くから見ていたらしい。
「『俺以外の奴にケーキを作らない』って約束してたなら問題だろうけどさ。そもそも花守さんは秀司からそんなこと言われてないんだろ?」
大和と秀司の顔を見比べつつ、恐る恐る頷くと、秀司は無表情を崩して不機嫌そうな顔をした。
「言わなくてもわかるだろ、それくらい」
「! わからないわよ!? 男子に渡したならともかく石田さんは同性じゃないの、そんな嫉妬しなくてもいいじゃない!」
「あっそう。じゃあこれから沙良に渡すお菓子、クラスの男子全員に配るから」
「え、マジで? やった、タダで高級菓子が食える」
話を聞いていたらしい――最も、この距離なら聞こえていて当然なのだが――山岸が振り返り、にんまり笑って自身の椅子の背もたれに片腕を乗せた。
「それはダメ!!」
沙良は慌てて言った。