ひねくれ王子は私に夢中
  ◆    ◆    ◆

 秀司と沙良がいなくなった三階廊下、掲示板前にて。

「いやー、見せつけてくれたな」
「花守さんも凄いこと言うよね。『不破くんほど格好良い男なんて宇宙に存在しない』なんて。もう好きですって告白してるようなものじゃん。聞いてるこっちが恥ずかしくなるような台詞を照れもせず、真顔で言い放つんだから、ほんと凄いわ」

「不破くん、嬉しそうだったね」
「ねー。他人にはあんな顔しないのにね」

「本来なら500点満点かぁ。不破の頭の中ってどうなってんだろ。夏休みに遊び呆けてすっかり気を緩ませた生徒にガツンと喝を入れるためだろうけど、今回のテストめちゃくちゃ難しかったよな?」

「全く勉強してるようには見えないのにな。毎回当たり前みたいな顔で一位取っちまうんだから、花守も大変だよなあ。同情するわ」

「あー、それなんだけど」
 控えめに手を挙げて発言したのは、秀司の幼馴染であり親友でもある戸田大和《とだやまと》だった。

「秀司って何の苦労もせずにさらっと毎回一位取ってるように見えるだろ?」
「うん」
「違うんだ。プライドが高くて人に努力してる姿を見せるのが嫌いなだけで、実はあいつ、裏で超~勉強してるから。夏休みも一緒に花火大会行かないかって聞いたら『勉強するから無理』ってソッコー断られたし」
「え、そうなの?」
「ああ。あいつはこれまでずっと真面目に勉強してたけど、花守さんに勝負を申し込まれた後の勉強量は桁違いだよ。全ては花守さんに『凄い』って思われたい一心なんだろうな。男としてのプライドってやつ」
「えー、そうなんだ」
「知らなかった。天才だとばかり思ってたけど、並々ならぬ努力でそう見せてるだけなんだね」
「全てはにいんちょのため、か。いやあ、恋の力は偉大だねえ」
「早く付き合えばいいのにね」
「じれったいよなー」
 その場にいる生徒たちは口々に言い合い、頷き合った。

 秀司のファンは大勢いるが、本気で彼を射止めようとする女子はいない。

『開校以来の秀才』と呼ばれた秀司に白昼堂々沙良が勝負を挑んだ逸話は広く浸透しており、誰もが彼に相応しいのは沙良しかいないと思っているからだ。

 互いに好意を抱いているのは一目瞭然。

 横恋慕など野暮の極み。

 そんな空気の中、生徒たちは生温かく二人を見守っているのだった。
< 6 / 94 >

この作品をシェア

pagetop