ひねくれ王子は私に夢中
「……あのね、秀司」
 秀司は沙良の呼びかけに応じて目を合わせた。

「変なことを言うようだけど。私、ずっとヒロインにはなれない人間なんだと思ってたの」
「何それ。どういうこと?」
 意味がわからないらしく、秀司は怪訝そうな顔をした。

「ええと。そんな大した話じゃないんだけど……」
 どうにも気まずくて、沙良は目線を落とし、サイドテールを弄りながら語った。

「……小学生のときに、劇でシンデレラをやることになって。私も大半の女子の例に漏れず、昔はプリンセスに憧れたりしてたものだから、主役のシンデレラに立候補したのよ。そしたらクラスで一番可愛い子も立候補して。投票でその子がやることに決まったんだけど、誰も私に投票してくれなくてさ。あれはちょっと惨めだったな……」
 はは、と乾いた笑みが零れる。

 もしあのとき瑠夏が同じクラスだったら友達のよしみで自分に投票してくれただろうが、仮定の話をしたところで過去の事実は変わらない。

「その後クラスの子たちが言ってるのを聞いちゃったのよね。沙良ちゃんは悪役の方が合うとか。シンデレラには全然向いてない、もしシンデレラとして登場したら皆がガッカリするとか。まあ要約すれば『身の程知らず』ってことよ。結局私は意地悪な義姉役をやったんだけど、はまり役だって皆から褒められたもの」

 秀司は無言。
 重く沈んだ空気を和らげるべく、道化と化して沙良は笑った。

「仕方ないわよね、私ってほら、ツリ目だし。親からも『あんたは妹と違ってきつい顔してるから意識して笑うようにしなさい』って言われてたし。友達からも、みんなからもそう言われてたのに。なのになんであんな自信満々にシンデレラをやれると思ったのかしら。本当に馬鹿よね――」

「馬鹿で見る目がないのは沙良のクラスメイトだろ。こんなに可愛いのに」

 いつものからかうような笑みはなく、真剣な表情で言われたものだから、心臓が跳ねた。

「もし俺がそのときその場にいたなら、迷わず沙良に一票入れてたよ」

「…………」
 その言葉は、こっそりトイレで泣いたあの日の幼い自分を救ってくれた。

 深く深く、心の奥底に沈殿していた負の感情が昇華されたような気がする。

「……ありがとう」
 涙ぐんだ目を隠すように、沙良は頭を下げた。

「大げさだな。当たり前のことを言っただけなんだから、礼なんか言わなくていい」
「………うん」
 温かい言葉に胸がギュッと痛くなり、沙良は目元を擦った。
 俯いて水を飲み、上目遣いに秀司の様子を窺う。
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